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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第1生徒 足手まといの冒険者少女

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第4話 生徒契約

 イヴを連れて俺の教室へと戻ってくる。

 作ってもらった教室はこじんまりとした小屋だから、中もそこまで広くはない。


 大きな家具だと、やや大きめのタンスや本棚がいくつかと、中央に大きなテーブルが一つ。

 そして二つずつ計四つの椅子があるくらいだ。


 我ながら少しみすぼらしい教室だとは思ったが、イヴは何も言わずに指定された椅子に座った。

 ただ物珍しいのか、きょろきょろと教室の中を見渡している。


「さて、始めるか」


 イヴの向かいに腰を下ろす。

 昔はこんな風に生徒に指導していたな、なんてことを思い出した。

 といっても、この世界に来る前の、それこそ企業勤めをするよりも前の話だが。


「一応サトリアから話は簡単に聞かせてもらったが、もう一度聞かせてくれ。お前は気づいたらカーネリア領にいて、その後に兵士を志願した。けれど不合格になり、冒険者の道を志す。その後あまり上手くいかずに西へと流れて、このエステルへたどり着いた。ここまでの期間は半年程度と聞いているが、合っているか?」

「合っています。ただ半年ではなく、八か月ですが」

「おーけーおーけー。で、お前は強くなって何をしたい? どうなりたい?」

「……私は、人を助けたいんです」


 まっすぐな視線でイヴは答えてきた。その瞳は澄んでいて、嘘はないように思える。


「さっきのギルドの時も言ってたな。なんでだ? 何か理由があるだろ?」

「……自分にもわかりません。ただそうしなくてはならないと、そう強く思うといいますか」

「……へえ」


 殊勝な心がけだな、と感心した。

 こういう理由は上っ面だけの場合が多いが、イヴの場合は本心のように見える。


「カーネリアに居た以前の記憶はないのか?」

「はい」

「じゃあ、イヴという名前は誰につけてもらった?」

「……自分の名前がイヴだと、なぜか覚えていました」

「それだけ覚えていたのか? 常識的なことは?」

「この世界がどういったところかや、魔法などに関してはなんとなく。ですが冒険者などについては覚えていませんでした」


 回答を聞いて俺は腕を組む。


(この世界のことを覚えているなら……俺と同じ転生者……ってわけじゃなさそうか)


 記憶喪失という特徴から、その可能性を考えていた。

 転生時に何らかの原因で記憶を失ってしまったのではないか、と。

 特にイヴというのは、俺のいた地球では始まりの女性に付けられた名前だ。


 とはいえイヴの容姿は日本人には到底見えない。

 名前もたまたま被っただけかと、そう考えた。


「まあいい、大体分かった。……そういえば、ついギルドでは言い忘れていたんだが、俺の授業は金がかかる」


 実際には、ギルドで言うつもりだったが、隣に座った受付嬢が金の話をするとうるさそうだったので、ここまで話さなかった、だ。

 もしあの場で料金の話をしたら、あいつは色々と文句を言っていたに違いない。


「あまり手持ちがないのですが……これで足りるでしょうか?」


 イヴはステータスプレートを差し出してくる。

 そこに一切の躊躇はない。

 先ほどに続いての奇行に俺はため息をつきつつも、それを受け取った。


「……サトリアも言っていたが、プレートは簡単に人に見せるな。こいつは冒険者の重要な情報だ。命や武器の次に大事なものだと思って扱え」


 魔物が溢れかえるこの世界で、冒険者は殺伐とした集まり。

 パーティという集団はあっても、それは金で結びついた繋がりでしかない。

 各国のように手を取り合って、なんていう綺麗ごとは、冒険者には当てはまらない。


 だからこそ自分に関する情報は隠す必要がある。

 それを知られれば、悪意を持って害してくる輩だっているかもしれないのだから。


「それは先生にもでしょうか?」

「俺は別だ。先生だからな」

「かしこまりました」


 再度提示されたイヴのステータスプレートに目を落とす。

 すでに表示状態になっているようで、武器や魔法の熟練度の他にも、名前などが全て表示されている。


 そして、『所持金』の部分を見て、眉をひそめた。


「……半年間冒険者として活動してた割にはカツカツだな。お前、まさかとは思うがこれまでも依頼の報酬をパーティメンバーに渡してたのか?」

「…………」


 返ってきたのは沈黙だったが、それが答えだった。


「図星か。サトリアも言っていたが、やめておけ。一度でも許せば、ただの便利な囮や都合の良い人員とみなされてカモにされるぞ」

「い、いえ……私が弱いのがいけない、と思いますので」

「……お前なぁ」


 だいぶ重症だ。

 大きくため息を吐き、もう一度ステータスプレートの所持金欄に目を落とす。

 少ないものの、六級冒険者から金を取れるとは最初から思っていない。

 あくまでも期待しているのは将来の稼ぎで、今は別にいい。


俺は紙とペンを取り出し、そこに事前に考えていた金額を書き込む。


「金に関しては……そうだな……このくらいの金額だ。今は払えないだろうから、出世払い――将来的に払ってもらうってことでいい」

「はい、了解しました。今、一部をお支払いします」

「……自分で言っといてなんだが、いいんだな?」


 なんかこう、無垢な子供を詐欺にかけているようで、つい聞き返してしまう。

 いや、別にちゃんと教えるつもりだし、料金もそこまで……まあこっちは言い値だが……とにかく詐欺ではないが。


 イヴにステータスプレートを返すと、それを両手で受け取った彼女はすぐにポケットから金貨袋をいくつか取り出し、テーブルに並べ始める。

 本当に疑うことを知らない女だなと、小さく息を吐いた。


「じゃあそういうことで、契約は成立だ。そういや、授業は毎日行う予定だが、冒険者活動は続けるよな?」

「お金がないので……続けたいですが、やめた方がいいですか?」

「いや、続けていい。ただ、パーティを組むのはやめておけ」


 イヴから受け取った金貨袋を魔法で収納しつつ、俺は片手間に注意をする。


「今のままだとパーティを組んでも、これまでのようになるだけだ。それならまだソロで難易度の低い依頼をしろ。危険度が少ない依頼なら、特に問題なく受けれるだろ」

「え……で、ですが私はもっと他の冒険者との連携をしないと……」

「……お前なぁ」


 イヴの反応に少しイラっとした俺は、テーブルに手を強くついて、ぐいっと前に出る。

 女を強く睨みつけて、言い放った。


「やるにしてもソロで難易度の低い依頼をだ。パーティを組むとか、難易度の高い依頼を受けるのは禁止だ。絶対に俺の言うことを守れ。他のやつに言われても絶対にだ。分かったか?」

「は、はい……」

「絶対にだぞ? 何があっても破るなよ?」

「わ、分かりました……」

「…………」


 必死に首を縦に振るイヴ。

 正直まだ不安だが、流石にここまで言っておけば、サトリアや他の冒険者に流されることも無いだろう。

 もし流されたら、それはそれで俺の見込み違いだったというだけだ。


「……よし、午前中は冒険者として依頼をこなせ。で、昼間か夕方くらいからはここで授業だ。俺はここにいるから、明日からは毎日来い。いいな?」

「か、かしこまりました」

「じゃあ次に、今の実力を見るぞ。外で軽く俺と打ち合ってもらう」

「かしこまりました」


 かしこまりました、かしこまりました。

 何度も言われて、頭がおかしくなりそうだった。

 睨みつけるようにイヴを見下ろし、きつめに告げる。


「分かりました、でいい。いちいち丁寧すぎる言い方をするな。かたっ苦しい」

「……分かりました」


 すぐイヴは順応し、萎縮したように縮こまる。

 俺は大きなため息を吐いて、頭をおさえた。

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