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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第2生徒 魔法の使えない魔法少女

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第25話 行き倒れのクソガキ

 家を出てすぐのところに、ガキが倒れていた。

 黒髪に、灰色の魔導服を着ている小さなガキが、うつ伏せで倒れている。

 まさか家の前で死人が出るなんて、最悪だ。


 ぐぎゅるるるるるるるる。


 死体をどうしようか考えていると、目の前のガキの腹が鳴った。

 どうやらまだ生きているらしい。


「おいガキ、ここは俺の家だ。出ていけ」


 ピクリと反応して、ガキは顔を上げた。

 朱色の瞳が力なくさまよい、少ししてから俺を捉える。


「空腹」

「……あ?」


 一言だけ発し、ガキは俺をじっと見る。

 その瞳からは感情が読み取れない。聞き返すも、返ってくるのは無言だけ。

 しばらく見つめていたが、やっぱりガキは微動だにしない。


「動く、無理」

「……ここで倒れられてても困るんだよ。街にでも行け」

「無理」

「……てめえな」


 無理、無理、と言われ、少しイライラする。

 勝手に人の土地に入ってきたあげく、どこうとしないこのガキを実力行使で追い出してもいいかもしれないと思い始めた。


「空腹」

「…………」

「空腹」

「ああもう、うるせぇな!」


 ひとつの単語を連呼するので、思わず叫んで家の中に引っ込む。

 廊下を足音を立てながら歩き、居間を抜けて厨房へ。

 そこにある明日の朝に食べようと思っていたパンの袋を手に取って、大股で玄関へと戻った。


 勢いよく玄関の扉を開ければ、ガキは依然としてそこにいた。


「ほら、これ食って帰れ」


 袋からパンを取り出して差し出せば、ガキはしばらくした後に腕に力を入れて起き上がり、地面に座る。

 そしてパンを手に取って、じっと見た後に齧りついた。

 かなりの空腹だったようで、夢中でパンを頬張るガキ。

 それを見て、俺は明日の朝食が減ったことを恨んだ。


 ガキはかなり勢いよく食べていたが、のどに詰まらせるといったことは無く、パンを食べきった。

 そして手元にパンがなくなったことを知ると、俺に目を向けてくる。

 正確には、俺の手にあるパンが入った袋を。


「要求」

「て、てめぇ……」


 手を伸ばし、更なるパンを要求してくるガキに必死に怒りを抑えながら、追加でパンを渡した。

 無表情でまたしてもパンに齧りつくガキ。一つ、二つと要求され、結局袋の中が空になる。

 これで、俺の明日の朝食は無くなった。


 俺の貴重な食料を腹の中に入れやがったガキは満足したのか、息を大きく吐く。

 そしてぼけーっと明後日の方向を見始めた。


「……おい、もういいだろ。帰れ」

「行き場なし」

「知らねえよ」


 突き返すように返すものの、ガキはまるで気にしていないように俺のことを見る。


「なんとかして」

「は? なんで俺が……意味分かんねえだろ」

「なんでもやる。家事」


 どうやらこのガキはつけ上がったのか、俺に寄生するつもりらしい。

 まっぴらごめんだと思い、冷たい目を向けて吐き捨てる。


「じゃあな、街に帰れよ」

「待って」

「おい! 放せ!」


 さっきまで倒れていたのが演技かと思うほど素早い動きで俺のズボンの裾に抱きつくガキ。

 足を動かそうとするものの、すごい力で抑えられて上手く動かせない。


「要らねえよ! 足りてるわ!」


 あまりにもしつこいので無理やり蹴飛ばそうかと考えた。

 足に力を入れて振るも、ガキは一向に足から離れない。


「お願い」

「てめぇ……おいこら……っ」


 足をいくら動かしてもまるで木に張り付いた虫のように離れないガキに、俺は観念した。


「他、何かする」

「……じゃあてめぇは何ができんだよ」

「……魔法」


 ほう? と思った。

 確かにガキの身なりは魔法使いのものだ。

 それなりに強い魔法使いなのかもしれない、と思い、それならと話を聞いてみることにした。


「じゃあどのくらいの魔法が使えるのか教えてみろ」

「うん」


 ガキは俺の足から腕を離し、その場に座りなおす。

 そして服の中をまさぐり、そこから半透明のプレートを取り出して差し出してきた。


「はい」

「……正気かてめぇ」


 ステータスプレートを初見の相手に差し出す人間がイヴ以外にいるとは驚きだった。

 だがそのくらいガキも困っているということだろう。

 プレートをひったくるように奪い、そこに目を通す。


 魔法のステータスは、ほとんどがF。それ以外の魔法や剣などの戦技関連はGだ。

 はっきり言って弱いを通り越して目も当てられないレベル。

 この強さでは駆け出しの冒険者クラスだろう。


「……話になんねえな。家に帰れ」

「無理」

「あ?」


 聞き返せば、ガキは首を横に振る。

 そしてまっすぐに俺を見つめてきた。


「逃げてきた」

「……お前なぁ」


 どんな厄介案件だよ、と頭を抱えた。


「家はどこなんだよ?」

「マルク・マギカ」

「……思った通りか。くっそ遠いじゃねえか」


 ここ、シエルエイラの北東にあるのが魔法使いを多く輩出しているマルク・マギカ国だ。

 ただ俺の教室はシエルエイラでも西の端っこにあるので、マルク・マギカはここから最も遠い国と言える。

 むしろそこまで長い距離を一人でよくここまで来れたものだ。


「四か月」


 どうやらかなり長い時間をかけてここまでたどり着いたらしい。


「……家出なら親御さんだって心配してるだろ」


 当然のことを言ってみれば、またしてもガキは首を横に振った。


「両親、興味なし」

「……そんなわけねえだろ。きっと本心では探している……筈だ」


 と言ってみたものの、実際にはそうじゃない両親がいることも知っているし、なんなら自分の両親がそうだったと思い返して少しだけ尻すぼみになる。

 同時に、面倒なことになったなと思った。

 どちらかと今すぐこのガキの親が探しに来て、連れて行って欲しいんだが……。


「……名前は?」


 そんなことを考えていると、不意にガキが尋ねた。


「エンディだ。エンディ・スカイグラス」

「職は?」

「あ? なんだてめぇ……ちっ、教師だよ」

「教師?」


 やけに聞いてくると思い、なるべく長引かせないように簡単に、短く答えた。


「教室やってんだよ」


 突き放すような言い方をするも、ガキは全く気にした様子はない。

 俺の背後の家屋に視線を向け、首を傾げた。


「教室? 気配、ない」

「ここは俺の家だ。教室じゃねえ」

「すごい……の?」


 矢継ぎ早に聞いてくる質問にはイライラしていたものの、この質問だけは少しだけ気分が良かった。


「まあな。これでも一流の冒険者を輩出した」


 まだ一人だけだが、イヴはもう二級冒険者で一流と言って差し支えないだろう。


「本……当……?」


 しかし、このときばかりは返事を間違えた。

 俺の言葉に、ガキは少しだけ目を輝かせる。


「教えて」

「…………」

「魔法、なんとかしたい」

「帰れ」


 話が厄介な方向に動きそうなので、無視してこの場を去るように告げる。

 しかしガキは、一歩も引かなかった。


「自信……ない?」

「あぁ?」


 突然の言葉が、癪に障った。


「てめぇな……」


 そろそろマジでぶん殴ってやろうかと思ったところで、俺は自分自身に落ち着け、と言い聞かせた。

 相手はただのガキだ。ガキの言葉にイライラしてどうする、大人だろ、と。


「……俺にも選ぶ権利はある」

「私、やる気ある。あなた、自信ない?」

「…………」


 危ない危ない、今のは効いた。

 下手すればこの場で刀を抜いて、ガキを斬りそうになるくらいには。


 頭をおさえてため息を吐き、どうするか考える。

 このガキ……いやクソガキを何とかするには、クソガキの興味を喪失させたほうが早いか。


「よく聞け。俺は自分のために教育をしている。俺が見ているのは教え子が将来稼いで俺に入れてくれる金だ。だから優秀な奴しか見ないし、そのためだけに教室を始めた。俺は生徒のことを金づるとしか見てねえ」


 流石にここまで金にがめつく、自己中心的なことを言われれば興味を失うだろう、そう思った。


「それでもいい、なんでもする」


 しかし、クソガキの言葉は変わらなかった。

 まっすぐな目には決意の光があって、つい飲まれそうになる。

 それを振り切って、「いや」と呟いた。


「教室は慈善事業じゃねえ。無償じゃ教えられねえよ」


 空腹で倒れていたこいつのことだ、金を持っているはずがない。

 だが、そもそも金がなければ教育は成り立たない。

 そういった意味で諦めろ、と遠回しに伝えるとガキは俯いた。


「…………」

「分かったか? それなら大人しくマルク・マギカに――」


 やっと理解したか、と思ったところで、ガキは右手で自分の左腕の袖をめくる。

 そして手首にはめられていたブレスレットを外し、それを俺に差し出した。


「これ」

「…………」


 差し出された白銀のブレスレットを見て、正気なのかと目を見開く。

 ガキが今差し出しているのは、魔法使いが作る魔力の増幅装置だ。

 作るのは魔法使いなら誰でもできる。だが、それに魔力を流して慣らし、増幅装置とするまで果てしない年月がかかる。


 この世界において、お手軽に強くなれる手段は希少価値が高い。

 増え続ける魔物に対応するには、強い装備や多い数がどうしても重宝される。

 だからこそ、魔法使いが作成した魔力増幅装置は、売ればかなりの金になる。


 それこそ、イヴが最初に俺に渡してくれた金よりも遥かに多い金になるだろう。

 つまりこのブレスレットを考えれば、金に関しては問題がない。ないが。


「……分かってんのかてめぇ。それがなんなのか」

「魔力増幅装置。十三年、かけた」


 解析の魔法を使えば、確かにそのくらいの質だ。

 この魔力増幅装置を作るのに、こいつは毎日毎日、欠かすことなく十三年間も費やした。

 そこまでしてようやく、魔法使いは自分に合った魔力増幅装置を作ることができる。

 言ってしまえば、自分の相棒だ。


 市場に出回る魔力増幅装置は、魔力に余裕のある大人の魔法使いが作った第二、第三のもの。

 だがガキが今差し出したものは、こいつが作った唯一のモノにしか思えなかった。


「それを手放したら、お前の力は激減するだろうが」


 魔力増幅装置は誰が使っても効果を発揮するが、作った本人が使った時が一番効果を発揮する。

 だが逆に、他の人物が作った魔力増幅装置では、自分が作ったものと同じだけの効果は発揮しない。

 つまりこいつは、同じくらいの魔力増幅装置を作るのにまた十三年の月日を費やさなくてはならないわけで。


「そんな大層なもん、受け取れるか」


 当然断る。だが。


「お願い」


 ガキは引かない。差し出したブレスレットを引っ込めようともしない。

 俺がそれを受け取るのを、ただただ待っている。


「……俺が悪人だったらどうする? それを奪って逃げたら?」

「もう、これしかない」

「…………」


 ガキの目にはまっすぐで、覚悟が決まっていることが伝わった。

 気づいた、こいつはもう引くつもりはないと。


「……くそ」


 そう小さく呟いて頭を掻く。

 仕方なく、俺は保留でお茶を濁すことにした。


「……分かった。じゃあ試用期間ってことにしてやる」

「しよう……きかん?」

「お試しってことだ。お前に才能があるかどうか分からねえからな」


 授業を行い、こいつの才能のなさを理由に帰ってもらう。

 その際にブレスレットを返せばいいだろ、と決めた。

 少し授業を受けてもらい、その上で伸びないと伝えれば、ガキも納得するはずだ。


「うん、分かった」


 とりあえず、ガキはそれで満足らしい。

 短くなるであろう、一時的な契約が成立した。


「で? お前、名前は?」


 そういえば聞いていなかったな、と思って、名前を尋ねる。

 ガキは俺をまっすぐに見て、小さな口を開いた。


「ムゥ。ムゥ・アスガルド」

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