言葉を話す魔物(聖女視点)
この世界の魔物は知能はそこまで高くない。また自分の縄張りを荒らされたときや食糧難に陥った時、攻撃することがあるが特に凶暴なことはなくむやみに人を襲ったりすることはない。
しかし私のまえにいる魔物は言葉を話す。
「なっ…なんで魔物が言葉を…」
「人間ハコレダカラ。想定外ノコ、トニ遭ウト困惑ㇱ受、ケ入レヨウトシ、ナイ」
「くっ…」
「話ヲ戻、ソウ」
「…アノ女本、来ワレワ、レガハラス、ベキ相手デハ、ナイ癖二、出シャバリ、消滅サセタ」
「………」
とぎれとぎれだった声は徐々に理解できるものになっていく。
言葉の意味は分かったが、何のことかわからない。私だけではなく、それは皆が同じだった。
突然の出来事にその場にいるすべてがその光景に驚き、攻撃をやめ、声に耳を傾けている。
「消滅シタと、思ッタ シカシ、ワレワレはトアル物へ、閉ジコモル事で、チカラを蓄エタノだ」
不気味な声は私たちの言葉を待たずに続ける。
「覚えテ、いナいか?」
「…私…?」
「お前が戦ッた、あの女。何か身にツけていなかっタか?」
「あの女…?」
大海蛇はまっすぐ私を見ながら言った。
急に言われて困惑しながらも頭が記憶を探っていく。
私が戦った…
私がまともに戦ったのは、今はその記憶をなくした彼女…レイア・コンスタン嬢だ。あれ以来模擬戦はしてきたものの、あれから今まで戦った記憶はない。
彼女との戦いを思い出す。
レイア嬢が身に着けていたもの…
「腕輪…?」
「そう、腕輪に潜ませてもらった。入ったは良いものノ、ワレワレも弱っていたので出てこれずにいたのだが…お前が傷つけてくれたおかげでワレワレが出てこれた」
彼女が身に着けていた腕輪。相手の魔力を奪うもので陛下がいうにはレアドロップアイテム。
「アノ腕輪は力を奪う性質であったから。存外早く回復ができた」
「なっ何言ってんだよ!お前みたいなでっかい魔物、腕輪になんか入るわけないだろ!」
ケイトが至極まっとうなことを言い放つ。確かに平民の家一軒分くらい大きさのあるその魔物がどうやて腕輪に入ることができるのだろう。
「魔術を使うとしても…君たち海蛇にはそういった高等なものは覚えないはずなんだけれど」
「アア、これはただの入れ物だ。ワレワレ、と言っているだろう?ここに入っているのはひとつのものではないのだ」
それは楽しそうにしている。その海蛇に慣れてきたのかだいぶ流暢に話していた。それは私たちが正解にたどり着かないことが面白いようだ。心なしか大海蛇も口の端を上げて笑っているように見える。
「なんなのだ…貴様は」
「こらえ性のないことだ」
そういった後、大海蛇はゆっくりと瞳を閉じた。
「…!?」
そして
私たちの前に赤紫の靄がやってくる。
「やあやあ諸君、ごきげんよう」
「……っ!?」
高い声、低い声。ひとつではないたくさんのものが混じった声が調子よく言葉をかける。
それは私と同じくらいの丈をしていて、しかし体の大きさに合っていないぼろぼろの服を着ている。
目をこらすとそれはどうやら貴族が身に着けるような高級そうなものであり、上はぶかぶか、下は極端に短すぎる。
顔部分だが人のモノではなく。ぬいぐるみのようなものが頭についていた。目の部分はくりぬかれ赤と黒で塗られている。
「私はオンネン、と言われているよ。君たちには恨みはないけどここでサヨナラだ」
両手を胸の前に持ってきて、それは幸せそうにうっとりしながら言った。
「「伏せろっ!」」
それが放った衝撃の軌道は柔らかい砂でも容赦なくえぐっていく。
騎士団の二人の声に反応できたからよかったものの、食らっていたら大変なことになっていただろう。
「うーん、実体を作ったのは久しぶりだからなぁ、まだまだ慣れていない」
仰々しく舞台で演じているかのように大げさに肩をすくめてオンネンは言った。
至極楽しそうである。
「各々、自分を守れ!」
(あれは…スキを見て撤退の合図)
ニール様が手を高くあげ、強烈な光を放つ。
作戦会議で決まっていた作戦の合図だ。実際には「撤退」の言葉と共に出すと話していたが、相手が言葉を理解できるため、こういった対応なのだろう。
(こんな奴にスキなんて一体いつ逃げればいいの…)
「貴方の相手は私でしょう!!!」
後方から元気溌溂な声がした。
…いやいや、彼女がここにくるはずがない。私が参加しないで、って言ったんだから。
「ずいぶん遅かったね。待ちくたびれたからうっかり傷つけてしまうところだったよ」
オンネンは首を傾けながら、彼女の来訪に目を輝かせた。
「レディはいろいろと支度をしなくちゃいけないんですよ。器量の良さが見たいものですわね」
「時刻を守ってもらわないと、ワレワレだって君をレディとは扱えないよ」
貴族の遠回しの言い方が飛び交う。私たちはその状況と陛下の来訪に気を取られていた。
「どうして…」
「この世界を守るため。異常事態は早急に終わらせます」
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