夜の朝食
三題噺もどき―にひゃくごじゅうはち。
※少し前に書いた「春の朝(リンク→https://ncode.syosetu.com/n4098id/)」の、吸血鬼さんのお話―のつもり※
「―――ふぁ……」
外から響く、鴉の声に目が覚める。
夕刻になるその声は、いつも決まった時間に聞こえるから、目覚まし代わりになっていい。
今日はなんだか、いい夢を見たような気がする。内容は忘れてしまったけれど。
うん。
ま、記憶に残らぬほど些細なことだったのだろう。それはそれで、いいかもしれない。
下手な悪夢にうなされるより、いいモノだ。
―長年生きているせいで、記憶は朧でも。悪夢は見てしまうらしい。
「ん―――」
まだ少しぼんやりとした思考が、ゆっくりと動いていく。
ごし―と、思っていたより強く目をこすってしまった。おかげで、目の奥が少し痛む。ジワリと。…圧迫しすぎたようだ。
大した痛みではないので、じきに忘れるのだが。
「―――くぁ…」
小さなあくびが漏れた。ついでに、涙まで。
はてさて、一体今は何時だろう。
いつも同じ時間に鳴く声で起きたとはいえ、確認は必要だ。私自身の体内時計にも、それなりに自信は持っているが、万が一というのもあるしな。
「……」
おぉ。さすが。
時間ピッタリ。
もう、長年この時間に起きているから、体が覚えてしまっている。
「……」
しかし、それにしては、外からの光が強い気がする。
もうそんな時期なのだろうか……。
カーテンを少し開き、外を覗いてみると、まだ外は橙にすらなっていない。
季節によって、日の出ている時間は異なるが……こう、月の出る時間が短くなるこの季節は少々辛いところである。
まぁ、コートを羽織ってしまえば、たいして関係はないのだが。
それでも、気持ち的には、やはり月の下を歩く方が、気分がいい。
「……ん」
きゅう―と、腹の虫が鳴く。
起きてすぐに腹が減るのも、どうかと思うが。
睡眠欲を満たした後は、食欲を満たさなければなるまい。
腹が減ってはなんとやら、だ。
―しかし、この言葉。八つ時でなくとも、過食気味でも、いい言い訳になりそうでいいな。
「……」
ん。
どうやら、先に起きて朝食を作っているようだ。いいにおいがしてきた。
気づかなかったが、部屋の隅に置いてある鳥籠の中身は、いつのまにか空っぽになっていた。
あぁ、言うのが遅れたが、この部屋には鳥籠が置かれている。
その中には、一羽の蝙蝠が寝ているのだが……今日も私より早起きをしたらしい。
「……」
寝室の扉を開き、真っすぐキッチンの方へと向かう。
そこには、案の定1人の男がいる。
「……あ、おはようございます、ご主人」
「ん……おはよう」
少々身長が低めの、少年という程ではないが、小柄な男。
まぁ、蝙蝠の姿でも少し小さい方だから、人の姿になっても反映されるんだろう。
可愛らしくていいとおもうが、本人は気にしているらしい。
「……何か失礼なこと考えてます?」
「いや?」
「そうですか……今日は和食にしてあげましたけど、納豆つけてあげましょうか?」
「悪い悪い、そう言うな…」
「……」
未だ、納得はしていないのか、少々不満顔ではあるが、手元の作業に戻った。
納豆はな……あの匂と独特の味が苦手でな。コイツは好きなようだが。
「……」
フライパンを覗いてみると、橙色の魚の身が、いい音と匂いを立てながら焼かれていた。
うん。うまそうだ。
「ごはん、炊けてるのでよそってください」
「あぁ、ありがとう。お前のは?」
「僕は後で自分で入れますよ、あぁ、あと味噌汁もできてるんで」
「了解りょうかい」
くしゃりと、頭を撫でながらその場を離れる。
食器棚の中から、二人分の茶碗と汁椀を取り出す。
うち一組を手に取り、コンロ前に立つ。
蓋の閉じられた鍋を開くと、味噌の香りがふわりと昇ってくる。それを、おたまですくい、汁椀に入れていく。
本日の具材は、豆腐とわかめのシンプルなもの。
だが、私の一番好きな組み合わせ。
「……」
「なんです……」
「いや、なにも」
それを一度置き、次に炊飯器の蓋を開ける。
炊きたての白米というのは、やはりいいな。匂いからして違う。
―実のところ、もっとはパン派だったのだが。この国に来てからというもの、この米のうまさにやられてしまっている。朝食は白米に限る。
たまに、パン派のコイツによって洋食だったりするが。
まぁ、朝食の種類を選ぶ権利は作る側にあるからな。そこには、主人も従者もない。
「……納豆いります?」
「いや、いらん……」
茶碗と汁椀を置き、先に机についたところ。タイミングよく、焼きあがった魚が乗った皿をリビングへと運んできた。
コトリ、と置かれたそれは、素晴らしい焼き色で、今すぐにでも口に運びたいぐらいだ。
焼くのが上手くなったなぁ。
「……漬物いりますか?」
「ん、あぁ、すこしだけ」
自分の分の、茶碗と汁椀も運び、冷蔵庫に納豆を撮りに行ったついでに、そう聞いてきた。
うん。どうやらご機嫌斜めは治ったらしい。
「はいどうぞ」
「うん、ありがとう」
手渡された小皿を受け取り、机の上に置く。
今日の朝食は、炊きたての白米に、焼き立ての鮭。
好物の具材が入った味噌汁に、少しの漬物。
目の前に座るアイツは、漬物ではなく納豆のカップが並ぶ。
「「いただきます」」
今夜は、いい朝食の時間になりそうだ。
お題:朝食・魚・パン