第6話 謎のプロゲーマー SUGURU
ちょっと事情があって題名変えました。
魔王城を出たとき、夜空が不気味なほど澄んでいた。
風が吹き抜けるたび、崩壊している石の破片がカラカラと音を立てる。
あの時の白銀の光。
気づいた時には魔王が塵になっていて、現実味が無かった。まるで夢のように。
(でもあの感じ、どこかで見たことがあるような……)
脳裏で、ある裏技の噂が頭をよぎった。
「セイバー……」
かつて、ネット掲示板で見かけた、ただの都市伝説だと思っていた技名。
一部のゲーマーしか知らない、チート級のバグ。それを発動すると、どんな強敵やラスボスでも一撃で消し飛ぶ――そんな、デタラメのような噂。
(……まさか、あれがそうなのか……?)
でも、どうやって発動させたのか分からない。
何より、俺はそんな力持っているはずが無いのだ。
「……ありえねぇ……」
そう呟いた時だった。
――ギィィィ……
魔王城の門が開く音がした。誰かがこちらに向かって来る。
振り向いた瞬間、フードを被ったいかにも怪しい謎の男が立っていた。
「だ、誰ですか?」
恐る恐る声をかけると、フードの男は一瞬だけニヤリと笑った。
どこかで見たことがある口元……、なんか、ゲーム雑誌で見たことあるような……。
「お前、セイバーなんて所持してたのかよ!!」
いきなり放たれた言葉に息を呑んだ。
セイバー……、やっぱりそうだったのか。
でも、なぜこの人がそのことを?
「間違えねぇ……、やっぱあの光はセイバーだ!俺でも扱えなかった魔力だぞ!」
扱えなかった?この人、ちょっとおかしい。
「あの、何者なんですか?」
その男は口角を上げ、ゆっくりとフードを外した瞬間、月明かりにその顔は照らされた。
まんまるな輪郭に、縁が太いメガネがキラリと光る。
「ま、まさか……」
「……フッフッフッ、そう、僕の名はSUGURU。日本を代表するプロゲーマーだ!!」
俺は思わず目を見開いた。
彼はeスポーツ界のレジェンド的存在で、世界大会を個人種目だけで三連覇もしているめちゃくちゃすごい人だ。
俺も実況プレイの動画や雑誌で何回も見ている。そのレジェンドが、今まさに俺の目の前にいる。
しかし、疑問もあった。
「なんでSUGURUがここに!?」
「理由はあとだ。それよりタクミ、どうやってセイバーを発動した?」
(なんで俺の名前を!?)
なんで俺の名前知ってるんだよってツッコミたかったが、彼は真剣な眼差しだった。
でも、いきなりそう言われても俺も分からない。
「……え、えーと……それは……」
動揺する俺に、SUGURUは鋭い目つきをしたので、気まずくて黙った。
「……やっぱり無自覚か」
その言葉には、少しだけ呆れと……何か決意のようなものが混ざっていた気がした。
「タクミ、よく聞け。ここにいるのは偶然じゃない」
「え……?」
「僕もな、こっちの世界に無理やり召喚されたんだ。大魔法使いサニーに」
SUGURUの表情が歪む。
「サニーはこう言ったんだ……。『この世界にセイバーを所持した異世界人を召喚してしまった。こいつの力はこの世界を滅ぼしてしまう、お前しか止められぬ』ってな」
(世界を滅ぼす……!?俺が!?)
SUGURUはさらに続けた。
「だから僕は、その異世界人を見つけるために魔王を作った。」
「は……?」
その言葉を聞いた瞬間、背筋が凍った。
「君のセイバーは、この世界に存在してはいけない。チートどころか神の力も超える威力だ。これを放っておけば……この世界は滅亡する、もちろん君もね」
SUGURUの瞳は、本気だった。
しかし、俺を見つめた途端、気まずそうに目を逸らして深く息を吐いた。
「本当は……、君を殺さないといけないんだ……」
静まりかえった空気に、鼓動が大きく音をたてる。冷や汗も止まらなかった。
「けどさぁ、正直荷が重い。だって君も同じ召喚された同士だし、それに僕もやりたくて来たわけじゃないしさ」
SUGURUは苦笑いしているけど、よく見ると拳を握りしめていて、唇を噛んでいる。
「…だから別の方法がある。もう一つ手段があるんだ」
彼の目が俺を見据える。
「セウィロウを仲間にするんだ。元々セイバーはセウィロウのバグ、だから僕が魔法で君のセイバーを転移させて彼の技にする。そうすれば、暴走を止めることも出来るし、僕は君を殺さずに済む」
「セウィロウを……仲間に?」
「そう。ずっと楽で、ずっと難しい。だから協力して欲しいんだ!一緒にやろうタクミ、君を救うために僕は全力で尽くす」
迷いもなく、俺に手が差し出された。
だが、その瞬間――。
『――ふっ……はははっ……あははははっ!!』
あの、痛ましくも狂気じみた笑い声が脳裏に焼き付くように響いた。
『キミさぁ、結局ゴミだったんだよ。目の前で仲間がやられてんのに、気絶?情けねぇ!!』
胸がギュッと締めつけられる。息がまともにできない。
差し出された手に、自然と体が後退る。指先の震えが止まらない。
『悪いけど、もうお前仲間じゃないから』
その言葉が、刃のように突き刺す。
「……っ、あ……」
喉が詰まる。返事ができない。
SUGURUの手を、どうしても取れなかった。
あの日、血まみれで背を向けて去っていった彼の冷たい背中が目に焼き付いていた。
「……どうした?具合でも悪い?」
「………………俺を殺してもいいからセウィロウのところだけは行きたくない」
とっさに吐き出した言葉は、まるで毒のように空気を濁らした。
その瞬間、SUGURUの目が大きく見開かれるのが分かった。
俺はしゃがみこみ、膝を抱えたまま唇を強く噛んだ。
怖かった。あいつを思い出すだけで、心臓が潰れそうになる。
「ど、どうしてそこまで……」
SUGURUの声は、わずかに震えていた。こんなに動揺しているところを見るのは初めてだった。
「……ごめんなさい理由は言えません。けど……、俺はもう、あいつの声も姿も……聞きたくない。見たくないんです。」
自分でも、何を言っているか分からなかった。ただ勝手に口からこぼれていく。
「……君、なんかされたの?」
問いかけには答えなかった。いや、答えられなかった。
だってそのことを言葉にしたとき、崩れてしまいそうだからだ。
そしてSUGURUは、これ以上何も言わなくなった。
俺は、ただ黙って俯いた。
けれど、その沈黙が逆に心の先に不気味な余韻を残していた。
〜〜~
僕は灰の渓谷の最奥で、巨大な魔獣『キングコンドル』と対峙していた。
翼を広げれば城ひとつを覆うほど規格外の身体、鋭利な爪、鋼のように硬質な羽根。
だが、僕にとってはただの中ボスにすぎない。
かつて、パーティーのメンバーと戦っていたころ、最強だったのは、『神竜バルクムンス』。こいつはそれに次ぐレベルだ。
だが、僕の剣があれば――七色に煌めく伝説の魔力『セイバー』があれば、負けるはずがなかった。
「終わらせてやるっ!!」
僕は愛剣を構え、最後の一撃を打ち込むべく跳躍した。そして、あの力、セイバーの真なる能力を発動させるはずだった。
剣が、光らない。
「……っ!?な、なぜだっ!!」
何度集中しても、力が湧いてこない。
あの独特の光も、音も、何も起こらない。ただ剣を震えさせているだけだった。
その瞬間、キングコンドルの目が光った。
気づけば、僕の身体は宙を舞い、 空高く遥か遠くへと吹き飛ばされた。
落下の衝撃で背中を強打し、視界が歪む。
起き上がることさえままならず、空を仰ぎながら己の手に握られた剣を見つめる。
――まさか、盗まれた?
脳裏に浮かんだのは、あの少年だった。
あの日、ゴブリンが襲撃していたとき、少年が持っていたあの剣。その時は意識が曖昧でよく分からなかったが、七色に輝いていた。
まさか、あの剣が……?
「いや、でも、二階に置いてあった剣だと思うし、そんなわけ……」
疑念は、確信へと変わりつつあった。
もし、あの剣にセイバーが封印されているとしたら?
あの少年が、「所持者」として覚醒しているのだとしたら?
「……チッ、冗談じゃねぇ」
まだ自分には念があると信じたい。だが、今はあまりにもそれを否定していた。
そして僕は、風が強く吹く断崖の縁で、たった一つの答えにたどり着く。
――取り戻すしかねぇか。
次回予告
行方不明のタクミを探す手がかりは、たったひとつ——位置を特定する追跡魔法。
その魔法が示したのは、よりにもよって魔王城。
「……少年が、魔王城に?」
だが、セイバーを奪い返すためには、自らが魔王となるしかない。
扉を叩くその決意に、迷いはなかった。
「僕を……魔王にしてくれ!」
敵か味方か、立ちはだかるのは未知なる存在。
その瞳は、すべてを試す者の色をしていた——。
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