第18話 後悔と生徒の危機
自宅の私室で、椅子の背もたれに身体を預けた俺は天井を見ていた。
考えるのはイヴのこと。
人を信じすぎるという欠点を克服するために、俺はイヴを斬って森の中に置き去りにした。
口でどれだけ教えても改善の兆しがないから、行動で教えるしかなかった。
イヴに対する攻撃はかなり慎重に行ったし、時間差で回復する魔法だってかけた。
魔物に襲われないように、周りにあった魔の気配は見つけ次第全部斬り殺した。
それだけじゃなく、通りかかったおばさんにもイヴのことを頼んだ。
地面に倒れたイヴを見つけたおばさんは驚いていたが、背負って連れて行ってくれたので命に別条はないだろう。
「もっと良い方法があったんじゃねえかなぁ……」
ただそこまで準備をしても、イヴを斬る、というのは中々に心に来た。
将来どこかで手痛い裏切りに会い、命を落とす可能性が高いなら、今ここでその気持ちを芽生えさせる。
そう思ったし、そう信じて実行した。
「……目覚めたときに、こうなるから人を信じるなって言っただろ、って教えれば良かったか? いやでもそれだとなぁ、少し弱いよなぁ……」
けれど他にもっと良い方法があったのでは、と思ってはいる。
どれだけ自分で考えても答えは出ないのに、だ。
それになにより、もう時間は戻らない。
「……イヴが俺のことを恨んでくれたり、俺に怒りを抱いてくれて、それで人を少しでも疑ってくれるようになれば……いいけどよ」
それを教えるには、なかなかに手痛い代償だった。
そこまで考えて、俺は頭に手をあてて、髪をがしがしと掻く。
「あー、やめだ。やめやめ。これ以上考えてると、前に進めねえ」
そう思い、目を開けると、目の前にはイヴに関する情報がびっしりと書かれた紙の束。
これももう、使うことは無いのか。
「……そういや、ノート渡せなかったな。くっそ……せっかくイヴの成長に間に合うように頑張ったんだが……」
そう呟いたところで、ベルの音が響いた。
『エンディさん! エンディさん!』
「……あ?」
聞こえたのはサトリアの声。
どうしてこんなところに? と思ったものの、そういえばどこらへんに住んでいるのかを前に話したことがあったな、と思い至った。
席を立って、部屋の扉を開けて廊下へ。
その間も、玄関の扉を開く音とサトリアの俺を呼ぶ声は響いている。
『エンディさん! いませんか、エンディさん!』
「うるせえぞサトリア! 何の用だ!」
声を荒げて扉を開けると、そこには息を切らしたサトリアが立っていた。
「た、助けてくださいエンディさん!」
「なんだよ……」
「冒険者ギルドで、イヴさんに魔物討伐の依頼を発注したのですが、その際に彼女、テイガーさんに絡まれたんです。イヴさんはソロが良いと話していたんですけど、テイガーさんはイヴさんとパーティを組みたがっていて」
「テイガー? 誰だ? まあいい、それで?」
肩で息をするサトリアに続きを促す。
「たまたま他の冒険者の方が聞いたらしいんですけど、テイガーさん、イヴさんに断られたことを根に持っているみたいで、何かよからぬことを考えているみたいなんです。仲間を集めているみたいで……お願いしますエンディさん、イヴさんを助けてください」
「……依頼の内容は?」
「お金だったら私の方から……え?」
信じられないものを見る目を向けるサトリアに、俺は怒鳴る。
「とっとと、どの魔物討伐か言え!」
「あ、『アッシュウルフ』です!」
「ちっ!」
舌打ちをして俺は飛び出す。
イヴはここら辺一帯の魔物を狩らせたが、アッシュウルフもその中に含まれている。
それなら、イヴは無意識にこの近くで魔物を狩るはずだ。
サトリアが俺のところに来るまでの時間を考えると、ギリギリ間に合うか否か。
人の気配を探りつつ、俺は駆けだした。




