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野球観戦で隣の席になったのは学園の王子さまでした

作者: あひる3世

「失礼します」



 目の前に座る人にそう言ってから私は右端から2番目の席に着席する。



「ありがとうございます」



 私が通るスペースを作るために荷物を引っ込めたくれた横の人に感謝を伝える。

 


「別に」



 だいぶ素気ない返事だ。

 何となく顔を見たくなって横を見ると相手の男もこちらを見ていた。



「え!?」



 私はつい驚きの声をあげてしまう。



「どうも」



「ど、どうも?」



 軽い感じに挨拶をされた私は動揺しながらも返事を返す。




 彼が私のことを知っているのかは知らないが、私は彼のことを知っている。



 私が知っているというか…

 ウチの高校で彼を知らない人はいないだろう。



 なんせ、何故か私の横にいる北川隼人という男はウチの高校で女子からとんでもない人気を誇るアイドルような存在だからだ。



 それがまさか野球場で出会う事になるとは。




 そんな衝撃的な出会いから2週間が経過したのだが……




 なんか隣の部屋に奴が住んでいたのだ!!

 いや、どういうこと!!



 私はこの春から親の転勤に合わせて一人暮らしをしているのだが、まさか隣の部屋の住人が学園の王子さまだと誰が想像できるだろうか。



「あーあ、負けちゃった」



 そして奴はいま私の部屋で呑気にスナック菓子を食べながらTVで野球中継を見ている。

 同じ野球チームのファン同士という事で私たちはあれから一緒に野球観戦をする事にした。



 会ったばかりのよく知らない男を家に招くのはどうかと思ったけど、私はどうしても一緒に野球を見てくれる仲間が欲しかった。



 周りの子で野球が分かる子はいないし、同じチームを応援しているファンの友達と一緒にTVの前で野球観戦をするのは私の夢の1つだった。

 


 って! そんな事はどうでもいい!!



「早くTV消して北川!」



 奴のことよりも今は私が愛してやまない東京オリオンズのことだ!!

 


「えー、ヒーローインタビュー見ないの?」



 TVを消すように促すと奴は苛立つ私に気づかないのか呑気な事を言ってくる。



「誰が敵のヒーローインタビューなんて見るかー!!」



 自分でも心が狭いのではないかと思う。



 でも! 延長12回の表に2点を取ったのに裏の回で2アウトからショートへの内野安打とファーボールでランナーを貯めてからのからサヨナラ3ランで負けるのは酷いじゃん!



 こんな日は敵チームのヒーローインタビューなんて見たくない。

 4時間を超える熱戦を勝利で終われると思っていた私の心はささくれだっている。



 天国から地獄とはまさにこのことである。私が必死にTVの画面に引っ付いていた4時間を返してくれ。



「まぁ、落ち着きなよ先輩」



 そう言って奴は自分が食べていたスナック菓子を私に渡してくる。

 


「ありがとう」



 もう食べなきゃやってられない。



「俺が綺麗にしてあげる」



 スナック菓子を食べたせいでベトついた指をウエットティッシュで拭こうとする私を見た奴は何をトチ狂ったのか指を舐めやがった。



「何してんの!!」



 怒りやら恥ずかしやらで真っ赤になった顔を隠すように私は奴の頭を全力ではたく。



 そんな私の攻撃を嘲笑うかのように叩かれた奴はニヤニヤしながらこう言った。



「顔真っ赤だよ茜先輩」



 くぅー! 誰のせいだと思ってるんだ!

 イケメンなら何をしてもいいと思うなよ!



 っていうか、これで恥ずかしがってたら私が負けたみたいでなんか嫌だな。



「気のせいよ! 気のせい!」



「本当に?」



 そう言ってこの男はおでこがくっつきそうなぐらい顔を引っ付けてくる。



 だから顔が近いって!



「目を逸らさないでよ」



「そ…逸らしてないし」



 目を逸らしているのを認めるのは癪だから否定するけど、明らかに目を逸らしてるのに認めないのは逆にダサいのでは?



 でも…こんな整った顔に至近距離で見つめられたら誰だってこうなるでしょ。



 このイケメンめ!



「ふーん、そっか」



「な,何よ?」



「別に。ただ、茜先輩は可愛いなって思っただけ」



「な!」



 この男は真顔でなんてことを! 

 確かに私は恋人が出来た経験も無いような女だけど、だからって私をからかって遊ぶんじゃない!



 私は恋人を作らないだけで作れないわけでは無いんだ…



 本気を出せばね…ほら今年は受験もあるし男にうつつを抜かしてる場合では無いだけだ。



 


 しっかりしろ生田茜!

 あんな顔だけ男に負けるな!



 こうして私と奴の関係は始まっていくのだった。


 


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