表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第3生徒 かつての自分の影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/67

第58話 認めさせるための、提案

 森の中を、駆ける。

 イヴやムゥの時とは違い、速さに重きを置いた移動。

 矢が魔物に突き刺さり、その身体を灰へと変えていく。


「いいぞ! そのペースで行け!」

「はいっ!」


 弓を持ったルイを激励し、その後を着いていく。

 己の武器を決めた後、数日の模擬戦や訓練を終え、俺たちはすぐに魔物の討伐へと移った。


 今まで一度も触れてこなかったルイの弓の熟練度はGランク。

 それが今はFランクまで上がっている。


 未経験のGから駆け出しと言われるFに上がってすぐに、魔物討伐を授業に組み込んだ。

 ルイの実力をさらに向上させるために、戦闘の経験値は欲しい。

 だから今こうして、俺の持っている敷地で、かつ魔物が比較的弱い場所の討伐をやらせている。


「そこっ!」


 飛来した矢が魔物の首を正確に捉え、続けざまに放った矢が背中を捉えた。

 二本の矢をもって魔物は絶命、灰へと帰る。


「いいぞ!」


 ルイが弓に向いているのは間違いないが、他にも強みがあった。

 まず、小柄な体格。戦士としては欠点になり得るが、弓使いならば機動力に貢献してくれる体格は嬉しい。


 次に、弓を構えたときの並外れた集中力。

 若い連中は恐ろしい勢いで実力が伸びるのが常だが、ルイの場合は集中力がそれを後押ししている。

 比較的短い期間でGからFに上がったのもそのためだろう。


 最後に、目。彼自身まだ気づいていないが、よく見ているし、よく狙えている。

 もう少し成長すれば、ルイの一番の強みになるかもしれない。

あの目があれば、少し面白いことができそうだ、とも思っていた。


 そう、今のルイに、妨げとなる壁は存在しない。


「見えたっ!」


 だからこそ、弓使いの戦技ですら使いこなせる。

 戦技『風迅ふうじん』。

 風を纏わせ、螺旋回転が加わった矢が、魔物の背中から腹部までを一気に貫通。

 初歩中の初歩の戦技ながら、再現した『風迅』をもって、またしても魔物を討伐した。


 ルイは周りを確認し、近くに魔物がいないことが分かると小休憩とばかりに弓を下げる。


「いい感じだな。討伐のペースも上がってきている。少し苦戦するかもしれないが、やや強い魔物のいる場所に行ってもいいかもしれないな……正直、ここまでハイペースで熟練度は上がると思っていなかったが」

「才能がある……ということなんでしょうか?」

「今のところは、だな。ただ、GからFならこのくらいのペースで成長する奴も少ないが居る。それに……ここから先は成長が緩やかになる可能性だってある」


 むしろ緩やかになるどころか爆発的に伸びたイヴとムゥが異常なんだが。

 二人を思い浮かべつつ、あまり希望的な観測はしないようにルイに釘を刺した。


「そうですよね。まだまだ僕の弓の腕はFランク。アンナ達とはまだまだ差がある。埋めるために頑張らないと」

「無理は禁物だぞ」

「もちろんです。先生に言われた通りに夜はしっかりと休んでいますし、自主練もしていません」


 じっと目を見てみれば、それが嘘ではないとなんとなく分かった。

 それならいい、と俺は頷く。


「じゃあ再開だ。さっさと狩り終えて、教室に戻るぞ」

「はいっ!」


 こうして俺たちは、また森を進み始めた。










「あの、一つ聞いてもいいですか?」


 ルイと魔物狩りを終えて戻ってきて、そして訓練も終えた頃。

 そろそろ日も落ちてしばらく経つし、今日はこのくらいにするかと思ったところで、俺たちの元にやってきたミルキーに声をかけられた。


 その後ろにはアンナ、ユウリィ、そしてイヴの姿もある。


「なんだ?」


 答えると、視界の隅で訓練していたルイが手を止めてこちらへと寄ってくる。


「……ルイの方針……なんですけど……剣から弓に変えましたよね?」

「ああ」


 チラチラとルイを見ながら言うので俺もルイの方を見る。

 ひょっとして言っていないのか? と目線で尋ねると、ルイは首を横に振った。

 どうやら伝えてはいるようだが。


「どうして変えたんですか?」

「聞いていないのか?」

「聞きました……剣はもう限界だったからって。でもそれで弓って……今まで全然やってなかったものじゃないですか」

「そうだが……ルイが覚悟を決めて、俺もそれを承認している。なんの問題がある?」

「っ……」


 ミルキーは拳を強く握りしめている。

 何か言いたいけど言葉にしていいか迷っているようだったから、続きを促した。


「なんだ? 言いたい事があるなら言え。ああ、なんだったら敬語もいらねえぞ」

「……お言葉ですけど、あなたがルイを唆して弓の道へ進ませたんじゃないですか? これ以上は剣の訓練が自分にはできないから」

「ミルキー」

「イヴ、いい」


 ミルキーの言葉にイヴは前に出ようとしたが、それを目と言葉で制した。

 こういうのは吐き出させた方がいい。気持ちを燻ぶらせたところで意味はない。


「ああ、ルイの剣はもう限界だった。これ以上伸ばすのは俺には無理だ。だから新しい道として弓を提示した」

「……だからってルイからEランクの剣を取り上げて、経験がない弓にして……弓の道は本当に剣より先があるの?」

「分からねえ。だが、手応えは感じてる」

「手応えって……」


 キッと、強く睨まれる。


「何よそれ……それでダメだったら次はまた別の道を歩ませるの!? 」

「……ああ、ルイとはそれで話がついてる。もし弓がダメだった場合は俺が責任をもって他の道を提示する。もちろん、その場合は金も取らねえ」

「お金の問題じゃないでしょ!」

「……そうだな」


 ミルキーが何に怒っているのか理解し、正直に認める。

 金の問題じゃない。ルイのこれからの時間を消費することになる。


「それでも、ルイはその道を選んだ。先がない剣じゃなく、他の道を。……まあ、お前からすりゃ俺のことが信じられないか」

「……ええ、信じられないわよ」


 そりゃそうだろう。指導しているものの、これまでルイの成長限界を見抜くのに時間が掛かったのは事実。

 その上で出てきたのがこれまで経験のない別の道であるなら、それでいいのかと思うのも分かる。


 ただ、成長限界を見抜くのに時間を使ったことや弓の道を詳しく説明してもミルキーが納得するかどうか。

 と思ったところで、イヴのミルキーを見る視線がさらに険しくなったのを悟った。


「イヴ、やめろ」


 睨むイヴに再度警告。

 俺が丁度イヴの名を出したからか、ミルキーはそこにも言及してくる。


「イヴ様はあんたの事をすごい先生だって言うわ。でも……正直、イヴ様ほどの才能があるなら誰が教えても実力者になっていたはずよ」

「……そうだろうなぁ」


 これに関してはぐうの音も出ない正論だ。

 イヴの才能は常軌を逸している。イヴだけじゃなくムゥもだ。

 こいつらは俺が育てたというよりも、勝手に育ったという感覚が強い。

 誰が教えても今の実力にたどり着けたという言葉は、的を射ている。


「だから私は……あんたがイヴ様が言うほど、すごい教師だとは思えない」


 まっすぐと俺を見るその視線には、疑惑の色が灯っている。


「……別に――」

「ミルキー」


 さて、どうするかと思っているとき、会話に割り込んできたのはルイだった。


「まず、剣を捨てたのも弓を選んだのも僕の意志だ。そこに先生の助力はあっても、唆されたわけじゃない。いや、別に唆されていたとしても、それでも構わないと僕は選択したんだ。その結果ミルキーたちに少し迷惑をかけるかもしれない。それは悪いと思っているけどね」

「…………」


 突然のルイの言葉に、ミルキーは目を見開いて絶句していた。

 彼女だけではなく、アンナやユウリィも驚いた表情を浮かべている。


「次に、僕は先生のことを信じている。お金のことしか考えていない、すごい教師じゃないってミルキーは言うけど、僕はそうは思わない。……その一点だけは、ミルキーと相容れない」


 視界の端で、イヴが驚愕の表情を浮かべている。

 それが何でか分からなかったものの、その顔をじっと見て、そして怒るルイ、戸惑うミルキー、アンナ、ユウリィを見て。

 ふと、あることを思い浮かべた。


 腕を組み、少し考える。正直言ってかなりマズい状況ではある。

 ルイは今後パーティとして行動するが、このままじゃ不和が残る。


 一方で、確かに話が少しこじれているものの、この場にいる全員の思いはなんとなく読み取った。

 ならこの状況を解決し、かつ全員の心のつっかえを無くすには。


 じっと考えて数秒。

 妙案を思いつき、俺は口を開いた。


「俺が教育者として立派かどうか、そういったことは一旦置いておくとして……ミルキー、今の話から考えるに、ルイがお前達と共に戦い、剣を使用していた時よりも優れた働きができると予感できれば、お前は納得するんだな?」

「え? ……いや、まあ……それはそう……だけど」

「ルイが剣を使ってた頃以上にパーティに貢献できれば文句はないんじゃないか? それなら弓を使うという道だって納得できるだろ。それともなんだ? ルイが覚悟を決めて自分の意志で進むって言っているのに、お前の身勝手でそれを遮るのか?」


 さっきの会話でミルキーの言葉の裏にどういった感情があるかの察しはついていた。

 こいつはルイを案じている。きっとルイがこれまで苦しんできたことを知っているからこそ、正しい努力で報われて欲しいと強く思っているんだろう。

 だからその部分を、意図的に刺激した。


「……私は……そんなこと」


 俺から一時的に視線を外したミルキーを見て、ここだと確信する。


「なら、弓を使うルイがお前たちと十分に戦えることを証明しよう。一か月後、お前たち四人で、ある相手と戦ってもらう。ああ、ただまあ5日くらいは連携に慣れておくために戦闘の練習はしてもらうから一ヶ月と少し後だがな」

「……一ヶ月? 長くない?」


 しめた、と俺は思い、努めて冷静に返す。


「当たり前だろ。お前たちの相手はイヴにやってもらうんだから」

「「「「……え?」」」」


 ルイ達四人が、全く同じ反応を返したのを見て、畳みかけるように続ける。


「もちろん剣を使うイヴなんかと戦わせたら話にならねえからな。あまり使え慣れていない武器……イヴ、お前槍の熟練度は?」

「全く経験がないのでGです」

「じゃあそれでいいか。……一か月後、お前たちは槍を使ったイヴと戦ってもらう。もちろんイヴは魔法禁止だ。一撃入れられればお前たちの勝ち。これならどうだ?」

「……イヴさん相手に……私たちが」


 全く熟練度の育っていない武器で戦うなら、どう考えても四人が勝つ。

 一撃入れるだけでいいならなおさらだ。


 それが普通だが、相手がイヴなら話は変わってくる。

 剣で世界でも指折りの実力者になったイヴなら、武器を変えたとしても敵としては強大。

 一撃を入れることすら難しいのは想像に難くない。


「イヴ、お前、ルイ達と戦うまで槍を使うの禁止な。……そうだな、前日に一日だけ教えてやる」

「せ、先生に教えていただけるのですか!? やります!」

「分かった分かった」


 目を輝かせるイヴに苦笑いしながら答え、退路を奪ったミルキーに問いかける。


「どうだ? この条件なら問題ねえだろ? まあイヴの成長速度は目を見張るものがあるが、一気に腕を上げそうならいい感じのところで止めるさ。……下手したらマジで一日で俺と打ち合えるかもしれねえしな」


 天才というものは恐ろしい、それを思い出して、俺は遠い目をしながら最後は小さく呟いた。


「それに、剣を使わないとはいえイヴと良い勝負ができるなら、それが一番いいんじゃねえか? なあ、ミルキー?」

「っ!?」


 ミルキーとしても、イヴと戦えることは嬉しいことな筈。

 その部分も刺激する。彼女の背後にいるアンナとユウリィも目の色が変わった。


「よし、決まりだな。それじゃあ今から一か月後、ここに集合してそこから五日間の合同練習、そして一日の休みを挟んでイヴとの模擬戦だ。いいな?」

「……分かったわ」


 やっと頷いたミルキーを見て、俺は内心でほくそ笑んだ。

 全て上手くいった。


 ミルキーのルイの指導に対する不満をパーティとして弓使いのルイが使い物になるか否かという論点にずらし。

 証明するための相手として、憧れであるイヴを指名。

 そして最後には、イヴが相手だということを利用してルイを強化する時間を最大限稼いだ。


 実質一ヶ月強。

 この期間で、ルイを強くしてそれをミルキー達に示し、認めさせる。

 俺の頭の中は、今のルイの成長速度ならそれが可能だと導き出していた。


(……それはそれとしてだ)


 星の牙の向こう、じっとミルキーを見るイヴを見てこの後すぐにやらなければならないことを理解する。


(とりあえずイヴを捕まえて、この後の計画の裏を共有しねえとな。あいつも思うところはあるだろうが、この一か月は今まで通りに教えてやってくれねえと……)


 この後、イヴとは二人きりで話をして、俺の考えていることを共有した。

 反論が出るかと思ったが、「先生が言うことは絶対ですので」という言葉を返してくれたのでとりあえずは大丈夫そうだ。


『ただ、もし模擬戦の時にまだ先生をすごいと思ってないのなら……そのときは……』


 そんな不穏なことを言っていたが、絶対にやめて欲しいものである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ