第5話 将来有望な生徒
イッテツさんに作ってもらったのは、何も教室だけじゃない。
こと作る、ということに関しては、彼は何でも作れる。
作れないものと言えば、剣や槍などの武器と、杖といった魔法武器くらいらしい。
ただこれらは弟であるニノテツさんとサテツさんが作れるとか。
そんなわけで、俺はイヴを連れて教室の裏手に来ていた。
土地をイッテツさんに整備してもらい、魔法用の的も備え付けられている。
ちょっとした広場のようになっていて、体を動かすにはもってこいの場所だ。
「……ちなみに剣を扱ったのも、なんとなくか?」
訪ねると、イヴは頷いた。
「はい、直感で一番合っていると、そう思いました」
「なるほど」
なら、とりあえずは剣で良いな、と考える。
イヴに指示を出し、少しだけ離れてもらう。
広場の真ん中で距離を取って向き合い、対峙。
「いいぞ、本気で打ってこい」
「……で、ですが」
急に斬りかかれ、と言われてイヴは戸惑いの表情を浮かべた。
とはいえイヴは六級冒険者で、俺は実力的には準二級。その間には三つの差がある。
この三つの差というのはなかなかに大きい。
「大丈夫だから、いいからやれ」
イヴも意を決したのか、腰の直剣を鞘から抜き、構えた。
俺もそれを見て腰から刀を外し、抜けないように鞘を固定。
「いき……ますっ!」
戸惑いつつも前に出るイヴ。
白い髪が風に浮かされ、肉薄してくる。
そして間合いに入ったところで、上からの斬り下ろしが見えた。
「ふーん」
俺はそれを力任せに鞘に納めたままの刀で弾く。
しかし予想内だったのか、イヴは間髪を入れずに追撃を入れてくる。
それなりに強く弾いたつもりだったが、イヴは対応してきた。
次々と打ち込まれるイヴの剣の一撃一撃を、俺は正確に見て弾き返す。
段々とどれくらいの強さで返せば良いのか分かってきた頃には、イヴの額にも汗が浮かんでいた。
「くっ……」
ただ返すのではなく、イヴの手元が少し狂うものの、剣が弾かれるほどではない絶妙な力で返し続けている。
それを何度も何度も、打ち込まれるたびに、必ずその力で返した。
今はもう、イヴが余裕のない様子で剣を振るっているのが見て取れる。
「筋は悪くねえな」
「これがっ……っ……二級冒険者っ……」
「俺は実力は準二級だぞー」
やや力を込めて打ち込まれた剣を返す。
これで剣を弾き飛ばせる、そう思ったが。
「っ!」
「おお?」
イヴの手から剣は離れなかった。
一瞬のうちに、俺の返しの衝撃を体を使って逃がしたのを目が捉えた。
(……へえ、ギルドで、態度だけデカ男に押されたときも衝撃を逃がしてたし……体の使い方が上手いな)
そう感心したとき。
「強斬!」
イヴが叫び、戦技を使用した。
剣が淡く光り、強力な一撃が頭上へと降ってくる。
「おお、良い一撃だ。悪くねえ」
渾身の一撃を片手で軽々と受け止め、威力を褒めた。
『強斬』は剣士の初歩戦技。
世の剣士のほとんどが覚えている戦技だが、その強さは人によってまちまちだ。
イヴの『強斬』は、六級冒険者としてみれば中の上、といったところか。
(才能があるな……これで使えない、ってのはどういうことだ?)
態度だけデカ男が言っていたことに疑問を持ちつつも俺は少しだけ下がり、鞘付きの刀を左の脇腹へと持ってくる。
左手で鞘を掴むのではなく添えるようにして、形だけでも居合の真似をした。
「しっ!」
足の踏み込みと同時に、抜刀。
はできないので、鞘のままで刀を振り抜いた。
刀の初歩的な戦技『居合い抜き』。その一撃を、イヴの腹に直撃させる。
「うぐっ!」
力のままに振り抜けば、イヴは苦悶の声を漏らして体重を前に。
そして膝をつき、剣を落とした。
イヴの様子を確認し、俺は構えを解いて刀を肩に持ってくる。
そしてトントンと肩で刀を遊びながら、蹲る生徒に声をかけた。
「そこまで悪くねえ。思った以上に筋がいい。剣の打ち込み方も様になってたし、戦技もそれなりに威力があった。六級冒険者にしては上出来だ。個人行動が多くて怪我をしていないのも……まあ運が良いのもあるかもしれないが、それなりに実力があるからだな」
「はあ……はぁっ……ありがとうっ、ございますっ……ふぅーっ」
息を吐き、イヴは体勢を立て直す。
そのまま剣を鞘に納め、頭を下げた。
(……それなりに強く打ったんだが、もう回復したか)
綺麗に入ったはずだが、なかなか体の耐久性も高いらしい。
これはかなりの当たりを引いたかもしれない。
一方で、なぜここまで戦えるイヴが使えないという評価を下されるのか、そのギャップを不思議に思ったとき。
「あの……質問をしても良いですか?」
「んあ?」
「先生は、戦技を最後に使われました。ですがその……私の知っているものと違う気がしたのですが」
「ああ、そりゃそうだろ。つーか、いちいち戦技の名前を叫ぶなよ。戦ってる時も知能のある相手だとそれだけで見抜かれるし、時には魔物を奇襲をする時だってある。その時に『強斬!』なんて言ったら、バレるだろうが」
つーかそもそも、戦技名を叫ぶってちょっとダサくないか? と個人的には思う。
短ければまだいいけど、長いと台無しだ。
『超!流星斬!』なんて俺は叫びたくない。いや、そんな戦技はないけど。
なんて馬鹿馬鹿しいことを考えていたものの、イヴは首を横に振った。
「す、すみません、それに関しては以後気をつけます。で、ですが聞きたいのは、先生の戦技そのものについてです。『居合抜き』の戦技は何度か見たことがありますが、その……少し違うといいますか」
「ああ、そういうことか。つーかお前、いい目も持ってんのか。すげえな」
「ありがとう……ございます?」
イヴ自身は気づいていないようだが、体の使い方に、目、どちらも冒険者に欲しい才覚を既にいくつか彼女は発揮している。
これからが楽しみだ、と思い、俺は不敵に笑った。
「じゃあこれから教えてやるよ。戦技ってのをな」




