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チートな魔法少女の野望

作者: ケイ

「あ~~綺麗……あんな綺麗なお星様をぶっ潰したら気持ちいいだろうな」


自室のベランダで星を眺める、小柄な少女――如月 夕日。


年は12歳で、今年の4月で中学校に入る予定。


髪は金髪で瞳は真っ黒、この年にして髪を染めることを覚えたお茶目で可愛いい女の子。


「ふぅ……煙草でも吸いたいけど、親に見つかったら面倒だから我慢我慢っと」


頭を振り、くまさん柄のパジャマのポケットから手を引き抜く夕日。


学校からの帰り道にタバコ屋のばばあからくすねたマイルドセブンがポケットの中にあるのだが、流石に寝る前に喫煙するのはヤバい。


口惜しいが、これも長生きする為だ仕方ない。


「そろそろ寝ないとな、明日も学校があることだし」


ポリポリと頭をかきながら呟き、夕日は身を翻す。


――はぁ……学校だりぃ、幼稚すぎんだよな


内心で学校に対する不満をこぼし、舌打ちをする夕日。


あまりにつまらなさすぎて、学校を抜け出してコンビニで一服することも多々ある。


その時は、学校の先公共が血相をかえて迎えにくるが……あの表情はたまらなく面白い。


つまらない授業を聞くより、そっちのほうがスリルがあって愉快だ。


「まっ、わたしはまだ12歳だからな。仕方ねぇか」


溜め息まじりに声をこぼし、ベランダの手すりからお手々を離す夕日。


身を翻し、夕日がベランダを後にしようとした時――


「もう寝ちゃうのかい?」


馴れ馴れしい声が、周囲に響き渡る。


「もったいないなぁ、今ねちゃったら魔法少女になれるチャンスがなくなっちゃうよ?」


「……」


足をとめる、夕日。


――魔法少女……だと?


ゴクリと唾を飲み込み、なぜか夕日はお手々を握りしめる。


――魔法少女って、まさかあの……アニメでやってるような奴か?


唇をつりあげ、おかしさのあまり体を震わせてしまう夕日。


その体の震えに、声の主は追い打ちをかける。


「魔法少女になれば、全てが君の思いのままだよ。欲しい物があるなら出せばいいし、嫌いなことがあれば消せばいい」


夕日を魔法少女にする為、声の主は誘惑を続ける。


もしこの少女が魔法少女になることを断ってしまえば、話が始まらない。


今まで1万人近くの少女に、魔法少女にならないかと持ちかけたのだが……その全てに断られてしまった。


中には保健所に電話する輩までいたので、色々と大変だったのだ。


パタパタと翼をはためかせ、夕日の前にまわりこもうとする月の妖精――ムーン。


だが、そんなムーンの耳にとんでもない言葉がはいってくる。


「わたし、魔法少女になる。んで……世界いや、宇宙を征服したい!!」


「!!」


思わず羽ばたきを止めてしまう、ムーン。


今まで何千人もの少女に会ってきたが、こんなぶっとんだ少女ははじめてだ。


ムーンは、ぽとりとベランダのコンクリートに墜落し目を丸くしながら夕日を見上げる。


――世界、宇宙の征服って……えっ、この子12歳だよね?


魔法少女になってくれることは万々歳なのだが、"世界・宇宙の征服"が夢なんてまるで悪者みたい。


呆然と夕日を見上げる、ムーン。


そんなムーンを、まるで玩具を見つめるような眼差しで見下ろす夕日。


魔法少女には付き物であるマスコット的な物体、月の妖精ムーン。


小人に金色の羽が生えたその存在は、まさしく妖精のイメージそのものだった。


「ねぇ妖精さん、はやくわたしを魔法少女にしてよ……でないとあなたを踏み潰すよ?」


足を振り上げる夕日の目は、少女とは思えないほど鋭く冷たい。


お前を踏み潰すことなど蟻を踏み潰すことと同じ――といわんばかりのオーラが夕日から漂っている。


「わ……わかったよ、君を魔法少女にしてあげる」


小刻みに体を震わせながら、涙目になるムーン。


「じ……じゃあ、今すぐ魔法少女になる為の儀式を行うからちょっと待っててね」


なんとか気を取り直し、再び空に浮かび上がるムーン。


夕日は、そのビビりまくっているムーンの姿を冷たい眼差しで見据え――


「そんなこといってもし魔法少女になれなかったら、羽をもいで……海に捨てちゃうかも☆」


満面の笑顔をたたえてはいる、夕日。


だがムーンは、怖くて夕日の顔を凝視できない。


「な、なにを言ってるんだい? ぼくがウソをつくわけないじゃないか」


冷や汗をたらし、ムーンはこわばった笑みをたたえる。


――こんなにどす黒いオーラを持った少女は、はじめてだ


恐怖を押し殺し、なんとか月が真後ろにくる位置に到達するムーン。


「ふふふ……魔法少女になったら、まずなにしちゃおっかな☆」


こちらを見上げる夕日の瞳、そこには期待と希望の光がキラキラと輝いている。


ムーンはそんな夕日と視線を合わせないようにし、震えながら言葉を紡ぐ。


「月の神に願う、今ここに新たな神秘を体現する者が誕生しました……よって――」


眩い光に包まれていく周囲の風景と、さらさらと流れる夕日の金髪。


夕日の瞳がまばゆく輝き、くまさん柄のパジャマも七色の光に変質していく。


「神秘なる力、魔力をこの少女に与えたまえ!!」


瞬間――、


「これが力を得る感覚って奴? あはははッ、わたしすごく興奮してきちゃった!!」


そんな夕日の声が響き、ものすごい暴風があたりに吹き荒れる。


ガタガタと音を立てる家々と、空に舞い上がっていく屋根瓦の群れ。


台風さながらの光景が、そこには広がっていた。


「こ、これは……予想外だな」


吹き荒れる力の奔流を見据え、顔をひきつらせるムーン。


自らは魔法壁をはって影響はないが、周囲の一般人に対する影響は甚大。


本来、儀式によって魔法少女を誕生させる場合、大抵はその子の魔法使いとしての才能に呼応し力が上下する。


だが、今目の前にいる少女の力は測定不能なほど荒れ狂っている。


千年に一人、いや数万年に一人クラスの魔法使いの逸材。


儀式を終えたばかりで、これほど魔力を撒き散らす少女など魔法少女の歴史の中で誰一人としていない。


――こ、これなら……本当に世界いや宇宙を支配してしまうかもしれない


ゴクリと唾を飲み込み、世界と宇宙の行く末を憂うムーン。



そんなムーンの耳に、実に愉快そうな夕日の声がはいってくる。


「あはははッ、わたし本当に魔法少女になっちゃった☆」


少女とは思えない高笑いをあげ、手に持った漆黒のステッキをムーンに向ける夕日。


周囲に充満していたまばゆい光は消え、吹き荒れていた暴風もおさまり……ベランダに佇むは漆黒のひらひらドレスを身にまとった魔法少女――如月夕日。


足元に赤々とした魔法陣を展開し、背中には悪魔を思わせる邪悪な双翼がゆらゆらと揺れている。


そのあまりに強力な夕日の姿に、ムーンは言葉を失ってしまう。


――ち、ちょっと待って……既に全盛期の神様と魔王の力を超えてんだけど?


なぜかこちらに向けられた、漆黒のステッキ。


それを涙目で見つめ、ムーンは生まれてはじめて死を覚悟する。


――こ…こ…こんな化け物魔法少女が生まれるなんて、誰が思うよ


一刻もはやくこの場から逃げなければ、間違いなく死ぬ。


そう自分に言い聞かせ、ムーンは夕日に背中を向けて勢いよく羽ばたく。


「じゃ、じゃあねッ、 ぼくちょっと用事を思い出しちゃったんだ!!」


必死に声をあげ、死に物狂いで夕日から遠ざかろうとするムーン。


夕日は、その自分から離れていくムーンを満面の笑顔で見据え――


「こんな力をくれてありがとねッ、これは魔法少女になったわたしからのささやかなお礼のしるし☆!!」


チャーミングなウインクをし、魔法少女らしからぬ暗黒の魔力をステッキの先端に凝縮させていく。


再び吹き荒れる台風さながらの暴風と、圧倒的な魔力の奔流――。


ステッキの照準をちいさくなったムーンの背中に固定し、


「受け取ってッ、これがわたしの感謝の形!!」


そんな声と共に、凝縮された漆黒の魔力をなんの躊躇いもなく発射する。


轟音と共に、夜の闇に同化した漆黒の魔力の塊がムーンに向かって殺到していく。正確無比、一点のズレも生じさせることなく――。


――死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……死んでたまるか!!


全力で羽ばたき、背後に迫る魔力の気配から懸命に逃れようとするムーン。


ここまで本気で羽ばたいのは、何百年ぶりか。


「魔法少女にしてやったってのに、なにこの仕打ち!?」


愚痴を吐き出し、ムーンは目を充血させる。


だが、そんなムーンの悔しさと怒りをあざ笑うかのように――


「ほら~~、もっとはやく飛ばないと追いつかれちゃうよ!!」


耳元で、夕日の楽しそうな声が響き渡る。


ムーンは、スピード落とさないようにして横に視線を向けてみる。


そこには、無邪気な笑みをたたえる夕日の姿があった。


どうやら、飛行魔法を発動したようだ。


魔法使いになって僅か数分で飛行魔法を会得しやがった。


本気でこの少女は、魔力だけでなく才能も桁違いだ。


ムーンは、愉快そうな夕日を睨みつけながらも更にスピードを上昇させる。


――もはや魔法使いってレベルじゃない、これは人の世に居てはいけない存在だ


人外を魔法少女にしてしまった――。

この責任はあまりに重い。


だが、今は責任云々より助かることだけを考えなくては。


生きて月の世界に戻って、この化け物をとめる対策を立てないと……月までも危ない。


そんな思いで、必死に逃走を図る月の妖精――ムーン。


しかし夕日は、その思いを打ち砕くかのように――


「必死に逃げてるとこ悪いんだけど、このわたしの魔力は対象を破壊するまで永久に消えることはないよ☆」


その一言で、ムーンの生きる希望が粉々に粉砕される。


――え、永久に……だと?


顔から血の気がひき、ムーンは青ざめる。


その拍子に、ついムーンは飛行速度を落としてしまう。


「永久にって……えっ? そんな馬鹿なことが――」


魔法の常識は、一定時間が経てばその効力は失われる。


だが、今この化け物は"永久に消えない"とぬかしやがった。


もはやこの少女には、魔法の常識すらも通用しない。


信じられない、といった様子のムーン。


だが夕日は、そんなムーンに対し――


「あ~~あ、もうおしまいだね……残念残念」


わざとらしく声をかけ、首を横に振る。


そして――


「でもね、"お前"にはとっても感謝してるんだよ。だってこんなにも素晴らしい力を……わたしに与えてくれたんだからね」


そう冷酷に言い放ち、素早くムーンの前にまわりこむ。


「!!」


進路を塞がれてしまった、ムーン。


背後からはどす黒い魔力が迫り、眼前には漆黒の翼を揺らす如月夕日の姿がある。


「ふふふ……ばいばい妖精さん、後はわたしだけでやるから」


唇をつりあげ、夕日は漆黒のステッキを振りかぶる。


「ちょっ……ま――」


なんとか話をしようとする、ムーン。


だが夕日は、ムーンが口を開く前にステッキを叩き込む。


ドカッ!!


鈍い音が周囲に響き、同時にムーンの体がどす黒い魔力のほうに吹っ飛ばされていく。


そして、次の瞬間には――


「おぉ~~ッ、これはまた綺麗な花火だね」


ムーンとどす黒い魔力がぶつかり合い、綺麗な七色な光が夜空を彩る。


その七色の光は、まさしく芸術もの。

人の力では決して表現できない、神秘の光景――。


「いい眺め、うっとりしちゃう」


霧散していく、ムーンと己の魔力の粒子。


それを見つめ、夕日は微かに頬を染める。


力を与えた少女に消されてしまった月の妖精――ムーン。


その体を構築する魔力の粒子は跡形もなく消滅し、もはや復活は絶望的になってしまった。


本来なら、ムーンが夕日のパートナーとなるはずだったのだが……想定外の力の前にその役割を果たせずに散ってしまったのだ。


「さて、と。力を手に入れたことだし……どこからわたしの夢の成就に着手しよっかな?」


夜空の中で、思考を巡らせる夕日。


このまま各国をまわって主要都市を破壊するか、目に付くものを手当たり次第に消していくか――。


世界を征服するには方法はいくらでもあるが、宇宙となると話は別。


――まぁ、宇宙の征服は世界の征服が終わってから考えればいっか


頷き、改めて自分の住む町を見下ろす夕日。


空から俯瞰すれば、全てがちっぽけに見える。


このまま自分が魔法を発動すれば、日本に対しての宣戦布告が完了する。


「う~~ん、先に自分の国を潰してもいいんだけど……どうしよっかな?」


夜風になびく髪の毛をおさえ、夕日は潰す国の優先順位を考える。


――別に日本は最後でもいいかな、どうせすぐに潰せるんだし


日本は最後に潰すことに決定し、


「んじゃ、強い国順に潰してけばいいよね。 だとしたら……最初のターゲットは――」


"アメリカ"。


「単純に軍事力で決めちゃったけど、別にいっか」


くすりと笑みをこぼし、世界征服の第一歩目は最強の軍事力を誇るアメリカを完膚なきまでに叩きのめすことに決定する。


そうと決まれば、色々と準備しなければならない。


実力の面では魔法少女になった夕日が圧倒的に上だが、数では向こうが圧倒的に上。


もう一人、魔法少女がいれば話もかわってくるが……妖精を消してしまった今では新戦力の期待はできない。


「いざとなったらわたし一人で乗り込むけど……一人だと時間がかかりそうだしね」


声をこぼし、夕日は仲間を増やす策を練る。


だが、これといっていい策は思いつかない。


――う~~ん……、気長に仲間が現れるのを待つしかないかな


そう内心で呟き、夕日は溜め息を漏らす。


「妖精を消したわたしを敵と見なして、なにかがやってくるかもだし」


頷き、"敵"として魔法少女が自分の元にくることを願う夕日。


魔法少女に限らず、人外の化け物でも構わない。


片っ端から平伏させて、自分の奴隷にしてやる。


そして、ある程度の駒が揃えば一気に世界征服に着手していく――。


アメリカを落とせば、後は簡単だ。

ドミノ倒しのようにサクサクと世界征服が進む。


「時間はたっぷりあるんだし、ゆっくりコツコツやってけばいいよね……うん、そうジグソーパズルみたいに」


邪悪な笑みをそのかわいらしい顔にたたえ、ゆっくりと夕日は自分の家のベランダへと戻っていく。


力を手に入れた満足感と、叶わないと思っていた夢が成就することへの幸福感――。


その2つの感情が夕日の胸に充満し、自然と頬も綻んでしまう。


――うふふふ、今日から全てが変わるのよ……このわたしを中心にして


魔法少女になれたことへの感謝と、自分が頂点に立っているということに対する優越――。


それが、たまらなく嬉しい。


ゆったりと夜空を飛行し、


「あーーッ、なんだかすっごくいい気分!!」


そう声を発し、夕日は純粋なる夢への挑戦に大きく心を膨らませたのだった。

勢いで書きました。

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