大好きな世界に転生させてくれて、本当にありがとうございます
色鮮やかな花畑の中、白で統一された東屋。
見慣れた光景、イベントで何度も見た。
ここは「彼」と私しかいない。
目の前の「彼」はいつもの余裕ぶった顔など一切見せずに。
(推しの照れ顔、世界の宝…)
それがまた新たな魅力に感じてしまう。
「なあ、信じられるか?この俺が君に本気になったようだ
君の笑顔が見たい、ひとり占めしたいって
…そう、思っているんだよ」
上半身だけだった立ち姿がバストアップになり…
(推しいいいいい!このセリフとその表情はもう反則というかなんというか!けしからん、もっとお願いしますう)
「君のそばにいたい。
君を…愛している」
「彼」は語る。愛の言葉を。
背景はハートの点描がきらめき、彼の胸あたりに文字盤が見える。
そこには今のセリフがそっくりそのまま表示されていた。
(……)
今日も推しはかっこいい。好き。一生応援します。
でも。
私はふとそれに違和感を覚える。
推しのその愛の言葉。
その言葉を言われるのって「私」だったっけ?
いやそもそも推しは「私」を「君」って呼んでたっけ。「お前」じゃなかった?
(いやそれがさ、ほかの人と私のライン引きだからうれしいんだけどさ)
「受け取ってくれ」
私は考えを巡らせているが、推しはそんな様子を気にせずに小箱を渡す。
-これって。
そっと開けると中身は彼の瞳、スカイブルー色のイヤリング。
(違う)
「私」が、推しからもらうのはブルートパーズの指輪。
これは
この光景は
「私」相手じゃない。
あれ
そういえば…?
ぐにゃりと視界が歪み、端から黒が覆っていく。
その中でネオンピンクの文字が浮かんでくる。
「『とわきら』続編発表」
「今度の主役は…」
「新攻略キャラも登場」
ライブの中盤で発表される大切なお知らせ。
画面が切り替わるたびに黄色い声が響く。
現実味を帯びた悪夢から
「私」は目を覚ました。
◇◇◇
私はレア・アベラール
腰にかかるくらいのアッシュブラウンの長い髪、瞳は菫色。
ゲーム「永久の煌き」通称「とわきら」の初代主人公
この世界、エテルネルの女王である。
前世の自分からは考えられないほどのきめ細かな白い手をグーパーしてから、私は頬に両手をあてた。
(もっちもちだあ…)
私は転生者である。
(まさか女王に転生できるなんてなあ…)
そしてこの世界を基にしたゲームの重度のオタクなのだ。
よりによってとわきらの世界に転生してもらえるとは。
ありがとうございます。ありがとうございます。
このゲームの良さを語りつくしたら、何日あっても足りないくらい。私はとわきらを愛している。
物心ついたときから、とわきらの世界に転生したことに気づいた私はとてもうれしかった。
私はキャラも好きだが世界観も好きで満喫したいタイプのオタクだ。
魔法の鍛錬、選抜試験、ストーリーを追体験したいがためにレア・アベラールとして、地道に努力を重ねた。
そして、ゲームの至上エンディングである女王へと即位したのだ。
ゲームのその後を楽しめるし(女王としての仕事だらけだけどね)キャラクターをじかに感じられる。
このゲームには悪役令嬢と呼ばれるものも出てこないし、これこそハッピーエンド♡と思っていたのだが、
先ほどの夢で思い出したのだ。
(「続編発表」)
「とわきら」には続編があるということを。