いったん落ち込むとどこまでも潜っていきますよね
ケイトは生まれながらにして高い魔力を持っていた。平民で、だ。
高い魔力を持っていることは貴族の養子になることもあるが、彼の住む地域では魔法が使える人間がいなかった。
そのため、奇妙なモノが憑いた、関わってはいけないと噂され、はじかれるようになった。
迫害は彼だけではなく、彼の家族にも及ぶ。彼の親はまだ、耐えることができたが問題は彼の弟だった。
親が避ければ子も避ける。子どもはそれから更に虐めへと発展した。とうとう彼の弟が大けがをした時、ケイトの押さえられていた感情と共に魔力も暴発した。
いじめていた子どもは大したことはないがけがを負う。村の人間は自分たちの苛めを隠すこと、ケイト一家が出ていくことでけがを負わせたことを不問とした。
こうして彼ら一家は村から出ることになる。
「海の神は、魔力に惹かれると聞いた。魔力の強い俺が生贄になればきっと誘われて、怒りをおさめてくれると思ったんだ」
「誰にも必要とされないから、俺は」
彼は悲しげにそう言った。
「大丈夫、私たちが魔物をなんとかする。貴方は自身のこれからを考えて」
魔物は退治できる。彼の環境を変えるのは彼の気持ちが大事だ。彼が環境を変えたいと思うのであればいろいろと伝手もある。
「わかった。ところでさ、魔物の討伐に俺も参加させてほしいんだ」
「…」
「俺は、魔力はあるけど正しく使ったことがないんだ。こんな俺でも魔物を倒すための力になるのなら…俺は役に立ちたい」
「…」
「アンタ…女王サマは俺の命を救ってくれた。すこしでもできることがしたいんだ」
「……講師はとても厳しいです。それでも耐えられますか」
止めても無駄だろう。意図していないが彼のルートも確保してしまっている。止めて無理やり戦闘に参加するイベントもあるくらいだ。
「厳しいのは、慣れてる」
◇◇◇
「疲れた…」
ビーチからの帰り道。ケイトとは彼の宿舎の前で分かれて一人ホテルまでの道を歩いている。
彼との外出は想定外だった。彼の戦闘参加表明イベントはもう少し後半になってから起きるはずだ。ここまで心を許しているとは…彼の環境は思っているよりもとても過酷なのかもしれない。
…ゲームとのズレが生じている。やはりというかなんというか。
おかげですっかり夕日が見えている。予定が思うように進まなかった。
(そうだ、リュカ)
すっかり考える暇がなかったが、彼に詫びていないことを思い出す。私は急いで持ってきている緊急用の携帯端末を取り出した。
前世ではなくてはならない存在だったが、いざこういう電子機器から離れて過ごしてみると使えるときに使わない。画面をつけてみると何件かメッセージがきていた。
(わーごめん、気づかなかった…)
確認してみるとロキからの連絡とアリナのおすすめの店を見つけたというものと、属性の長達からの準備の進捗報告のものだった。
彼からのそれは見当たらなかった。
(リュカ、怒ってるかな…それとも何か事故に遭ったとか)
いやいやいや。ここは観光の街。治安が悪いということはないだろうし、施設内は徒歩移動が基本であり、事故などは考えにくい。
(どうしよう、とりあえず連絡しなきゃ)
そう思い、何度か鳴らしてみるも繋がらず。
(メッセージ、読んでね…)
今日の誘いに答えられなったことの謝罪と、埋め合わせで一緒に出掛けてほしいことを書き、送信する。
(あーあ)
せっかく休暇に来ていて、ゲーム通り(少し早いところもあるが)進んでいるのになぜか私の心は晴れない。現実とゲームが違うことがストレスなのだろうか。ゲームと現実は違うことはわかっている…頭では。
思えば、今まででもあった現実との違いは自分に悪いものではなかった。
聖女の件から、自分に不利益なズレが生じた。
(ああ。怖いんだ私)
それまで登ってきた階段が崩れていくような、指標が崩れていくような恐怖。
前世ではそれが当たり前だったのに。私は過去の経験にすっかり頼りきりになっていた。
聖女の件はうまくいったが今回もうまくいく保証はない。それがたまらなく恐ろしい。
ホテルまで残り少し、というところ。あるカフェの前で見覚えのある銀髪がいた。
(…リュカだ)
普段のそれとは違うラフな格好だ、遠巻きだけど眼鏡もかけてる。珍しい!
落ち込んでいた気持ちが少し浮ついた。話を聞いてくれるだろうか、でも先に謝らなくては。甘えることはできるかな。ああ早く向かいたい。
そう、思っていた。
彼に親しげに話す、金髪の美女を見るまでは。
☆とわきら キャラ紹介☆
ケイト
星雲のソワレで登場するキャラ。
黒の天然パーマに赤い瞳。
海洋リゾート地クーで働いている。平民だがありえないほどの魔力を持っている。魔力もちであることやその姿も相まって村から忌み嫌われていた。とある事件をきっかけに村から出る。
人のやさしさに触れたことがあまりないが、主人公や仲間たちの対応には素直で大きいリアクションをする。
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