第27話 第二生徒、ムゥ
教室の裏にあるテーブル。
そこに備え付けられた椅子に座り、ムゥと向かい合う。
「今後の方針だが、魔法を中心に伸ばしていく、ってことでいいな?」
「……う、うん?」
少し戸惑った様子だが、答えたムゥに俺は彼女から受け取った腕輪を返す。
「それと、こいつは返しておく。これから魔法の実力を上げるときにあった方が便利だろ」
「いいの?」
戸惑った声をあげるムゥに、俺は頷いてサムズアップ。
「ああ、お前は自慢の生徒だからな。問題ない」
「……さっき、金づる」
ついさっき言ったことを覚えていたのか、ジト目で俺を見るムゥ。
口笛を吹くことで、誤魔化すことにした。
「そんなことイッテナイゾー」
冷たい視線は、変わらなかった。
「こほん、気を取り直して……」
空気が冷たいが、とりあえず無視してムゥの手元にある紙を手に取った。
そこに書かれた魔法式を見てみても、相変わらず意味不明。
だがこれこそが、ムゥにとって最適な魔法式ということだろう。
おそらくは彼女にしか使えず、そして彼女にしか作り出せない魔法式。
「まずは、お前がすでに使える魔法を改良していくか。いったいどれくらい魔法が使える? これに書いてくれ」
懐からもう一枚紙を取り出し、ムゥに差し出す。
そこに、ムゥは今使える魔法をリスト形式で書き出してくれた。
「ふむふむ……」
ムゥの魔法の熟練度は最大でもFランク。中にはGのものもある。
だからか、使える魔法の数はそこまで多くはなかった。
それぞれの属性の基本魔法が一つか、多くて二つ使える程度。
今までろくに魔法が使えなかったのなら、仕方のないことだろう。
「お前自身の手で、改良できるか?」
尋ねると、ムゥは目を瞑って首を横に振った。
「見せて」
「俺の魔法式をか?」
こくり、と頷いた。
「エンデー、魔法式、いい」
「……エンデー?」
「エンデー」
「俺の名前はエンデーじゃなくて、エンディだ」
「エンデー」
どうやら、ムゥの中で俺の名前はもうエンデーで固定らしい。
まあ、言いやすい方で別にいい。こいつはどうやらマイペースらしいし。
「……好きにしろ。で、魔法式だったな」
ムゥの書いていた紙を手に取り、そこに水の初歩魔法の魔法式を書く。
水球を飛ばす『アクアボール』、改良した魔法式は、すぐに書き終わった。
「これでいいのか? ……もう改造できるのか?」
「……多分?」
「なんだそりゃ」
曖昧な返事に顔を顰めるも、ムゥは気にした様子もなく俺の書いた魔法式をじっと見る。
そしてペンを手に取り、紙に書き込み始めた。
(……やっぱり意味分かんねえ魔法式だな)
『アクアボール』に関しても、俺の知らない魔法式が並んでいた。
魔法式を改造する際に、俺は既存の魔法式の意味などもよく考えて変えた。
かなりの回数試行錯誤を重ねたのだが、それらのどれにも、今ムゥが書いている式には当てはまらない。
理論ではなく、感覚派なのかもしれない。
やがてムゥ自作の魔法式は完成。
紙を手に持って、彼女は白線の上へ。
右手を構えるその姿は、今はもう歴戦の魔法使いのようにも思えた。
小さな口が、魔法式を紡ぐ。
緊張の一瞬、また強力な一撃が見えるのかと、俺は期待した。
「アクアボール」
射出されたのは、大きな水球。
それはまっすぐに的へと飛来して真ん中へ命中。
中央を黒く染め、威力を示した。
「……んん?」
流石に、ムゥが一番最初に放ったファイアボールよりは強い。
けれど一般的なアクアボールと比較して格段に強いかと言われると微妙だ。
先ほどのファイアボールは次元が違っていた。
それこそ、イヴよりも威力は上だったように思える。
けれど今のアクアボールは、流石にイヴの方が上。
「使い慣れたか、慣れていないかの違い……か?」
最初に魔法を使えと言ったときに、ムゥは迷わずにファイアボールを挙げた。
ほとんどの魔法使いが最初に覚えるのがこの魔法で、ムゥもその例に漏れなかったのだろう。
だから、あまり使っていないアクアボールは威力が格段に上がらない、ということだろうか。
実際、ムゥも微妙そうな顔をしている。
「失敗」
「使い込めば行けそうか?」
遠くから尋ねると、ムゥは振り返って首を横に振った。
「式、未完成」
「……なるほど」
使っていないからではなく、式にまだ改良の余地があるということだろうか。
それなら、ひょっとしたら他の魔法もそうかもしれない。
「ということは、他の属性の魔法についても一度見てみる必要があるな。その上で、ファイアボールと同じくらい改良すれば、全属性の魔法が凄まじい威力で使える……と」
「エンデー?」
考え事をしてぶつぶつと呟いていたら、いつの間にかムゥが寄ってきていた。
気づいた俺はムゥを見て、今後の予定を共有する。
「決めたぞ。俺もお前の魔法式改造に協力する。今あるファイアボールの魔法式をよく見てみれば、法則とかが分かるかもしれねえしな」
「……エンデー、やるの?」
「ああ、当たり前だろ?」
俺が考えた魔法式はムゥには合わなかったが、ムゥはムゥで新たな課題を見つけた。
それは、俺も知らない魔法式を創造するということ。
生徒と共に勉強をする、というのも悪くはない。
「それに……お前の魔法式にも興味があるしな。一人よりも二人でやった方が効率がいいだろ」
「…………」
「なんだよ?」
ふと見てみると、ムゥは目を見開いて俺を見ていた。
どうかしたのかと尋ねると、彼女は小さな口を動かす。
「意外」
「あ?」
「別人のよう」
「……何言ってんだお前?」
俺は俺だろうが、と思ったものの、日が傾き始めているのに気づいた。
このままでは街の店が閉まってしまう。
「っと、今日はこれで終わりだ。今から街に向かう。お前の生活に必要なものも買わなきゃいけねえし、食材も買わねえとだからな」
「んん?」
「お前も来るんだよ。荷物持ちとしてな」
「……うん」
不服そうにしながらも、ムゥは頷いた。




