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本の紹介⑩『機動戦士ガンダム逆襲のシャア 友の会』 庵野秀明/責任編集

作者: ムクダム

「逆襲のシャア」、そして富野由悠季監督への愛憎を煮詰めた傑作同人誌

 1993年に発行された同人誌ですが、最近復刻版が発売され、一度通しで読んだ後、折に触れて気になったところを拾い読みしています。内容そのものも面白いのですが、凝縮された熱気のようなものに惹かれているというのが正直なところです。1988年公開のアニメーション映画「機動戦士ガンダム逆襲のシャア」に関する批評やインタビューなどで構成された同人誌で、企画・発行・責任編集を「新世紀エヴァンゲリオン」の監督として有名な庵野秀明氏が担っています。

 序文として、庵野氏のこの同人誌の発行にあたっての決意表明が掲載されており、本文に入る前から当時の何やら鬱屈したエネルギーを浴びることになります。表紙を捲ってすぐに三島由紀夫の引用文が目に飛び込んでくる時点で、ただならぬ気配を感じさせます。

 寄稿しているのはアニメ監督や脚本家、デザイナーに漫画家、雑誌編集者、そのほかにもスタジオジブリのプロデューサーやアニメ制作会社の社長など多種多様で、それぞれが独特の目線で作品を語っており読み応えがあります。 友の会と銘打っているものの、作品に対して友好的な文章よりも、文句や愚痴のような言葉が次々湧き出てくるのが面白いです。最初に載っている批評からして、富野監督の作家性はすでに枯れ果てていると語る内容となっておりピリッとした緊張感が走ります。商業ベースでは出来ない、同人誌というフィールドならではの味とでも言いましょうか。もちろん、ここが良かったということを記載した批評もあるのですが、読めば読むほど、作品に物申したい、むしろ作品を飛び越えて富野監督にひとこと言ってやりたいという情念が溢れているのを感じることが出来ます。そして、最後には富野監督本人へのインタビューが載っているのですから、一つのドラマを目撃した気分になります。

 特に面白いと思ったのは、山賀博之さんのインタビューですね。インタビューの中でアニメを作る人の目線について語っています。目線というのは、作り手がどこに向けて作品を作っているかということで、アニメ好きな人がアニメ好きの人のために「遊び」で作っている作品と、一般の人に向けて、現実の社会から目を背けずに「仕事」として作られている作品があるというものです。富野監督はアニメで描かれる世界が本当に存在するものとして説得力を持つように真面目に「仕事」として作品を作っているのに対し、多くのアニメ作品は作画やデザイン、色指定といった全体を構成する一部の要素を取り出して自慢するような「遊び」で作られているといった言及があります。山賀さん自身もアニメ監督や、ガンダム作品の脚本を担当された経験があるのですが、アニメ制作現場を通じて肌で感じた説得力のようなものを感じます。「仕事」と「遊び」に優劣をつけるようなものではありませんが、作品を鑑賞する立場としても「仕事」と「遊び」という目線は興味深いです。

 20人以上のメンバーがそれぞれの言葉で語りかけてくるのですが、いずれにも共通すると感じるのは、作品の捉え方、自分の考え方に確固たる軸があるということです。作品を持ち上げるだけの宣伝文章とは違い、本音で作品や監督に対する思いを語り、自分なりの理屈で作品を論じていることが伝わってきます。一見すると、面倒くさい人たちだなという印象を持つかも知れませんが、それこそ本気の証拠なのかなと思います。個人的には賛同できない意見もありますが、思い込みや独りよがりで語っているのではなく、その人なりの筋を通していることがわかるものになっているので、自分の好きな作品への向き合い方への参考にもなると思います。

 「逆襲のシャア」という映画のことをよく知らない人でも、この熱量は十分に価値あるものだと思いますので、復刻され比較的入手しやすくなっている今だからこそ、より多くの人に読んでもらいたいですね。一つの時代の情熱を肌で感じる逸品となっています。終わり

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