プロローグ
――――体中の皮膚が全て焼け爛れる火竜の息吹や、瞬きをすればたちまち全身を八つ裂きにされる魔物との戦いも、これで終わりにしよう――――
『月の勇者』であるレイ・エルウェンは度重なる冒険で疲弊したパーティを集めて口を開いた。
「月の勇者のパーティを解散しようと思う」
それは魔王討伐もいよいよ佳境となり、果のない旅も終わりが見えたときのこと。苦渋の決断であった。
決してパーティの仲が悪かった訳ではない。数多の試練を皆で超える度信頼は深まり、互いを尊重し合う存在になっていたはずだった。
「……なんで、今そんなこと言うんだよ」
レイが口を開いて数十秒経った時、傷だらけの分厚い甲冑を纏った戦士ヴェルクトは口を開く。声を震わせながらレイに尋ねるが、顔は地面を向いていた。
「このパーティはもう限界だ。このままじゃみんな生きて帰ることができない」
レイの言葉はパーティに刺さった。ヴェルクトは唇を嚙み締める。
「あたしたちは限界なんかじゃない!!」
「……私たちじゃ、力が足りませんでしたか」
ヴェルクトとは違う薄手の鎧を身に着けた女性格闘家アリシアは激昂し、美しい装飾のなされた杖を持った女性僧侶エレナは目に涙を浮かべながらレイに問う。
「僕たちは王都に戻って、元の生活に戻ろう。魔王討伐は他の『勇者』のパーティに任せればいい」
エレナの問いにレイは答えない。それをエレナは肯定ととらえた。エレナの我慢していた涙は、その瞬間にあふれ出した。
レイは選ばれた『勇者』であるがヴェルクト、アリシア、エレナはそうではない。
「お前はいいのかよ、自分の使命を投げ捨てておめおめと王都に帰るなんて」
「僕は構わない。使命よりもこのパーティが生きて帰ることの方が大事だ」
「使命も果たせないのに王都に帰ったりなんかしたら、どんな酷い目にあうかわからないわよ!」
「使命は果たせなくても僕は勇者だ。そう簡単に酷い目には合わない」
何を言ってももう聞く耳は持たない。ヴェルクトとアリシアは引き止める言葉を発さなかった。
「……レイ様は、王都に帰られたらどうするのですか」
「僕は……」
レイはエレナの少しだけ考える。
そして、旅の終わりを告げるように優しく笑った。
「そうだね、王都の片隅で人目につかないように静かに暮らすさ」
――――こうして『月の勇者』レイ・エルウェンのパーティの魔王討伐への旅は終わった――――