第7話 ロマンシエント
お久しぶりです!受験で期間が空いてしまいました。本当にごめんなさい(汗) 連載再開します!
荒涼とした大地を一人歩く僕、セウィロウ。
息が白く揺れる。追跡魔法が指し示す先はただひとつ――第二の魔王城。
本物の魔王城は、魔王が眠るだけの場所にすぎない。
しかし、ここは違う。
かつて『触れたもの全てを魔王に変える』禁術を使い封印された大魔法使いが眠っている。
その名は、ルガ=ヴァルザード。
誰も近づこうとしなかった、もう一つの魔王の巣。
(……ここがセイバーを奪い返す鍵になるなら、行くしかない)
扉の前に立つと、空気が歪んだ。
音もなく巨大な石扉がわずかに開き、闇の奥から無数の魔紋が浮かび上がる。
「……人間か。珍しいな」
声が頭の中に直接響く。
「僕はセウィロウ。お前に頼みがある」
「……頼み、だと?」
「僕を……魔王にしてくれ!」
一瞬、空間が止まった。
次の瞬間、ルガの笑い声が響く。
「……ハハ……ハハハハハハッ!おかしなことを言う」
「笑うな!!」
「笑わずにはいられるものか。お前――元々魔王だろ?」
「………………は?」
心臓が凍りつく。その言葉が届いた瞬間、景色が反転した。
頭の奥で、何かがフラッシュバックする。
――黒い玉座。
――闇の軍勢。
――赤髪の勇者。
(……そうだ……僕は……あのゲームの――)
『ロマンシエント』。セイナルファンタジーと同じ時期に発売され、ほとんど知られることなく埋もれた作品。
その魔王――ゼル。確かにそこに「僕」はいた。
何度も倒され、何度も蘇り、最後に削除された存在。
足が震える。
僕はこの世界に転生した魔王だった。
そして今、再びその力を呼び覚まそうとしている。
「どうしたセウィロウ。いや――魔王ゼル。思い出したか?」
ルガの声が静かに響く。
僕は頭を押さえ、膝をついた。
記憶の断片が次々と脳裏に蘇る。血のように赤い空、無数の眷属、そして自分を呼ぶ声。
「そうか……僕は、魔王ゼル……ロマンシエントの魔王だったな」
その瞬間、瞳の色は深紅に染まり、声の響きも変わった。
かつての冷徹さと威厳が戻ってくる。
「封印の影よ、我が力を奪った愚か者どもよ……覚えておけ。ゼルは再び目覚めた」
空気が震え、城に刻まれた魔紋が、一斉に脈動する。
俺は立ち上がった。
「……タクミ。セイバーを持つ少年……あの名を久しく聞いていないな」
魔法陣を見下ろし、低く問う。
「奴は今、どこにいる?」
沈黙をあと、答えが返る。
「……本物の魔王城に向かった」
俺は口角を歪めた。
「フッ……そうか」
向かう先は、真の魔王城。タクミがいる場所。
運命の再会が、静かに近づいていた。
あの夜からどれだけ経ったのか分からない。
焚き火の炎は小さくはぜ、赤い光が砂の上を揺れている。
俺は石を転がしながら、同じ言葉を頭の中で繰り返していた。
(……セウィロウを、仲間にする、ねぇ)
正直、考えたくなかった。
それでも、SUGURUの言葉がずっと耳に残って離れない。
『君を殺さなきゃだめだ』
ああ言われたら、考えずにはいられないっつーの。
けど、あいつの顔を思い出すだけで、胃がひっくり返りそうになる。
セウィロウ……いや、“あの時のあいつ”。
狂気に満ちたあの笑い声が、耳の奥にこびりついている。
「どうして……あんな奴を仲間に……」
ため息をついた瞬間、背後から声がした。
「おーいタクミ、ちょっとポーション買ってくる!」
あまりにも軽い声だったから、思わずズッコケそうになった。
「え、今?」
「今でしょ!」
満面の笑みで親指を立てるSUGURU。
いやいや、こんな状況で「今でしょ」と言われても。
「いや、ちょっと待ってください。どこで買う気なんですか。ここ魔王城の跡地っすよ?」
「大丈夫、ちょっと東の集落に店があるんだ。そこのおばちゃん、僕のこと推してるからさ〜、まけてくれるんだよ」
「…はぁ」
(……プロゲーマーの特権かよ)
肩をすくめると、SUGURUは軽く手を振った。
「考えすぎんなよタクミ。お前がどう決めても、僕は味方さ」
そう言い残し、彼は夜の闇へと消えていった。
残ったのは焚き火の音と、微妙に気まずい静けさ。
「……味方、ね」
俺は膝を抱え、ぼんやりと炎を見つめる。
揺れる火の中に、セウィロウの笑みがちらつく気がして、思わず目をそらす。
火がパチンと弾けた。
その音が、「選べ」とせかしてくるように聞こえた。
――パチッ。
火花が夜空に散った次の瞬間、炎がスっと消えた。
まるで、誰かが息を吹きかけたみたいに。
「え……?」
あたりは一気に闇に包まれる。
月明かりだけがかろうじて地面を照らしている。
風も止まり、音も消える。まるで、時間ごと止まったみたいだ。
嫌な予感が背筋が這い上がる。
喉が乾き、声を出そうとしても出ない。
焚き火の残り香に、金属のような……焦げた血の匂いが混じっていた。
――ギィ……ギィ……。
足音が近づく。
硬い地面をゆっくりと踏みしめる音。
「……だ、誰だ……?」
声が震えた。
でも、返事はない。
かわりに、黒い影が月明かりの中からヌッと姿を現した。
長いマントを引きずり、金色に輝く髪が額から垂れている。
目は深紅に光り、まるで闇の中でだけ生きているようだった。
「――久しいな、タクミ」
その声を聞いた瞬間、全身が凍りつき、体温が奪われていく。
喉の奥から、かすれた息が漏れた。
「セ、セウィロウ……?」
違う。
その目は、もうあのセウィロウじゃない。
底知れない魔の気配をまとったその姿は――
「ゼルと呼べ。今の俺は、かつての魔王だからな」
背筋が粟立つ。
焚き火が消えた理由が、ようやく分かった気がした。
空気が重い。息を吸うたびに肺が痛む。
「ま……魔王……?」
ゼルは微笑んだ。
その笑みは、あの狂気と同じものだった。
「探したぞ、タクミ。ようやく……見つけた」
ゼルが一歩、踏み出す。
その足音が、世界の終わりを告げる鐘みたいに響く。
(やばい……死ぬ……)
空気が押し潰されるように重くなり、視界が歪む。
膝が勝手に震え、呼吸が浅くなる。
(……こんなの……勝てるわけがない……!)
「どうした?剣を抜かないのか、この泥棒ネズミめ」
ゼルは首をわずかに傾げる。その仕草すら狂気に満ちていた。
「……っ!」
歯を食いしばり、腰の剣を手にかける。
抜くしかない。逃げ場は、もうどこにもない。
「はあああああッ!!」
叫びと同時に剣を引き抜く。青白い光が闇を切り裂いた。
次の瞬間――
「遅い」
ゼルの姿が視界から消えた。
「え――」
ドンッ!!
衝撃が腹に突き刺さる。
体が宙に浮き、肺の空気が一瞬で吐き出される。
声も出せないまま、地面に叩きつけられた。
「がっ……は……ッ」
転がりながら、必死に息を吸う。
見えなかった。何一つ。
「これが我の力だ。さぁ、セイバーを返してもらおうか」
足音が近づく。ゆっくりと、確実に。
「……っ、くそ……!」
剣に体を預けるようにして立ち上がる。
足の震えが止まらない。それでも構え直した。
「ほぉ」
ゼルの目がわずかに細まる。
「いい度胸じゃねぇか、折れない奴は嫌いじゃない」
右手が持ち上がる。黒い魔力が集まり、球体となって脈打つ。
(やばい……これを食らったら……)
…終わる。直感がそう告げる。
「消えろ」
振り下ろされる瞬間、俺は前へ踏み込んだ。
「うおおおおおおおおッ!!」
恐怖を押し殺し、一直線に突っ込む。
逃げたら終わりだ。なら、前に出るしかない!
「……お?」
ゼルの口元がわずかに歪む。
剣と魔力がぶつかる。
――ギィィィィンッ!!
衝撃が弾け、周囲の地面がえぐれる。
全身が軋み、腕が砕けそうになる。それでも――
「負けるかよ……!!」
腕に力をかけ、全力で押し込む。
一歩でも、ほんのわずかでも。
その意思に応えるように、セイバーの光が強まる。
「……面白い」
楽しげに笑ったゼル。
「ならば、もう少し遊んでやろう」
魔力がさらに膨れ上がり、圧が倍に増す。
足が地面に沈み、膝が崩れかける。
(……ダメだ……もう……)
意識が遠のいた、その時――
「――おいおい、面白いことやってんじゃん」
軽い声が割り込んだ。
空気が変わり、重くのしかかっていた圧が、一瞬だけ揺らいだ。
「ポーション買って戻ったら、これって…ワクワクさせんなよ」
「……SUGURU……」
ゼルが瞳を細める。
「ほう……貴様が例の転移者か」
SUGURUは袋を地面に放り投げ、軽く首を鳴らした。
「タクミ、悪いけどさ」
さっきまでとは別の強さが場を支配した。
「こいつ、今は僕のだから。下がってろ」
庇うように俺の前に立つ。
ゼルはしばらく無言でSUGURUを見つめ、やがて笑った。
「いいだろう、相手を変えてやる」
ゆっくりと腕を下ろし、赤い瞳がSUGURUを射抜く。
「貴様とやろう」
SUGURUはニヤリと笑う。
「そう来なくっちゃ」
二人の間で、見えない何かが弾ける。
俺は膝をついたまま、ただ見ることしかできなかった。
次回予告
鋼のように重い一撃が夜を裂き、常識を置き去りにした戦いが始まる。
魔王ゼルとSUGURU。ぶつかり合う力は拮抗し、衝突のたびに大地が軋む。その余波すら、タクミには致命的だった。
ただ見ていることしかできないのか。守られるだけで終わるのか。
最後まで見てくれてありがとうございました!良かったらブックーマーク保存、高評価よろしくお願いします!




