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某SF戦記と300人の戦士の話の影響を強く受けた作品。
警告来そうな予感が凄いする。
私がバアム男爵に拾われてはや五年。今までの平和な日常が嘘だったかのような危機と慌ただしさに、バアム男爵領であるグリーンウッド星系は襲われている。
「准将! ヘンドリッド伯爵艦隊が食料の補給を要求してきています!」
二百年続く我らが『帝国』と『連邦』の戦争で初めて、連邦が帝国領へ大規模侵攻を仕掛けて来るという情報が伝わって来たのだ。この事態に対し混乱する領主達に対し、帝国軍は艦隊を派遣する予定は無いと回答。その結果が、これだ。
「代価として船と弾薬を要求して。最低適正価格で、出来れば適正価格の八割で買い叩いて」
「了解!」
連邦軍が侵攻してくると噂の立った星系の領主達は、こぞって帝国領深くへと逃げ始めた。それもそうだろう。いち領主が保有を認められている艦の数は僅かに一個艦隊一万隻に過ぎず、男爵以下となれば半個艦隊五千隻しか無い。自分の保身しか考えていない領主達が逃げを選ぶのは、当然のことと言えた。
「准将、志願兵が想定の一.四倍に及んでおります。新たな訓練計画を策定しました。許可をお願いします」
だが、我らがバアム男爵家は違った。元々領民との距離が近い家、ということもあり、領民を見捨てることが出来なかったのだ。親族も、子供もいない癖に、新婚の癖に、我らが当主、クーヘは絶望的な戦いを挑むつもりだ。
「ふむ……、訓練が大体終わった志願兵を購入した艦に乗せるのね。艦の指揮系統は既存の艦隊から引き抜き、足りない分は新兵で補う、と。よろしい。急いで編成しなさい」
「はっ!」
私は、こんな得体の知れない存在を拾ってくれた当主には返しきれない『恩』がある。死ぬことはやぶさかでは無いが、当主に恩を返す前に死なれそうなのが怖い。
「准将! デルタ要塞駐留軍指揮官アデル・フォン・リッチ大将より伝令!『バアム男爵家には祖父の代の恩がある。避難民を一億人までは受け入れよう』。以上です!」
「良し!」
私はイーダ大尉の伝令にガッツポーズをした。グリーンウッド星系の人口は約二億三千万人。その内十八歳以下の子供は三千万人で、女性は一億人だ。これで、最低子供だけは逃がすことが出来る。
「ザラ中佐! 避難計画を四十八時間以内に策定! 各領軍の『転戦』を考慮に入れるのを忘れずに!」
「はっ!」
「ハート少佐はその間に領民に避難準備をさせろ! 五十時間後には住民の避難を開始する!」
「はっ!」
「イーダ大尉! リッチ大将宛てに伝令! 『貴官とデルタ要塞一同に感謝を。これより、バアム男爵家は領民の避難を開始する。バアム男爵領軍副司令官ゼロ・ウォートホッグ准将』」
「はっ!」
全く、忙しい。私一人だけなら逃げることは容易だというのに。私は、『恩』等と言う『感傷』だけでここまで忙しさに耐えられる。とうの昔に人間を辞めた身だと言うのに、その精神性が人間の頃から成長していない自分に情けなくなる。
「忙しそうだねゼロ」
余計なことも同時に考えていると、背後から声かけられた。
「……これは当主様!」
左胸に右拳を当てる帝国式の敬礼をすると、当主は答礼し、拳を下ろすと同時に口を開いた。
「准将、現状報告を」
「はっ! 現在、我らがグリーンウッド星系にはヘンドリッド伯爵艦隊及びヴェルディ男爵艦隊が食料の補給を求めて停泊中です! これまでに、ガルーダ辺境伯、スローン伯爵、クレイグ男爵、ダビデ男爵、ヤード男爵、ジルコ騎士爵艦隊より、巡洋艦五百隻、駆逐艦千三百隻の『援軍』を受け、目下戦力に組み込むべく訓練中です! 又、領民より志願兵が三十万人集まり、現在訓練中です! 同時に、デルタ要塞に避難民を一億人まで受け入れる許可を頂き、現在、避難計画を策定中です!」
「……避難計画は以前策定していなかったかな?」
当主が訝しげに言うので、私は「はい」と頷き、答える。
「ですが、各領軍の『転戦』により使う予定だった航路に影響が出まして……」
「馬鹿共が」
当主はそう吐き捨てる。
「領民を守らずして、何が領主か。それより、諸君!」
当主の言葉に、指揮所で作業をしていた面々はその手を止め、起立して当主を注目する。
「帝国軍総司令部より伝令だ。『宇宙歴三百二十七年三月十日。連邦軍の大規模攻勢を確認。その数二十万隻。我が軍は再編成の途上であるため、三カ月程は攻勢に出られない。各領主は己が勤めを果たせ』、以上だ」
その絶望的な連絡に、私達は真面目な表情を崩さなかった。
「命じられるまでも無いが、我々はグリーンウッド星系を死守する。その為には、我々は慣例に従いガルーダ辺境伯軍と合流しなければならないが。スパルトイ大佐、ガルーダ辺境伯軍の現在位置は?」
「はっ! デルタ要塞であります!」
「続けて聞くが、デルタ要塞はどこにある?」
「デルタ要塞は、グリーンウッド星系と首都エンペルト星系との途上にあります!」
「そうだ。だが、我々はグリーンウッドから後退する訳には行かない。ガルーダ辺境伯達は逃げたがな」
私達は当主の言葉に軽く笑う。当主が右手を挙げて制したのを見て笑い止むと、当主は私の方を見て言った。
「ウォートホッグ准将。防衛計画を説明せよ」
いきなりの言葉だ。だが、既に案は考えているので、私は堂々と頷いた。
「はっ!」