第15話 突然降り始めた大雨
ある日の朝、用意が出来た俺はイヴと共に教室の周りの森を歩いていた。
隣にはイヴがいて、日課の魔物狩りを行っている。
俺はそれを見ているだけだ。
「珍しいですね、先生が魔物討伐に参加してくださるなんて」
隣を歩くイヴの言う通り、最初の方こそ魔物討伐を見守っていたが、途中からは任せるようになった。
実力的には申し分ないし、俺の方は俺の方で、なるべく早めに完成させなくてはいけない件があったからだ。
「……まあ、たまには様子を見ようと思ってなぁ」
「心配しなくても大丈夫です。ここら辺の魔物にはもう遅れは取りません。ですが先生と一緒に魔物狩りができるのは嬉しいです」
目線は優しく、口元は緩んでいて、そして何より雰囲気が柔らかい。
イヴは完全に俺のことを信じ切っている。
ここ数か月熱心に指導をした結果だ。長く一緒にいたことで、心を開いてくれたのだろう。
開きすぎだと、そう思えるくらいには。
「む、魔物ですね」
先ほどから気づいていた気配にイヴも気づき、腰の直剣を引き抜く。
そして草むらから出てきた熊のような姿をして、頬に傷のある魔物『スカーベア』に、一直線に向かっていく。
敵はここらへんではそれなりに強い部類に入る魔物。
だがそんな魔物の攻撃を避け、一撃を加える。
体を器用に動かし、しっかりとスカーベアの動きを見て斬りつける。
流れるような動きで、見ていて危うさは全く感じない。
結局一撃も魔物から貰うことは無く、イヴは素早い動きと鋭い剣技でスカーベアを地面へと沈めた。
「先生、見てくれましたか? ここら辺の魔物なら、もう大丈夫ですっ!」
「ああ、そうだな」
俺はイヴの言葉に同意した後に、上を見上げる。
空には黒い雲がかかり始めていて、雨が降りそうだった。
数分後、これまでの晴れた天気が嘘のように雨が降り始めた。
土砂降りかと思うほどの大雨、その中をイヴと俺は走る。
教室や住んでいる家に向かうからではなく、魔物狩りを早く終わらせるためだ。
魔物を討伐するのは何よりも優先事項。
雨が降ろうが風が強かろうが、雪が降ろうが行うことだ。
一日でも行わない日があれば、それがいつか常習化して、長いことやらなくなる恐れもある。
「っ! 二体!?」
それに、こういったイレギュラーが起こっている可能性もある。
足を止めた俺とイヴの先に、二体のスカーベアが立ちふさがっていた。
「昨日まではいなかったはずなのに……すぐに片づけます!」
緊急事態には驚きはしたが、数が増えたところで魔物一体一体の強さは同じ。
一体のスカーベアに対して圧倒的な戦いができたのなら、それが二体になろうとも、大した敵ではない。
躍り出たイヴはスカーベアの切り裂き攻撃を避け、太ももに剣を走らせる。
そしてもう一体のスカーベアに対して、水の刃を魔法で飛ばした。
走り出したときには詠唱をしていたのだろう、準備が良い。
雨が降っていて効果が落ちる火の魔法を使わなかったのも判断が冴えている。
文句のつけどころのない戦闘が、目の前で繰り広げられる。
スカーベア達からすれば、仲間が狙われているから、その隙にイヴを攻撃すればいいだけの話だ。
けれどその攻撃はイヴに当たらない。
広い視界を持ち、常に二体を視野で、感覚で捉えているイヴにはそれが通用しない。
そしてスカーベアの一体が度重なる斬撃と深い刺突によって身体を傾ければ、イヴの敵はたった一体となる。
今まで二体を相手にしても余裕があったのだから、一体になれば負ける方が難しい。
結局、二体のスカーベアの命運はイヴに遭遇した時点で尽きていたのだ。
全身から血を流し、雨の降りしきる中に最後まで立っていたのは、イヴだった。
雨音が、耳に残る。
視界も不明瞭な中で、俺は刀を静かに抜き放つ。
本当に僅かに音は出たものの、雨音がそれをかき消した。




