第五話(2)
「魔法の核?」
「ああ。俺たちが普段使っている魔法っていうのは、体力を使ったり、命を削ったりして発現するモンじゃねぇ。その魔法の核に刺激を与えて使ってるんだ」
いまいちしっくり来ていないトリヤに、ヴェルクトは別の言い方を探す。
「筋肉と同じだ。使えば使うほどその核っていうのはデカくなって、使える魔法も強くなる。レベルが上がるって言い方がいいのかわからねぇが……。そういうモンだって思ってもらうしかねぇ」
ヴェルクトは右手で球体を持つような真似をする。
「これを元々持ってねぇ奴は魔法が使えねぇし、初めからデカい奴は魔法が強ぇ」
でもな、とヴェルクトは前置きをした。
「刺激を与えすぎるとその魔種が芽吹いて、花が開いちまう」
「……花が開くとどうなるんですか」
恐る恐る、トリヤは訊いた。その先のことが決して良いものではないと直感では理解していたが、その先を訊かずには言われなかった。
「魔物になっちまう」
「えっ……」
「魔物になっちまうんだ」
ヴェルクトは二度、念を押すようにトリヤに言い放った。
「魔花とかいうんだけどな。タチが悪いことに魔花になっちまったヤツってのは普通の魔物よりも強くて、残虐で、自我を持ち、自分らのナワバリを作る。ダンジョンってあるだろ? あれは魔花になっちまったヤツらが作ってんだ」
冒険者たちはそこに潜って、命からがら宝や魔物が出す魔石や素材を持って帰ってくる。
ヴェルクトはそう続けた。
「勇者のパーティはな、魔王を目指しながら、旅の途中に拠点を置いた村や街で、ダンジョンの中にいる魔花……まあ、ボスだな、そいつらを倒して、ダンジョンを消滅させるのが任務なんだ」
な。と、ヴェルクトはレイに話を振る。レイは頷いたが、ヴェルクトが話し始めてから終始顔色は暗かった。その表情にトリヤは過去に何かあったんだろうと憶測するが、それに踏み込む勇気はなかった。
「ま、今は解散しちまったから、ダンジョンなんて俺たちには関係ねぇけど……。この王都に魔種が発芽しかけているヤツがいるってなると、話が違う。万が一王都で魔花が生まれちまったら、大勢の人が死ぬ。多分姉ちゃんが今思っている三倍以上の人がな」
「…………」
「もしその話が本当だったら俺たち……元『月の勇者』のパーティが何が何でも止めなきゃなんねぇ」
「助かるよ、ヴェルクト」
「なぁに、いいってことよ」
ヴェルクトはにこりと頼もしい笑顔を見せた。
「……もしその魔花っていうのが出た場合、王都の騎士団も出動するんですかね」
「ん? まぁするだろうな。場合によっては騎士団長レベルのヤツも出てくるだろうな。なんかあったのか?」
「だったら安心してください!」
トリヤは笑顔なった。
「私のお兄さんは王都の副騎士団長なんです! 最近はお兄さんが忙しくて全く会えてないですけど……。きっとレイさんやヴェルクトさんたちと同じくらい強いので!」
「おお、そりゃ安心だ!」
その言葉を聞いてヴェルクトは四杯目のエールを一気に飲み干した。いままで何となく暗い雰囲気だった席が、トリヤの言葉で少し明るくなった。
心強い。
レイは心からそう思った。




