第47話 新たな校舎と、教え子
それから数日後、教室の方も完成したということで、俺とイヴはイッテツさんに呼び出されていた。
俺たちの前には、大きな平屋の建物が完成している。
これはもはや教室ではない、校舎のようなものだ。
「すげー……マジでもう出来たのか……」
「驚きですね……なんだか、どんな魔法よりも凄い気がします……」
特級冒険者になったイヴでもイッテツさんの仕事の速さと出来の良さは目を見張るものがあるらしい。
そんな風に、目の前の建物にただただ圧倒されていると、中から作成者が出てきた。
「おう、来たか。一応貰った図面通りに作成したが、念のために中を見てくれや」
イッテツさんは口角を上げつつ握りこぶしの親指で背後を指さす。
俺とイヴは互いに顔を見合わせた後に頷き合い、新しくできた校舎に足を踏み入れた。
「正面に一つ廊下を作って、その左右に教室を作った。廊下から教室へ入れる扉は二つ、引き戸で用意したぞ」
平屋に入ってすぐに奥まで続く廊下が出迎えてくれて、その左右には合計で四つの扉がある。
地球にあった学校の間取りそのものが再現されていて、少し感動した。
すぐそばにある右手の扉を開けば、教室が出迎えてくれる。
真ん中に大きなテーブルが入れられているが、壁際には小さな椅子と机も置かれていた。
「こっちの部屋はお前さんの使う部屋だな。イヴの嬢ちゃんからこんな内装でいいって言われてたが、問題ないか?」
「ああ、すげえよイッテツさん。マジでありがとう」
教室の中には本棚も設置されていて、小屋の教室の方から移動してくれたらしい。
大きなテーブルは新しく造ってもらったものだとは思うが、それを加味しても空間的な余裕があった。
ここで授業をすると考えると、心躍るものがある。
「ほんで、こっちがイヴの嬢ちゃんの教室だ」
イッテツさんの声を聞いて扉を閉め、逆を向く。
すでにイヴが扉を開けてくれていたので、もう一つの教室へと俺は足を踏み入れた。
「おお、こっちもいい感じじゃねえか」
教卓が一つに、一人用の椅子と机が3セット配置されている。
奥には黒板も入れられていて、流石に地球での学校ほどの大きさはないが、小さな学習塾のような印象だ。
イヴも教室を見て嬉しそうにしているし、満足度は高そうだ。
「今回も魔石を使用しているから強度はそれなりにある。あと以前使ってた小屋の教室も残してある。いくつか持ってきたがな。……っと、こっちに来てくれ」
一通り説明を終えたところで、イッテツさんに言われて廊下へと出た。
彼は廊下の行き止まりを親指で示し、得意げに笑う。
「今回の教室は拡張がしやすい設計にしてある。もしも部屋を増やしたければ、ここから廊下を伸ばして、さらに二部屋増やせるっていう話よ。どうだ? これであの嬢ちゃん……ム……ム……」
「ムゥな」
「ああそうだった。もしあのムゥの嬢ちゃんが帰ってきて教室が欲しいって言っても対応できるわけだ」
「いや、あいつは多分帰ってこねえよ」
魔塔に属して、助教授に内定するくらいの天才だ。
こんな片田舎の教室なんかに戻ってくるわけがない。
そう思ったものの、ちらりとすぐ隣にいるイヴを見て不安になった。
「? 先生?」
「……いや、まさかな」
流石に考えすぎだろう。そんなバカげたことをするのはイヴだけで十分だ。
「特に改善してほしい所とかはねえか? なければこれで終わりだが」
「ああ、俺は満足だ。イヴは?」
「私もとくにありません。ありがとうございます、イッテツさん」
深く頭を下げるイヴを見て、イッテツさんは豪気に笑った。
「なに、こんな割のいい仕事なら大歓迎だ。今後もイッテツ工房を贔屓してくれよ?」
「金は無限じゃねえんだ。むしろこれから何度も頼むからサービスとかは……」
「馬鹿言え、お前さんが金を譲れないようにこっちも仕事の対価として受け取る金は譲れんよ」
「だよなぁ」
流石イッテツさん、徹底しているな、と俺は苦笑いする。
ただそういった一貫したところは素直に好感が持てた。
俺たちとイッテツさんは廊下を歩き、校舎の外へ出る。
「じゃあな」という言葉を残し、去っていくイッテツさんの背中は大きく見えた。
そしてそんなイッテツさんの向こうから四人の少女たちが歩いてくる。
イッテツさんにお辞儀をした彼女たちは、俺たちの姿を見ると小走りで駆け寄ってきた。
「イヴさん、エンディさん、教室できたんですね!」
「お、大きいですね……」
アンナが元気にそう言って、ユウリィは俺たちの背後の校舎を見て驚いている。
ミルキーやルイも興味深そうに校舎を眺めていた。
「ついさっき完成したの。……さて先生、これからこの四人を教えていくわけですが、まずは実力を測るところから、ですよね?」
「ああ、そうだな。すぐそこにイッテツさんが作ってくれた広場のような場所があるから、そこを使うか」
イッテツさんは校舎のみならず、模擬戦ができるくらいの広い空間も作ってくれた。
それぞれ教室の窓から見える位置に計2か所。
それもあって、教室は日当たりが良くなっている。
アンナ達を連れて広場へと移動する。
その間、窓を通して四人は興味深そうに教室の中を見ていた。
その四人にイヴは声をかける。
「まずは手っ取り早く全員の魔法の腕を見ます。一人ずつ、あそこの的めがけて得意な魔法を撃って。いくつでもいいけど、あんまり多すぎないように」
「「「「はいっ!!」」」」
イヴはかなり好かれているらしく、四人の返事は気合が入っていた。
リーダーらしいアンナを皮切りに、それぞれが得意な魔法を撃っていく。
一人当たり、だいたい三つから四つ、初歩的な魔法が多めだ。
流石にイヴやムゥのように目を見張る才能の持ち主はいなかったが、努力していると思える点は多々あった。
特にマルク・マギカ出身のユウリィは本職だけあって、威力は四人の中で一番だった。
「じゃあ最後に模擬戦をしてもらうわ。これから言う組み合わせで戦って。アンナとルイはそこに木刀があるから使うこと。危険と判断した場合は私が止めるから、安心して」
イヴは教育者として的確に四人に指示を出していく。
アンナとユウリィ、ユウリィとミルキーといった組み合わせが、順に目の前で行われる。
その中で、俺は自分がこの後指導するルイという少女の戦いを特に集中して見ていた。
「ルイ! 今日も負けないわ!」
「くっ、僕だって!」
アンナとルイの木刀がぶつかり合い、音を響かせる。
アンナは今のところ模擬戦で全勝だが、彼女は前衛でユウリィやミルキーと相性が良い。
一方でルイも同じく前衛だが、僧侶のミルキーとはいい試合に留まり、ユウリィ相手では敗北していた。
最後の最後は前衛同士の戦いになったわけだが、戦況は圧倒的にアンナの方が有利だった。
「ほらっ、まだまだ行くわよ!」
「くっ、このくらい、なんともない!」
二人は声を出して己を奮わせ、剣を振るっている。
けれどアンナに余裕があるのに対して、ルイは全てを出し切っているような印象だ。
それに動きが悪く、実力的にアンナに及んでいない。
確かアンナが四級冒険者になりたてで、ルイは五級なので差はあるのだが、それだけではない何かを俺は感じていた。
確信があるわけではないものの、どこか嫌な予感がする。
目の前で必死に剣を振るう少女の姿が、なぜかかつての自分と重なる。
「……いや、まだ決めるには早すぎる」
小さく呟いて首を横に振ったとき。
「そこっ!」
「あっ!」
アンナの木刀がルイの木刀を下から素早く捉え、弾き飛ばした。
得物を失っては戦えない。さらに先ほどのアンナの振り上げで腰を抜かしたのか、ルイは尻もちをついている。
彼女はそのままアンナに木刀を首に突き付けられ、両手を上げた。
「そこまで! お疲れ様、アンナ、ルイ。良い試合だったわ」
「ありがとうございます! ルイ、大丈夫?」
「う、うん……大丈夫だよ」
アンナが手を差し出し、それをルイが掴んで引き起こされる。
その中でルイの影のある笑顔を、俺は確かに見た。
「模擬戦はこんなところね……先生、いかがでしたか?」
「ああ、四人の実力は十分見れた。もう大丈夫だ」
遠くにいるイヴに聞こえるように、やや大きな声で答える。
「ではここからは分かれましょう。三人はこちらで指導しますので、ルイは先生の方でお願いします」
「ああ、分かった」
戦闘を終えたばかりのルイに近づくと、彼女は俺に気づき、駆け寄ってきて頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします、エンディさん!」
「おう、よろしくな。まずはそうだな……中で少し話すか」
「は、はい……」
おどおどとしたルイの様子を見て、昔のイヴにそっくりだなと思った。




