第二話(1)
「なんとか形にはなったかな……」
トリヤに『何でも屋』になりましょう、と言われてから数日経った今、レイはあの猫が迷い込んだ廃墟を購入していた。
もし何でも屋をするのであればここを活動拠点にしたい。太陽の光をたくさん取り込む大窓を見たときどうしようもなく惹かれていた。
しかし、いざ清掃や修繕をしようと思ったところ中々大変だった。床に這う蔦をはがし、埃を払い、住み着いた虫は何とか追い払ったが、壁や家具についた傷はなかなか取れるものではない。
「まあ、でも」
レイはひとつ息をついて大窓の前にある机についた。そしてその机の傷を撫でる。
「味があっていいか」
何となくこの廃墟にはその傷達は似合っている気がする。レイはそう思っていた。
古ぼけた路地裏のぼろぼろの家で、誰にも邪魔されず眠るように生活する。時々誰かの御用聞きでもして、そんな日は少し贅沢してお菓子でも奮発しようか。
レイはそんなことを思っていた。
ただ、一つだけ困ったことがあった。
この大窓、太陽の光に気に取られていて全く気付かなかったが、窓がついていなかった。
こればかりは自分の腕ではどうにもならず、新しいものを腕利きの職人に依頼しているが、いつになるかはわからないという。
「雨降らないといいけど」
窓を向いて一言つぶやき、背もたれに体を預ける。椅子はぱきっと室内に響き、日の光の当たらない陰に吸い込まれた。
その時、一回から鈴の音が響いた。
まだ開店時期も決めてないのに、客が来るわけないが。
レイはとんとんと響く階段を見やる。
「ああ、なんだ」
その正体はあの迷い猫、みいちゃんであった。
どうやら天気がいいとここに来るらしく、ここに越してきてから初めて見た。
我が物顔で大窓の前の机に座り、日向ごっこを始める。
このまましばらくしたらあの子も来るかもしれない。今日の掃除はそこそこにあの子が来るのをゆっくり待とうか。
みいちゃんの頭を撫でる。そんなことを気にも留めないみいちゃんは、ふわっとあくびをして、ゆっくりと眠りについたのだった。
しかし、レイがおかしいと思い始めたのはそれから数時間経ってからのことだった。今日はなぜかあの子がすぐにやってこない。
このままだと日が暮れてしまう。治安がいいからと言って、あの年齢の子が一人で外で歩くのは危ない。レイは外套を羽織り立ち上がる。みいちゃんもそれに合わせて立ち上がった。