第3話 バカね
生きているもの、全てに命があり、
それには限りがある。
そんなわかりきっていることを、この子ってば今更自覚したらしい。
私の歯が抜けて、毛が抜け始めた時、私は悟った。
「あら、そろそろかしら」って。
だけど、私の命のことなのに、この子ってば……私よりも泣くのよ。
そりゃ〜もう、毎日、毎日、飽きもせず。
わんわん、えんえん、おんおん、泣くのよ。
今時、猫だってそんなに鳴かないわよ?
だけどね、この子ってはやっぱり泣くの。
ピーピー子猫よりも泣くくせに、この子は、絶対私には言わないのよ。
「タマ、長生きしてね」って。
言えばいいのに。
言えば……、もう少しだけ、頑張ってやるのに。
この子ってば、強情だから、絶対に言わないの。
ま、そういうところが、この子の優しいところなんだけど。
まっすぐ歩けなくなった私のために、この子は家のフローリングの上にラグを敷いた。そんなことしたって、どうせ歩きにくいのには変わらないし……、なんなら私、トイレにはまともに行けなくなっちゃったから、汚しちゃうのに。
それなのにね。
「見て! タマ! これで少しは歩きやすいでしょ? 座っても、寝転がっても、寒くないわよ!」
って言うのよ。やんなっちゃう。
猫だってのに、ジャンプもできない私のために。
この子ってば、泣きながら階段を作ったのよ。もう見てるこっちが切なくなるわ。
だからね。もう、毎回欠かさずやってやるのよ。
週末のカプリ。
あんた、これ、意外と好きなんでしょ? 私、知ってるんだから。
あぁあ、また泣いてる。部屋の真ん中でピーピーピーピー。
だから、私はあの子の隣へと歩いていく。
もう少し、さっさと歩けたらいいんだけれど、どうしても体が斜めになってしまうから、歩くのにも時間がかかる。
それでも大丈夫。
だって、どうせ時間がかかっても、あの子はどうせまだ泣いてるんだから。
でも、そうね。私に翼でもあったなら、もう少し早くあの子の隣にいけるのかしら。
あの子が泣く時、私はあの子に暖を取らせるために、くっついて丸まるの。
ほら、これでちょっとは泣き止みなさいよ。
私は、あの子に向かって「にゃぁ」と鳴いた。
あんた、泣き顔でブッサイクになってるわよ。だから、もう泣くのはやめなさい。
って、伝えるために。
そしたら、あの子が「ニャァ」って返事を返した。
ねぇ、ちょっと。
あんたの猫語は下手くそすぎて私には意味がわからないわ。
私は人間の言葉がわかるんだから、そういう大切なことは人間語で言いなさいよ。
まぁ、どうせ。大好き〜とか、ありがとう〜とか、言ったんでしょうけど。
こんなんだから、私はまだまだ、くたばれない。
この子が誰か、私以外にも寄り添える人間を見つけたら、そうね、その時はお役御免をさせてもらおうかしら。
それまでは、もう少し。
一緒にいて、あげるわよ。
バカね、だからもう。
泣かないでもいいのよ。
私はずっと、あなたの隣にいるんだから。