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第三話(2)

「『月の勇者』って……本当ですか? だって『月の勇者』は……」

「そう。魔王討伐に失敗して命を落とした。約一年前にね」


 トリヤは信じられないといった様子だ。

 それからしばらく、レイとエレナは経緯を話した。勇者としての責務を投げ出し、王都に逃げ帰り、他の『勇者』達に魔王討伐を任せて自分たちはのうのうと王都で暮らしていること。

 その全てをトリヤは静かに聞いてくれた。


「でも、よくレイさんが勇者っていうことがばれなかったですね」

「勇者の素性は一部の人間以外には知らされないからね。勇者の顔や名前を知らないなんて普通のことなんだよ」


 レイはトリヤの質問に苦笑いをした。


「僕以外の四人の勇者、『山の勇者』『海の勇者』『空の勇者』そして『太陽の勇者』。君もその名称は聞いたことあるかもしれないけど、名前は聞いたことない、よね。それと同じ……さ」


 どこか、レイの顔には陰が落ちた。

 エレナはレイのこのさみしそうな顔が好きじゃなかった。レイが勇者の話をするときはいつもそうだった。魔王討伐をあきらめて、パーティの解散を決めた時のレイもこのような表情をしていた。


「……勇者様も大変なんですね。私じゃ理解できない苦しい思いもいろいろしてそうで……」

 

 トリヤの言葉にエレナははっと顔を上げる。


「ところで、貴女様はレイ様が勇者の責務を投げ出したことを責めないんですね」

「責めるだなんて……。私はレイさんが優しくて、いい人だっていうのは知ってますから」


 エレナはその言葉を聞いて、手を胸の前で組んだ。


「なんとすばらしいお方なのでしょうか。貴女に神の祝福があらんことを」


 エレナがそう言った直後、少女が目を覚ました。みんなで駆け寄り言葉をかける。

 少女なぜ自分がこんなことになっているのかわかっていない様子で、自分の身に何が起こったのかわからない様子だった。みぃちゃんも安心したようで、ベッドの上の少女の膝の上にそっと乗る。

 覚えていないのなら、その方が都合がいい。レイ達は何があったのかを教えないままでいようと決めた。

 少女はトリヤに連れられ回復院を出た。私が家まで送ります。そう言って。

 トリヤが回復院を出てから、エレナは口を開いた。


「あの少女が受けた傷、魔力の残滓がありました。まだ王都に魔物の発見報告は上がっておりません。レイ様、近くに魔種シードが発芽しかけている者がいるかもしれません。お気を付けください」

「ありがとう。注意しておくよ」

「あと、これをヴェルクト様からお預かりしていました。もしレイ様に会うことがあったら渡しておいてくれと……」


 エレナから受け取ったものは、一つの封筒。中身は年に一度王都で行われる闘拳大会決勝戦の招待状が二枚入っていた。


「ぜひ、見に行ってみてはいかかがですか? 先ほどのトリヤ様とご一緒に」

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