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間章~たからもの①


「よかったよかった」

「何が良かったですか。使われる身にもなってくだざい」

「いやあ俺だけだとどうしても、温情というかひいきが入っちゃうからさ」

「ユーミールにはしっかりと詫びてくださいね。今回も胃痛により参加できずにいたのですから」


「なあ、ヨルド。俺たちの陛下は素晴らしいな」

あることがひと段落ついた。それは一人の「彼」にとって長い長い道のりだった。

そしてひと段落ついたそれは彼の予想よりも大きく上回り、嬉しい結果となったのだ。


「ええ、本当に。判断なさったのが陛下でよかったですね」

「ああ。あの補佐官殿だったらアリナは極刑だ」

アリナ、と名を呼んだ彼はもしもを考え身震いする。しかしそれは起こらなかった。


「ディン、アリナ嬢の取り調べですが…」

「俺がやる。他の誰にもやらせないよ」

「そう言うと思ってました。どうぞご自由に」

(ほかの誰も率先してやろうとは思えませんからねえ)

そう思ったが、決して言わないようにした。


「彼女一筋なくせに、意識させてしまうことをするのは良くないと思いますがねえ」

「アリナは俺のこと覚えていない。だからアリナだったらどういう反応をするか、試しているんだよ」

「何がだからですか…まあ、人よりスキンシップが過剰な程度ですから。ですが気をつけてくださいよ」

「もうしないよ。ようやく舞台が整ったんだ。じっくり、存分に楽しませてもらう」

ニコニコと微笑んで、彼はカップのコーヒーを飲みほした。

「さあ、行こうかな。アリナに早く会いたい」

「お気をつけて。勘違いさせた人に刺されないようにね」


彼が去った後。

「アリナ嬢の体が、もちますかねえ…」

ため息まじりでヨルドは紅茶を口に運んだ。





◇◇◇





アリナと出会ったのは俺が7歳でアリナが3歳の時。

俺の家は魔導具を作る家、アリナの家はそれを売る家ということで交流が多かった。


今のアリナは可憐で美しく育ったが、その時のアリナは年相応の子ども。

それでも俺は彼女の笑顔が好きだった。

俺には兄弟がいなかったから、かわいい妹ができたみたいで嬉しかった。彼女を喜ばせたかった。

今思うと俺は陛下の言った「貢物」をしている父親と同じだったのかもしれない。


いつからか、アリナは不思議なことを言うようになった。

「お菓子屋さんの道が分からない?そんなのナビを使えば…」

「アリナ。ナビ、ってなに…?」

「…ああ。ごめんなさい。地図を描くわね」

アリナはそういう会話をするたびに、ごめんなさいと言った。

俺は分からないことが悲しかった。

アリナは悪くないのに。


次第に俺がアリナの家に行っても、姿を見せることがなくなっていった。

使用人に聞いても、出たくないと言っていてアリナに会えない日々が続いた。


それをどこからか聞きつけた貴族の息子が、アリナのことを悪く言ったので殴りかかったこともある。


そこからアリナへ手紙を書いた。何気ないことや昔のこと、返事はなかったけど読んでいてくれたらいいなと思っていた。


何年かして、アリナが社交に出ると聞いた。とある子爵のお披露目会。その時ルル―家は貴族ではなかったが、大商家ということでパーティには呼ばれていた。

久しぶりに見るアリナはその会場にいる皆が息をのむほど美しかった。

だが俺はどんなに美しくなっているよりも、あの頃の面影がほんの少し残っていたことが嬉しかった。



「あ、アリナ…」

恐る恐る、声をかけた。

アリナが笑顔で応えてくれることを、その時は信じていた。


「…?初めまして。ルル―家の長女アリナです。どうぞよろしくお願いいたしますね」

彼女はぎこちないカーテシーをして、他の連中に呼ばれて行ってしまった。あの時のようにふざけて、ではなくいたって真面目に。彼女の中で俺は初対面の人だったようだ。






「申し訳ない。ディン君。アリナはこもっていたときに君と過ごしていた記憶をなくしたようだ。どういう因果かわからないが、幼少期のことを思い出そうとすると、アリナはとても苦しそうにする。本当に申し訳ないが、私はこれ以上、アリナを苦しませたくないのだよ」


近づかないでほしい、要約するとそういうことだろう。俺は返事を呑んだ。そうするしかなかった。

長く続いた想いが、望まない形で終わりを迎えたのだ。





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