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転生凡人の英雄作成教室【書籍化&コミカライズ化】  作者: 紗沙
第1生徒 足手まといの冒険者少女

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第22話 半年、虚無期間

 ある日、俺はギルドに居た。

 何か予定があるわけじゃなく、ただぼーっとギルドを訪れている人を見ているだけだ。


「……エンディさん、お久しぶりです」

「おう、サトリアか」


 そうして冒険者達を眺めていると、不意にサトリアが声をかけてきた。

 視線だけを向けてみると、彼女は俺のテーブルに置かれた酒瓶を呆れた目で見つめている。


「また飲んでいるんですか? ここは酒場じゃないんですけど……」

「持ち込み禁止なんて決まりはないだろ」

「……食べるのは止めてくださいね。せめて飲み物だけにしてください」

「あいよ」


 そう言い返し、俺はうるさいなぁ、と思ってため息をついた。

 するとサトリアにも同じようにため息をつかれた。


「もう半年以上ですよ? いつまでぐうたらしているんですか……」

「うるせえ……やる気にならないんだから仕方ねえだろ」

「誰でもいいから教えればいいじゃないですか」

「そうじゃねえんだよなぁ……」


 サトリアとこの話をするのはこれが初めてじゃない。

 イヴが卒業してから、たまにここに足を運ぶものの、教えようと心から思える人材は見つからなかった。

 その結果、俺は誰にも教えることなく、半年以上を虚無に過ごすことになった。


(……金もそこまで困ってねえしなぁ)


 イヴはこの街を旅立ってすぐに、俺に金を送ってくれるようになった。

 きちんと恩を返してくれているようで嬉しく思うものの、回を重ねるごとに額が増えていく仕送りは、俺から「もう授業しなくていいのでは?」という気持ちを生じさせた。

 ただ、サトリアに知られれば何を言われるか分からないから、このことは言っていない。


「……イヴを教えちまったからさぁ、他に手を出しにくいんだよ」

「まあ……分からなくもないですけどね。アーネンベルクのギルドに勤める友人に聞いたんですけど、イヴさんはもう二級冒険者らしいですよ? すっごく早くて驚いちゃいました。もうエンディさんに並んでいるじゃないですか」

「ああ、そうだな」


 そして手紙の内容から、イヴが早いうちに準一級に上がるだろうということも予想している。

 彼女は剣や魔法の熟練度も共有してくれているが、強い魔物を倒すようになってからというもの、その成長速度には目を見張るものがある。


 同じことをサトリアも感じているようで、じっと俺を見てきた。


「エンディさん、イヴさんにどんな授業をしたんです? 私の友達も、あの成長速度は尋常じゃないってこの前手紙で言ってましたよ?」

「授業内容は秘密だ。これは俺の商売の根幹だからな」


 当然教えるつもりもなく、目を瞑って人差し指を口元に持っていく。

 そうした後で、ぼーっとギルドの中を眺めた。


(ただまあ……なんであんなにイヴが強くなったのかはよく分からねえんだよなぁ)


 指導しているときから思っていたことだが、イヴの成長速度は尋常ではない。

 剣といくつかの魔法に絞って鍛えたが、それでも普通の冒険者の何倍も早かった。


 だが、最近はそれに拍車がかかっているらしい。

 たった半年程度で二級まで階級を上げられたのは驚きで、かつイヴから来る手紙は内容が段々とスケールが大きくなる。

 やれ、飛竜を倒しただの、やれ街に急に出没した大型の魔物を倒したのだの、俺が教えていた時以上の成長スピードだ。


 ただ手紙にはイヴが以前言っていた「切り替わり、光が灯る感覚」がまたあった、という記載があることも多かった。

 それについての詳細はまだ分からないが、強くなったからその感覚があるのか、あるいはその感覚があるから強くなった、ということではないだろうか。


 俺の転生特典も成長率が上がるものだったが、近いものをイヴも持っているのだろう。

 天才というのはどこの世界、どこの分野にでもいるものだ。

 あるいは俺の持っている転生特典並みの成長率だって、天才からすれば元から持っているものなのかもしれない。


 テーブルにある酒瓶を手に取って、一口。

 イヴからの仕送りで購入した酒を流し込み、美酒を味わう。

 酒瓶から口を離した後で、ふと呟いた。


「どこかにイヴと同じくらい優秀で、金を稼いでくれるやつ……いねえかな」

「……前々から、もしかしてと思ってましたが、やっぱりお金目的で教室を始められていたんですね」

「いやいや、そんなことはねえ。俺は生徒が成長することだけを願っているぞ」

「じゃあ授業料とかいらないと?」

「要るに決まってるだろうが」


 何言ってんだこいつ? という目で見れば、サトリアは笑顔のままで青筋を立てていた。

 サトリアが怒っても別に怖くないので、無視してギルド内に視線を戻す。

 やはりどこにも、イヴのように目を引くような人材はいなかった。








 結局今回も将来有望な人材は見つからず、俺は自宅へと帰ってきて居間で休んでいた。

 椅子の背もたれにもたれかかり、両腕をぶらぶらとさせる。

 俺一人だけになったこの家が、やけに広く感じた。


「なんだかなあ、教えているときは良かったんだけどなぁ……」


 天井に向かい、そう呟く。

 イヴに指導しているときは、体の底から無限にエネルギーが湧いてくるみたいだった。

 でも今は何もやる気が起きない。まるで抜け殻になったみたいだ。


 半年以上の時間が過ぎているのだから何とかしなきゃな、と思うものの、動く気になれない。

 それに心の奥底では、とりあえずの目標は達成できたからいいじゃないかと思っている自分もいる。


「……要らん事ばかり考えるな……やめだやめ」


 そう言って考えることを一旦止めて、ふと厨房の方を見た。

 そういえば、今日の夕食の食材はまだあっただろうか。


 そんなことを思って席を立ち、厨房へ。

 確認をしてみれば、やはり食材が足りなくなっていた。


「ちっ……さっきせっかく行ったんだから買いに行けばよかったなぁ」


 まだ余裕があると思っていたが、勘違いだったらしい。

 舌打ちをして、俺は居間を出て廊下へ。そのとき、ふと右側の扉を見た。

 すぐ右には俺の私室があるものの、その向かいの奥にも扉が出来ている。イッテツさんにこの前作ってもらった、二つ目の部屋だ。


『先生へ

 お願いがあります。お金は出しますので、先生の家に一室増やして欲しいです。

 先生も、家に客室があった方が良いと思いますので』


 そんなことを手紙でイヴから言われたのがきっかけだ。

 その後、後回しにすればいいやと思って放置していたものの、三回ほど催促されて仕方なくイッテツさんに依頼した。

 なんで俺の家に客室が必要なのかは正直今でも分からないが、まあ金を出すというなら別に構わない。


 家が広いのは俺も嬉しいし、仕送り元であるイヴの機嫌を損ねるつもりはないからだ。

 ただまあ、掃除する範囲が広がったことは少し面倒だが。


「ま……別にいいか」


 そう呟いて、俺はエステルの街へ再び向かうために、玄関の扉を開けた。


「…………」


 扉から少し歩いたところに、ガキがうつ伏せで倒れていた。

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