第四話(1)
「私、うれしいです! レイさんとデートできるなんて!」
「デートと言うほどのことでもないんだけど……。喜んでもらえてうれしいよ」
王都の中央から外れたこの闘技場は、普段閑散としているとは思えないくらい賑わっていた。
石を一から削り出し作られた壁や柱は美しく、円形に設計された作りは神々しささえ感じる。
レイ自身はここに数回来たことはあるが、何度来ても雰囲気に圧倒された。
レイがもらった招待状は舞台の近く……というわけではなく、舞台からは一番離れた場所だった。幸い闘技場はすり鉢状の形になっており、外からでも舞台が見えるようになっている。
「せっかく来たのに、こんな遠くでごめんね。近くで見たかったでしょ?」
「誘ってもらえただけでいいんですよ! 闘拳大会の決勝戦を見ることなんて滅多にありませんし……。それに、あんまり近づくと、少し怖いのでちょうどよかったです!」
そういうとトリヤは花が咲いたような笑顔を見せた。
「今日の決勝戦、レイさんの元パーティのヴェルクトさんが出るんですよね? ヴェルクトさんはどんな人だったんですか?」
「ヴェルクトは本当に信頼できるパーティだったよ。それにただパーティってだけじゃなかった。ヴェルクトとはーー」
レイの言葉は、闘技場内で割れんばかりに響いた歓声にかき消された。
決勝戦出場選手が入場してきた。闘技場の盛り上がりは一気に高まり、トリヤはそれまで話していたことを忘れる程だった。
闘技場の舞台に二人の選手が集まる。片方は髪を剃り上げた筋骨隆々の大男、そしてもう片方は元『月の勇者のパーティ』メンバー、ヴェルクト・アーヴィングだ。
白みのかかった灰色の無造作な髪、すべてに嚙み付くような吊り上がった赤い目、表情がわかりづらく他人を寄せ付けない雰囲気を持っている顔立ちで、レイは一緒にいた時と変わっていないな、と少しだけ懐かしい気持ちになった。
「--親友だった」
「えっ?」
「ヴェルクトとは親友だったんだ。人として尊敬してた。もちろん、今もだけど」
トリヤはレイの、その昔を懐かしむような顔を見て何とも言えない気持ちになった。自分では絶対に理解できないような、そして深入りさせてもらえないような見えない壁が、その間には確実に存在しているんだと思った。
「そういえば、闘拳大会のルールってどうなってるんでしたっけ? 私、闘拳大会がすごいことだっていうのはわかるんですけど、どんなことをしているかほとんど知らなくって……」
「ああ、ごめんね。てっきり知ってるものだと思い込んでたから、誘って満足しちゃってたよ。闘拳は魔法による攻撃や、身体強化を一切行わない決闘なんだ。装備は胴体に薄っぺらいレザーメイルだけ、素手で相手と戦う古典的な戦いなんだよ」
「それじゃ、体が大きくて力の強い人が強いような気がするんですけど……」
「そうだね、その認識は間違ってないと思うよ」
ヴェルクトと対戦相手を見比べる。体の大きさでいうと二回り以上違う。鍛え方も違うのだろう、しっかりと鍛えられているはずのヴェルクトの体が華奢に見えた。
「そう考えるとヴェルクトさん、結構厳しいんじゃ……」
「……僕にもちょっとわからない」
より一層観客の声が盛り上がる。いよいよ決勝戦が始まるようだ。