第38話 ムゥは力を見せつける
放課後、中央広場に向かえば、そこには多くの生徒が集まっていた。
それだけでなく先生も何人かいて、心配そうに見ている人もいる。
所詮模擬戦だから怪我をすることも無いのにと思いながら、私はクローディアから少し離れた位置に立って、彼女と相対した。
「良かったですわねムゥさん。ここまで多くの人が貴女の成長を見てくれるそうですわよ」
「うん」
おそらくクローディアが呼んだのだと思ったが、別に気にしていないので言わなかった。
誰に見られていても、気にする必要はない。
「勝負はお互いが降参するか、被害規定値を越えるまで。安心してください。ムゥさんは知らないかもしれませんが、模擬戦では先生方が魔法の障壁を私達に張ってくれますの。そちらで魔法は吸収され、被害値を計測してくれますわ。……まあ、あなた程度の魔法ではそんなもの無くても少しも問題はありませんけどね?」
話を聞いて、それは便利だなと思った。
今度エンデーに手紙を出すときに、導入してみてはどうか、と書いてみよう。
エンデーならもう知っている気もするけど、話のネタにはなる。
「了解」
「……余裕なのも今の内ですわ。……そうだムゥさん、もし負けたら自主退学するというのはいかがでしょうか?」
「? できない」
「まあ、そうですの? なら教室の端っこで縮こまっていて、発言なども一切しないでくださいな」
「了解」
それってこれまでと何か変わるのかと思ったけれど、クローディアは私を徹底的に下したいのだろう。
頷いて返せば、いじわるな笑みを見せてクローディアは先生たちの方へ叫んだ。
「先生っ! お願いしますわ!」
声をかけられた先生は頷き、魔法を行使する。
合図となる音が、響いた。
「先手必勝!」
そう叫んだクローディアは魔法式の詠唱を始める。
ただ受けるつもりもないので、私も私で防御魔法用の魔法式を唱えた。
「焼き焦げなさい! 『フレイムライン』!」
クローディアが唱えたのは、Eランクの火魔法だった。
学生の身分で使える者は多くない、威力の高い魔法。
魔法の名門、グラスワンド家出身のことはある。
前の私なら手も足も出なくて敗北していただろう。けれど。
手のひらを前に出して、魔法を発動。
身を護るための蒼い障壁を、構築。
クローディアの手から射出された火の閃光は一直線に私に向かうものの、その間に構築された障壁に阻まれる。
大きな音を出しつつ、時間をかけても一切障壁を揺らすことすらなく、フレイムラインの魔法は消えた。
「……は?」
信じられないものを見るクローディアの顔。
それを視界の隅に納めながら、向こうがフレイムラインで来るなら、こっちも対応しようと思い、私は魔法式の詠唱を開始。
フレイムライン程度なら無詠唱でも行けるけど、ここは決闘の場。
それなら本気で魔法を放つべき。
エンデーと共に改造した私だけの魔法式を唱え、右手を前に。
見せてあげる、彼と私の魔法を。
「『フレイムライン』」
手のひらの目の前の空間が揺らぎ、そこから飛び出すのは火炎の奔流。
それと同時にクローディアの右上と左上の空間も開き、同程度大きさの奔流が降る。
彼女を飲み込んで尚も余裕があるほど巨大な焔。
それらは高速で飛来し、僅かに後ろに下がったクローディアを三方向から飲み込む。
クローディアのフレイムラインとは明らかに格が違う、それこそ違う魔法だと言っても信じてもらえそうなほどの威力。
それをもって、勝負を決めた。
火の奔流が消えたとき、そこには無傷ながらも膝をついて呆然自失とするクローディアの姿だけがあった。
「しょ、勝者……ぜぇ……ムゥ・アスガルド!」
息を切らした先生が私が勝ったことを告げてくれる。
フレイムラインの魔法はクローディアに張られた先生が掛けた魔法障壁すら削り切り、破壊するところだった。
ギリギリで先生が補強してくれたから良かったものの、それが間に合わなければフレイムラインを途中で強制終了させなくてはならないところだった。
「……ありえない。ムゥさんが……そんな……」
クローディアが何か言っているけれど、これでもう絡んでくることは無いだろう。
周りも言葉を失って私を見ているし、これからは静かな学園生活が送れそうだ。
そう思った時。
「ア、アスガルド!? あ、あの……」
「? はい」
女性の先生が声をかけてきた。確か名前はクロエ先生だった筈だ。
彼女は学校の先生の中でも特に優れた魔法使いらしい。
そんなクロエ先生は私をじっと見て、少し震えていた。
「その……あなたは今の『フレイムライン』? 以外の魔法も使えるの?」
「はい」
「その、どの属性があのくらいの威力で使えるのかしら?」
「全部」
正直に答える。
フレイムライン、つまりEランク程度で良ければ、どれでも使いこなせるという意味で返すと、クロエ先生は口元を抑えた。
そしてしばらくした後に手を下ろし、私をまっすぐに見つめてきた。
「アスガルド、来て欲しいところがあるのだけれど」
「……どこ?」
「校長室よ」
「……?」
なぜ私が校長室に? と思い、首を傾げた。
「失礼します」
「します」
クロエ先生に連れられ、私は校長室へ。
部屋の中には、学校生活であまり見たことがない校長先生が座っていて、私たちが入ってくるのに合わせて席を立って、寄ってきてくれた。
「おお……やはり来てくれたか。先ほどの模擬戦を見ていて話したいと思っていたが……さすがはクロエ先生だ」
「いえ……」
校長先生はクロエ先生を褒めた後に私に向き直る。
「それで君は……アスガルドくんだったね。先ほどの魔法は見事だった。得意属性は何かね?」
「火、雷、闇」
「ほう、あのレベルが三つも……」
「校長先生、それがアスガルドは、全ての魔法をあの強さで扱えるそうです」
クロエ先生が耳打ちをする。すると校長先生は目を見開き、私の肩を掴んだ。
「ほ、本当かねアスガルドくん!?」
「!? は、はい」
「校長先生、アスガルドがびっくりしてしまいます!」
クロエ先生に肩を掴まれ、校長先生は私から手を離す。
びっくりした、イッテツ様を思い出した。あっ、思い出すと震えが……。
「ほらっ! 怖がっているではないですか! 何をしているんですか!」
「ほ、本当にすまないアスガルドくん……その、少し舞い上がってしまって」
「……いえ」
とばっちりで怒られている校長先生から私は目線を外した。
校長先生はこほんっと咳払いをして、私の注意を引く。
「アスガルドくん、実は近いうちに魔塔への推薦試験があるんだ。成績優秀な生徒を魔塔に紹介し、魔塔の教授たちの目に留まれば生徒として飛び級ができる制度でね。あそこまで威力の高いフレイムラインが使えるならば問題なく合格できると思うのだが、どうかね?」
「うちの学校からも何人かが魔塔へ飛び級していますが、あそこまでのフレイムラインは見たことがありません。アスガルド、これはぜひ受けるべきですよ」
校長先生とクロエ先生に薦められたのは、魔塔についてだった。
正直、今まで考えていた選択肢にはあったものの、冒険者になると決めていたために少し困った。
色々考えた結果、もう少し話を聞いてみることにする。
「……魔塔、行けば、有名?」
「有名になれるか、ということかい? もちろんだ。無論魔塔で頑張る必要はあるが、飛び級で入り、努力を怠らなかった者には有名な魔法使いも当然いる」
「私もそうですし、友人は二級冒険者として名を馳せていますよ」
なんと、エンデーと同じ二級冒険者もいるらしい。
ということは、魔塔に入っても冒険者にはなれるということだ。
それなら魔塔に飛び級で入るのも悪くないのかもしれない。
「……分かった」
とりあえず前向きに考えていると返すと、校長先生はぱぁっと顔を明るくさせて私の手を握った。
「本当かい? ありがとうアスガルドくん! 最近は合格者が中々出なかったが、君なら可能性は高いだろう。存分に実力を試験官に見せてくるといい」
「アスガルド、緊張するかもしれませんが、先ほどと同じことができれば合格は間違いなしです。頑張ってください」
「……はい」
二人の熱量に、私は頷くしかなかった。
学校に来たら模擬戦を申し込まれて、そして気づいたら魔塔に推薦されていた。
中々に濃い一日だったと、今でも思う。




