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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第2生徒 魔法の使えない魔法少女

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第33話 止まらない魔法少女

 数日後、朝食のために居間に集まった俺とムゥ。

 毎日の日課だが、ムゥの雰囲気は重かった。


「……大丈夫か? だいぶ疲れているようだな。流石に無理しすぎだ。今日は魔物討伐は俺がやっておくから、休め。つーか寝ろ」


 俺が食事を作っているときからいつもよりボーっとしていて眠そうで、かつ今も船を漕ぎかけている。

 流石にこれ以上の過労は危険だと思い、ムゥに休むように告げた。


「……でも、エンデーも」


 しかし、ムゥは簡単には受け入れてくれないようだ。


「俺は良いんだよ。自分の限界はよく分かってるしな」


 今、最も負担があるのはムゥの方だ。

 俺は魔法式を改良するために遅くまで起きているが、体力もあるし、俺が改良した魔法式で魔法を使うわけじゃない。


 一方でムゥは俺の魔法式の改良の手伝い、自分で魔法式の改造、魔物を倒しての熟練度上げと多忙を極めている。


「無理してもいいことはねえって。休め。魔物討伐は今日は俺がやっておくから、な?」

「……うん、了解」


 努めて優しくなだめるように言えば、渋々といった形でムゥは頷いた。

 これで少しでも休む重要性を理解してくれればと、そう思った。








 ここ最近はムゥの熟練度上げを兼ねて魔物討伐をさせていたため、俺が魔物を討伐して回るのは久しぶりだった。

 とはいえ急激に魔物が強くなったり、数が大きく増えるわけじゃない。

 多少疲れている程度では問題が起きるはずもなく、しっかりと狩り尽くして家へと戻ってきた。


 住居の中へ入り、ムゥの様子を確認しようと彼女の部屋の扉をゆっくり開ける。

 中にはベッドで穏やかに眠るムゥが居るだろうと思っていたのだが。


 ムゥは、作業机に向かっていた。


「おい、クソガキ」

「っ! エ、エンデー……」


 声をかければ、罰が悪そうな顔をしたムゥが振り返る。

 目の下のクマは良くなるどころか少し濃くなっていて、寝てないのは明らかだった。


「俺言ったよな? 休めって」

「…………」


 黙ってしまうムゥを睨んだ後に、小さく息を吐いた。


「あのな……時間に余裕がないわけじゃねえだろ。何も今頑張らなきゃいけないわけじゃねえんだ」


 別にムゥはこの後試験があるわけでもない。焦る必要はない。

 そう伝えると、ムゥは俯いた。


「分かる。でも、止まらない」

「……ワーカーホリックかよ」


 世の中には、外から見ると過労に違いないが、仕事や勉強を止められない人が一定数いる。

 ムゥもその傾向があるのかもしれない。


「魔法式考えるの……楽しいか?」


 尋ねれば、ムゥは顔を上げて頷いた。


「うん。考えるの、使うの、全部楽しい。今までなかった、だから」

「そうか……そりゃあ、楽しいだろうな」


 今まで全く魔法が使えなかったのに、急に使えるようになった。

 そして魔法式を考えるときの集中力を見るに、夢中になるくらいなんだろう。

 これまでの遅れを取り戻したい気持ちと、どんどん強くなっていく自分の魔法の実力で止まらなくなるのも分かる。分かるが。


「でもよ、その楽しさをもっと長く味わうために休みも必要なんだ。それに、休んだ方が楽しさも増えるぞ?」

「そう……なの?」


 首を傾げるムゥに、微笑みかける。


「ああ、そうだぜ」

「……分かった。寝る」

「ああ、そうしろ。ゆっくり休めよ。お休み」

「……おやすみ」


 ようやく俺の言っていることが響いてくれたのか、ムゥは椅子から立ち上がり、ベッドへ入り込む。

 その様子を見届けて、俺は満足して扉を閉めた。








 それから数時間後、俺は魔法式の改良をひと段落させて、空になったコップに水を注ごうと厨房へ向かった。

 扉を開けて中に入れば、先客がいた。


「あ……」

「は? お前……」


 ムゥが、水差しをグラスに注いでいる最中だった。

 その姿を見て俺は絶句する。

 ムゥの目の下のクマは、少しも薄くなっていない。寝ていない。


「お前……言っただろ……」

「眠くない、それに、大丈夫」

「大丈夫って……」


 ムゥは大丈夫と言ったが、その顔からは確かに疲れを感じさせた。

 これ以上の無理をさせると、ムゥがいつか潰れるかもしれない。

 それだけは、させられない。


「あんまりひでえようだと、括りつけて無理やり寝かすぞ」


 呆れながら、そう言った。

 いい加減に休んで欲しかったのもあり、少し強く注意したつもりだった。


「エンデーが?」

「…………」


 だから、返ってきた返事に声も出なかった。

 これがふざけて言っているのなら、暴言の一つも出てきたかもしれない。

 生意気なクソガキが、と言えたかもしれない。


 だがムゥはそういったつもりは一切なく、ただ純粋な疑問を感じて問いかけただけだった。

 俺「程度」の力で自分をどうやって括りつけるのか、疑問に思っているだけ。

 それが分かってしまったから、答えられなかった。


「…………」

「? じゃあ」


 沈黙が気まずく感じたのか、ムゥはそう言ってそそくさと居間を出ていく。

 扉の閉まる音が、やけに大きく聞こえた気がした。


「…………」


 水を取りに来たという当初の目的すら忘れて、俺はしばらくの間その場に立ちつくしていた。


「……くそ」


 ムゥに何を言っても止まらないことに、イライラする。

 そして止めるだけの力がないことを勝手に自覚してしまった自分にも、イライラした。









 翌日の朝、朝食を作り、ムゥを呼びに行こうとしたところで居間の扉が開いた。

 入ってきた姿を見てぎょっとした。

 ムゥが青い顔をしていたからだ。目の下のクマもかなり濃くなっている。


「おい……お前……」

「ん、おはよう、エンデー」

「おはようって……いや、それ」

「徹夜」


 最悪の返答に、俺は顔を顰めた。

 日が経っても、状況は全く好転していない。

 魔法の改良のペースは上がらないし、ムゥは今でさえ疲労困憊でいつ倒れてもおかしくない。


 そんな最悪のコンディションでも魔法について研究が出来るほどの天才なのも問題だった。

 彼女は自分の限界を、止めるべき地点を見失っている。

 もう無理だ。そう考えて、無理やりでも止めることにした。


「いい加減にしろ!」

「……エンデー?」

「日ごろから頑張りすぎだって言ってんのに、今日に限っては徹夜だと? 何を考えてやがる!」

「少し寝た」

「そういう問題じゃねえだろ!」


 かなり語気を強くして叱りつけるものの、ムゥの瞳は全く揺れない。

 心に響いていないどころか、なぜ自分が叱責されているのかすら分からないようだ。


「問題ない」

「自分で大丈夫だって思ってても、限界が近いことだってあんだよ。……昨日も言ったが、お前はもう限界だ、今日こそは寝てもらうぞ」

「待って、今日、魔物狩り」

「ふざけんな!!」


 この期に及んでまだ無理をしようとするムゥに心のままに怒鳴った。

 放たれた言葉の内容ではなく、声量に驚いたようで、一瞬だけムゥの朱色の瞳が揺れた。


「あっ」


 その言葉を残して、ムゥの身体が揺らぐ。

 まるで立っていた棒が倒れていくように、彼女の身体が床へ。

 吸い寄せられるような、落下のような倒壊。それをギリギリで受け止める。


 何とか間に合い、受け止めたムゥに叫んだ。


「おい!」

「あ、あれ……?」

「だから言っただろ! 無理しすぎだ!」

「う、う……ん……」

「おい! おい!」


 声をかけるものの、段々とムゥの瞳の光は淡くなり、瞼が下りる。

 その後には、安らかな寝息の少女だけが残った。

 とりあえず大事は無いようだ。俺は目を瞑って、頭を垂れた。






「ん……」


 声を聞いて、ムゥの方を見る。

 ベッドに寝かせた彼女は目を覚ましたらしく、戸惑いの表情で天井を見ていた。


「気づいたか」

「エンデー?」

「お前、無理しすぎてて倒れたんだ。だから言っただろ、やりすぎだって」

「……そう」

「少し熱もあるようだからな、今日のところは休め」

「でも――」

「いいから……そんなになってまでやることはねえよ。休め。いいな?」


 まだムゥは不服そうではあったが、強く言うと、渋々頷いた。

 俺から視線を外し、天井を見るも、段々と瞼は下りてくる。

 やがて目を瞑り、また眠りの世界へと旅立ったようだ。


 やはり疲れていたらしく、穏やかな寝息も聞こえてくる。

 ようやく今回で休んでくれたかと、長かったなと、そう思った。


「……やっとかよ」


 まったく、手のかかる教え子だ。

 優秀過ぎて無理をして、それで世話をするような生徒なんて、こいつだけだろう。


 とはいえ、これでひと段落。

 ムゥが寝ているうちに、仕事を済ませてしまおうと思い、椅子から立ち上がる。

 急に倒れたので出来なかった魔物討伐と街への買い物を済ますのには、丁度よいタイミングだ。


 しばらく起きそうにないムゥを置いて、俺は家を静かに出た。

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