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バレンタイン

作者: セロリ

ミスったな。と、店に入ってから気が付いた。無駄に可愛らしく着飾ったハートが隊列を組んでこちらを見上げている。どこか大きく見える旗には目が痛いほど明るいピンク色で「バレンタインデー」と書かれていて、今日という日の特別性を訴えている。それもそうだ。ここは所謂お菓子屋さん。しかも特にチョコレートに力を入れている。そんな店が、今日を逃すはずがない。誰かに贈るためのチョコレートが一年で最も売れるであろう日が今日なのだから。

しかし。残念なことに俺は独り身の甘党だ。しかもうっかり今日が二月十四日ということを忘れていた悲しい男だ。誰からもチョコレートを貰えなかったがためにセルフプレゼントの形式を取ったような状態なのだ。実際はそうではなく、単に自分への文字通り甘い褒美であり、つまらない日常へのモチベーションを保つための買い物なのだが、残念ながらこの状態では言い訳にしかならない。さっきまでウェルカムモードだった店内がいきなり俺を嘲笑い始めたように感じる。もちろん店員は俺が独り身であることを知らないだろう。がしかし。この店の店員はいつ何を買っても小綺麗に包んでくれる。それが余計に心に来る。いつもと変わらない包装が凶器になる。

さて、長々と悲しい男の自虐を的な話をしたが、これ以上傷つかずにする方法がある。それはこのまま回れ右をして帰ることだ。が、今日は自分で決めた月に一回の甘い物デーなのだ。「今日は諦めて明日にするか」なんてしたくはない。くだらない葛藤が脳内を支配している。こうなると頭を使うから余計に甘い物が欲しくなる。この箱がリボンを着ていなければ。ハート型にさえなっていなければ。サッと買って家で楽しいひと時を過ごせたというのに。やはりバレンタインデーは疎ましいイベントだ。自分に刃を突き立てながらチョコレートを買うか、月に一度の祭りを延期にするか。俯き、溜息を暖房に溶かす。



結果を言ってしまえば、可愛らしい箱に入ったチョコレートは俺の手元にある。

笑顔の店員が放った

「ありがとうございました!いい日になりますように!」

という機械的な呪詛が耳から離れない。心に残った苦さと口に運ばれる甘さとのギャップで眩暈がしそうになる。

「やっぱ……バレンタインはクソだな………」

日付が回って十五日。無機質な白い照明の下でそう吐き捨てた。

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