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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第2生徒 魔法の使えない魔法少女

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第41話 断章:勇者シエラ・エンフィールド

 久方ぶりにセイラン国からシエルエイラ国へ帰ってきた私は実家に立ち寄っていた。

 お父さん、お母さんと食卓を囲み、楽しい時間を過ごす。

 美味しい夕飯を作ってくれたお母さんはふと思い出したように顎に指を置いて話し始めた。


「そういえば、少し前にロゼリアの街にお父さんと買い物に行ったのだけれど、その時に魔物に襲われてね」

「え……大丈夫だったの?」


 心配して尋ねるも、お母さんはふふふ、と微笑んで頬に手のひらを当てている。


「ええ、親切な冒険者の方に助けてもらったわ」

「そうなの? なんて人?」

「それが名前を聞いたんだが、『名乗るほどの者でもない』と言って去ってしまってなぁ……」


 お父さんの言葉に、「そう」と落胆する声を出す。

 同じ冒険者ならお礼を言おうと思ったけれど、誰かは分からなさそうだ。


「結構大きな魔物だったのよ? こう、赤くって、燃えているみたいで……お母さんあんなに大きいの初めて見たわ……でも、昔のことを思い出しちゃったわね。冒険者で、魔物から助けてくれたって言うと、ねえ?」

「ああ、うん……私が6歳の時だから、もうすぐ10年? になるんだよね?」

「そうそう。あの時は危なかったわ。冒険者さんがいなかったら、シエラはあと少しで殺されていたかもしれないもの……」


 私が幼い頃、この街は魔物の群れに襲われたことがある。

 冒険者達が助けに来てくれたけど、それまでの間に多くの人が死んだ。

 家に隠れていて脅威が去るのを震えて待つだけだった私達。


 でもそんな私達もついに魔物達に発見され、食い殺されるところだった。

 本当に間一髪だったのをよく覚えている。

 私を庇おうとしたお父さんを吹き飛ばし、駆けつけようとするお母さんよりも速く魔物は私に迫り、大きく口を開けた。


 もう駄目だと思って目を強く瞑ったけれど、痛みが来ることは一向になかった。

 恐る恐る目を空けたときには一人の冒険者の背中があって、魔物の牙を剣で受け止めてくれていた。

 その後、その人は魔物を倒して他の魔物の討伐へ向かってしまった。


 私は他の冒険者や兵士に保護してもらったけど、その途中でずっとその人の背中を見ていた。

 見えなくなるまで、目に焼き付けていた。

 あのとき助けてくれた背中をずっと追い続けて、今も探し続けている。


 私が冒険者になったのだってそれが理由だ。

 でも「勇者」になっても、まだあの時の彼には再会できていない。

 一体どこにいるのだろうか……あの人は。


「見てて思ったんだが、昔の冒険者さんに戦い方が似ていなかったか?」

「そうかしら? 同じ剣士さんだから、ではなくて?」

「っ」


 両親の話を聞いて、私はお父さんの方に身を乗り出した。


「お父さん、それ本当!?」

「あ、いや……俺がそう思っただけだぞ?」

「ううん、それでもいい。今回助けてくれた人、どんな人だったの!?」

「ソロの冒険者で、女性だったな。フードを被っていてよく見えなかったが、金色の長い髪をしていた。美人さんだったな」

「……お父さん?」

「いやいや、他意はないぞ? 実際、お母さんも美人さんだって言っていたじゃないか」

「つーん」


 のろけ全開の夫婦漫才を始める両親を無視して私は考える。

 強い魔物を一人で倒せるほどの冒険者なら何人か知り合いがいる。

 けれどその中に、ソロで活動している金髪の女性冒険者はいない。


 その人が、10年前のあの人に繋がる何かを知っているかもしれない。


「お父さん、今日は夕飯なしです」

「いや、作るの俺なんだが……今日は母さんの好きなハンバーグだぞ」

「……あーんしてくれるなら、許しましょう」

「……金髪の女性冒険者」


 両親の胸やけするような甘い話を耳に入れないようにしつつ、私は小さく呟いた。








 それから少しした後、私はある噂を聞いてシエルエイラのアーネンベルク城を訪れていた。

 久方ぶりの王城を歩き、王の私室をノック。返答を聞いてすぐに扉を開いて中へ入った。

 椅子に座り、書類と睨めっこをしていたのはこのシエルエイラの国王、アガート・ルフ・アーネンベルク。


 白いひげを人差し指と親指で弄った彼は、私の方にちらりと視線を向ける。


「久しいな、シエラ。セイラン国ではどうだった?」

「ダメね。肩を並べられそうな冒険者を探してみたけど、流石に居ないわ。勇者や準勇者も手を離せそうにないし……」


 アガートの言葉に私は普段通りの言葉遣いで返す。

 普通なら不敬にも当たる物言いだが、どの国も「勇者」に対しては特権を認めている。

 加えてアガートとはこれまでに何度も話していて、それなりに親しいというのもあった。


「まあ、元々そちらはダメ元だからな……それで? 廃領は?」


 アガートは分かっていたと言わんばかりに話題を変えてくる。

 聞かれた場所は「廃領」。シエルエイラから見て遥か北西にある、人類未踏の領域。

 天候が常に荒れ、強大な魔物が跋扈する暗黒地帯。

 この世界における、四大魔境の一つだ。


「……無理ね。偵察したけど、私と同じくらいの実力者が少なくともあと二人は必要よ」

「二人? 黒天地や氷結の大地はもう一人いれば……と言っていなかったか?」

「そうね。普通の冒険者からすれば、どっちも同じくらいやばい場所だけど、正直廃領の方がヤバさは上。各国の勇者を集めれば、廃領の探索や攻略は可能だけど?」


 どうせ無理だと思いつつも言ってみれば、案の定アガートは首を横に振った。


「無理だな。6人しかいない勇者を一か所に集めれば、各国の魔物の被害を抑えられん。魔災の件もあるしな」

「でしょうね……」


 分かりきっていた答えをもらったところで、ここに来た目的を思い出す。


「そういえば、新しく特級に上がった冒険者がいると聞いたけど?」

「ああ、イヴ・スカイグラスの話か。もう君の耳にも入っているのか」

「待って……まさかと思うけど、ソロの冒険者なの?」

「ああ、そうだぞ」


 イヴという名前から考えるにおそらくは女性だろう。そしてソロ冒険者。

 私の脳裏を、両親を助けた冒険者のことが過った。


「……その人、女性よね?」

「ああ、名前の通り」

「髪色は?」

「ん? 変なことを聞くんだな。雪のように真っ白だったよ。珍しい髪色だったな」

「……そう」


 どうやら人違いだったらしい。

 あの人につながる情報が得られたかと思ったのだけれど。


 ため息を吐いて、気を取り直してアガートに尋ねる。


「それで? そのイヴさんは勇者になれそうなの?」

「いや、その話はなくなった」

「……え? どういうこと? もう他国の王が拒否したの?」


「勇者」になるには二つの条件がある。

 まず国の王に当たる人物が推薦をする。

 そして次にそれ以外の三国の王が全員賛同をした場合にのみ、その者に「勇者」の称号が与えられる。


 全員の賛成が得られなかった場合は「勇者」にはなれないが、「準勇者」にはなれる。

 なのでイヴという人はアガートに推薦され、他国の王に却下されたということだ。

 とはいえこんなに早く却下されるものなのだろうか。


「いや、彼女が「勇者」になることを断った」

「……断った?」

「ああ、つい先日「勇者」として推薦するという話を彼女としたのだが、断られてしまってな。『勇者という称号に興味はない』と」

「……そんな人、いるんだ」


「勇者」というのは世界の国から認められた強者の証。

 仮に「準勇者」という結果に終わったとしても、それでも一つの国から認められた証だ。

 これ以上はない誉だと思うし、今までこの推薦を断った人なんていない筈。


 ……変わり者、ということだろうか。


「ちなみに、実力的には申し分ないのよね?」

「ああ、シエルエイラの多くの大型魔物を討伐し、アーセラスでは超高山地帯からの飛竜の群れの4割を単騎で撃破。ガイア特務聖騎士もその実力は認めるほどだ」

「……聞けば聞くほど凄まじい実力の持ち主ね」

「私もそう思う。しかも彼女は冒険者になってから特級になるまでに、2年半程度しかかかっていない。無論君の約二年には及ばないがね」

「その人、いいわね。冒険者としてパーティを組みたいわ」


 この際、「勇者」や「準勇者」でなくても構わない。

 そう思ったのだが。


「……それがな、彼女は冒険者を辞めた」

「……はぁ?」

「おいおい、私にそんな剣呑な目を向けるな。本人曰く、新しいことを始めたいらしい。一応冒険者でなくても協力を要請していいかと聞いたのだが……断られてしまってな」

「そうだったの……っていうか、冒険者を辞めて何をするっていうのよ」

「教えてはくれなかったな」

「ふーん……そう」


 残念だが、冒険者でなくなったのならパーティを組むのは無理だ。

 それこそ四大魔境を探索したり攻略するなんてなおさら無理だろう。

 逸材の予感がしていただけに、かなり惜しい。


「でも喉から手が出るほど欲しい人材でしょ? なんとかならなかったのかしら?」

「彼女を脅してでも協力させろと? 馬鹿を言え、飛竜の群れを一人で相手できてガイア特務師団長の推薦を得られるような人物だぞ。敵に回してみろ。魔物被害よりも酷いことになる」

「そうじゃなくて……なんかこう、報酬を渡すとか……」

「一応話はしたし、爵位を与えても良いと言ったんだが、興味がないと言われてしまってなぁ」


 どうやらお金や権力では動かなかったらしい。

 そう言った在り方には尊敬の念を抱くけど、話に聞くほどの実力者の助けを得られないのはあまりにも残念だった。


「それなら仕方ないわね……ところで一つ聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「長い金髪をしたソロの女性冒険者に覚えはないかしら?」

「……いくらソロの冒険者とはいえ、そんなありふれた髪色を言われても……我が国のみならず、他国にも当てはまりそうな人物は何人もいそうだが……むしろ強者であれば君の方が詳しいのでは?」

「……そうよね」


 私が思い当たらない以上、アガートも思い至らないようだ。

 強い冒険者を考えると当てはまらず、そうでない冒険者を考えると候補が多い。

 どうやら、私の探し人はどちらもなかなか見つからないようだ。


「ありがとう……邪魔したわね」

「もう行くのか? 次はどこに向かうつもりだ?」

「そうね……しばらくこの国に滞在した後に、マルク・マギカにでも行こうかしら。久しぶりだし」


 ヴァンディのお爺様に会ったのも数年前だ。あの時はたまたま考え付いたけど形にならなかった魔法について相談したりした。

 結局その時は答えを得られなかったけれど、久しぶりにまた会いたいな、と考えた。

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