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少女とホームレス

「な、な、なん……んな……」


 スカートをたくし上げた状態のままプルプルと震える少女。

 その瞳に次第に涙がたまっていく。


「待て待て待て泣くな!! 見てない! 見てないから!」


 俺は慌てて両手で目を覆った。


 あまりに無理のある言い訳だ。

 いや言い訳にもなってないが。


「ノックしたらほんとたまたま扉が壊れちゃっただけなんだよ。覗くつもりは全くなかったんだけど……その、ごめん」


 俺は咄嗟に自己弁護を図るが、彼女のこちらを見る目つきは厳しいものだ。

 先ほどまでの安らぐような寝顔とは打って変わって、涙目のままにらみを利かせた鋭い眼光が俺をまっすぐ見つめる。


「……そもそもなんで私のお家を壊してるんですか。最近完成したばっかりなのに」


「それはほんとにごめん。あとで代わりのダンボール拾ってきて直します……」


「今すぐ行ってきてください。あなたは頑丈な家で安心して過ごせるんでしょうけど、わたしにはこれしかないんです。あなたにはわからないでしょうけど」


 当てつけるようなその物言いだが、不思議と腹が立つことはなかった。

 それはこの少女の印象が、どこかほの暗い憐憫をまとっていたからだろうか。


「わかったよ、とってくる。けど俺にだって帰る場所なんかないけどな」


 俺はその家に背を向ける。


 この短時間で小雨は土砂降りとなっており、このまま外に繰り出せば、雨宿りをするために高架下に来た意味はなくなってしまうだろう。

 

 しかし、もとはと言えば俺が彼女の大切な持ち家を破壊してしまったことが原因だ。

 甘んじて受け入れるしかあるまい。


「確か近くのスーパーにダンボール回収ボックスがあったな……濡らさず持ってこれるかどうか」


 考えていても仕方ない。

 意を決して走り出そうとしたその時、不意にズボンの裾が引っ張られる。


「ちょっと待ってください。家がないってどういうことですか?」


 少女が家から顔を出して訝しげに尋ねる。


「あー……」


 なんて答えたものか。

 実家が謎の宗教に汚染されて追い出されました、なんて突拍子もなくて笑われるだろうか。

 いずれにせよ、これ以上彼女を困らせるつもりもなかった。


 俺は少し悩んで口を開く。


「まあ、べつに。家出みたいなもんだよ」

 

 俺がそう答えると、彼女はびっくりしたような表情をする。

 それから何も言わずに家の中へと戻って行ってしまう。


 中からなにやらごそごそと音が聞こえると、彼女が再び姿を現す。

 

 先ほどまでの敵対するような表情から一変、まるで親友と話すときのような満面の笑みが浮かべられていた。


「もー水臭いですねっ! お仲間なんでしたら早くおっしゃってくださればよかったのに」


「は? 仲間?」


「違いますか? 私も実家が嫌で抜け出してきたんです」


 彼女は持ち前の長髪を指でくるくると回す。

 なんだか照れくさそうに笑った。


「よければ入ってください。お紅茶お出しいたします」


「よしきた、アールグレイで頼む」


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