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俺が実家から追放された日

「友近。あなた、もううちの子じゃないわ」


 母さんは学校から帰宅した俺に神妙な面持ちでそう告げる。


「えどうした、突然……」


 俺は訳も分からずそう聞き返す。

 マジでなんなんだ、全く心当たりがない。


「天智様に対する数々の無礼。母である私が罰さなくてどうするの」


 天智様。

 母さんがそう呼ぶのは、中学生である妹の彼氏だという胡散臭い男だ。

 年齢はわからんが多分三十代くらいだろう。


 妹、萌子が初めてそいつを家につれてきた日から我が家はおかしくなった。


『魂の浄化は、いつも正しい行いに始まるのです』


 彼の第一声はそれだった。

 明らかな異常者である。


 しかし、それを聞いた母の目は輝いていた。

 まるで救いでも求めていたかのように。


 父親は俺が生まれた時から死別しており、女手一つで俺たち兄妹を育てた母さんの苦労は計り知れない。

 その心労から、露骨なスピにも引っかかる素養があってもおかしくはなかった。


「友近、あなた今日の礼拝をしていないでしょう。昨日も、おとといも」


 母さんの声は、俺に対する怒りから悲しみへと移ろう。


「もう限界なのよ。あなたが天智様の怒りを買って、家族が不幸にでもなったらどうするの。萌子が、天智様との子を為せなくなったら……」


「ちょっと待てよ! 子ってどういうことだ⁉ あいつはまだ中学生で、子供なんか作ったらそれこそ不幸になるだろ!」


「天智様の血がうちに混ざるのよ。私たち家族の幸せは保証されるの。お父さんだって、戻ってくるかもしれないって、天智様はおっしゃるのよ」


「父さんは俺が生まれる前に死んでるだろ! いい加減目を覚ませよ母さん!」


「うるさいうるさい! あなたのわがままにはもう耐えられないの。家族の幸せを願わないあんたなんて、もう家族じゃない! 出て行って!」


 母さん、いや、妄言に取りつかれたその女は、まるで準備してあったかのように懐から出刃包丁を取り出した。


「お、おい母さん、落ち着けって……」


 俺は両手を前に突き出して無抵抗のポーズをとる。

 だが、母さんの目は血に飢えた獣のように獰猛で、幸福への執着が向けられた刃先から伝わってくる。


 もう、母さんはダメなのかもしれない。


「……わかった、出ていく。せめて最後に、萌子の顔を見させてくれ」


「だめよ。萌子は今、まさに天智様と儀式の最中だから」


「……儀式って」


「生誕よ」


「……くっ」


 その言葉で、すべてを察してしまった。

 もう手遅れなのだ。

 母さんも、萌子も、純潔も、家族も、すべて。


 自分の無力さに、口の中にわずかに血の味が広がった。


 俺は背を向ける。


 いつか救ってやるなど、図太く傲慢な信念を持ちながら。


 小さくなった我が家はどこか、寂しそうだった。

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