第42話 間章:元冒険者イヴの話
私は魔馬車に乗り、エステルの街を目指していました。
先生との約束を、ついに私は果たすことができたのです。
特級冒険者になった以上、もう一流の冒険者と言えるのではないでしょうか。
ただその後、アガート陛下からは「勇者」に推薦されそうになったのですが、こちらは流石に辞退しました。
冒険者をしてみて分かったのです。
私は先生の側にいたい。あの人の支えになりたいのだと。
先生を助けることが、私のしたいことなのだと。
「……お金は十分に稼ぎましたし、今後は先生の教室で教師になるのも悪くないです。先生と二人三脚で教室を切り盛りしていく……ふふ、まるで夫婦のようではないですか」
「あの……イヴさん?」
妄想にふけっていると、隣に座るアンナが声をかけてきます。
魔馬車の中にいるのは私だけではありません。アンナ以外に三人乗っていて、少し窮屈。
「……どうかした? アンナ」
意識を切り替えていつもの調子で返すと、アンナは遠慮がちに聞いてきました。
「い、いえ……考え事をしているところすみません……その、これから向かう先がイヴさんの先生がいらっしゃる場所なんですよね?」
「うん、そうだよ」
アンナの質問に答えると、向かいに座るユウリィやミルキーも身を乗り出してきました。
「イヴさんの先生……少し気になります」
「でもやっぱり冒険者を辞めるのは反対です……」
随分と好かれたものだなと思います。
以前、遺跡に住み着いていた魔物の巣を破壊する途中で助けた冒険者パーティ「星の牙」。
私が冒険者を辞めるということを聞いてどこからか現れた彼女たちを引き連れているのには理由があります。
先生の教室で指導する際の、最初の教え子になってもらうためです。
このことは彼女たちに共有済みで、アンナ達はとても喜んでいました。
さすがの先生も、教え子を連れてきたとあれば私を教師として雇ってくださるでしょう。
「……むしろ教師としての稼ぎも先生に渡しますので、断られる理由がありません。……おや? これはもしや、夫婦の共有財産というものなのでは?」
聞こえないように小声で呟きます。
やはり考えれば考えるほどに、私が教師になるという計画は非の打ちどころのない完璧さです。
「……ねえユウリィ? イヴさん、最近おかしくない?」
「そうですね……先生? の元に行くとなってから、いつもあんな感じです」
「やっぱりその先生とやらがイヴ様になんかしたんだよ。冒険者を辞めるなんて……だから反対だったんだ……」
「いやミルキー、イヴさんの先生に会ってないのにそれは決めつけが過ぎるよ」
ただ、一つ気になる点があります。
先生の家に居候をしていたというクソガキ……もといムゥとかいう名前の少女についてです。
手紙では彼女はもう卒業し、教室には居ないとのこと。
そんな彼女が先生に何か悪影響を与えていなければ良いのですが。
ま、まさか先生とクソガキの間に絆が生まれていたり……いやいや、確かに先生は生徒を思いやる素晴らしいお方ですが、手紙ではムゥのことをクソガキと言っていました。
きっと大丈夫なはずです。
「……あっ」
首を横に振ったときに、ふと視界の端に金色の横髪が目に入りました。
そういえば直していなかったと思い、フードを外して魔法を解きます。
金髪から、真っ白な髪色へと。
「え!? イ、イヴさん!? 髪の色が!」
慌てた様子を見せるアンナに、そういえばこの姿を彼らに見せるのは初めてだと気づきました。
「ああ……ほら、結構珍しい髪色だから普段は魔法で髪色を変えているの。目立つから。でも本当はこの色なのよ」
「ま、真っ白な髪色も素敵です!」
「はい! いつもの金髪のイヴ様も素敵ですが、今のイヴ様もお美しいです!」
「ありがとう」
口々に褒めてくるアンナ達に完璧に作った笑顔を向けた後に、私は魔馬車から外を眺めます。
窓から見える空は、私が先生の元を去ったときと同じく、雲一つない快晴でした。




