002. 名付ける未来の暗黒騎士
「よ、ようこそ![REALITY≠TRUTH ONLINE]の世界へ!」
と、目の前に浮かんでいる光の玉――直径20cmmくらいで淡く白い光を放っている――から声が聞こえた。
「ええ・・・あー・・・どうも・・・はじめまして」
とりあえず返事をした。周囲には目の前の光の玉以外には何もなく、上下左右前後どこを見渡しても先を見通せず、ただ真っ暗な空間が広がっているのみ。
ん?自分の体もない?見えない?どうなっているんだ?
・・・いや、感覚はちゃんとある、ように感じる。自分の体が見えていないので自信をもって断言することができないが。
「あのー・・・」
「え?」
「えっと、[REALITY≠TRUTH ONLINE]についての説明をさせていただきたいのですが・・・」
しまった。どうやら目の前の光の玉のことをしばし忘れていたようだ。少し困らせてしまっただろうか。なんとなく光の玉が悲しそうにしている。表情があるわけではないので本当に何となくだが。
「君がこのゲームの説明をしてくれるのか?そもそも君は何者だ?名前は何という?」
「えっと・・・」
「いや申し訳ない、人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗らなければな。自分の名前は坂本圭斗という。」
「えっ、あ、あの、わ、わたしは[REALITY≠TRUTH ONLINE]を始めるプレイヤーの皆様のキャラクターメイキングのご案内をさせていただきますナビ妖精です。」
「ほう、珍しい名前だな、ナビヨウセイ殿。」
「え!?あ、いや、えっと、『ナビ妖精』というのはわたしの名前ではなくてですね・・・わたしたちの種族が総じて『ナビ妖精』とよばれていまして・・・」
「そうなのか・・・。では君の名前は?」
「えっと、わ、わたしたちナビ妖精には名前というものは存在しません。ひとりひとりを識別するための番号は割り振られていますが・・・。あ、ちなみにわたしは『098』です。」
「『098』か・・・。でもそれは君の名前ではないのだろう?」
「ええ、まあ・・・あ!あの!よろしかったらあなたが私に名前を付けていただけないでしょうか!?」
「自分が君に名前を付けるのか?」
「だ、駄目でしょうか・・・?」
名前、名前か・・・。自分が人様の名前を付けるなんておこがましい気もするが・・・
「君が自分に名前を付けてほしいと思っているのなら、誠心誠意考えさせてもらおう。」
「あ、ありがとうございます!」
どんな名前がいいだろうか。親が子供の名前を付けるときはどのような子供に育ってほしいか、そういった願いを現す名前を付けるらしいが・・・。今彼女の名前を同じようにつけるというのは何かが違う気がする。
男性か女性かによって付ける名前は変わってくるだろうから、きちんと性別を確認する必要はあるか・・・。声の感じでは女性だと思うが。
いやそもそも光の玉に性別というものがあるのかどうか。というか光の玉は生物なのかなんなのか。幽霊や人魂に近い頂上的な存在なのだろうか?
いや今しなければならないことは名前を決めることだ。『光の玉とはどのような存在なのか?』という疑問に対する考察は一旦置いておこう・・・。
だが人間ではない以上人間の名前を付けるのは何か違う気がする。かといってペットの「ポチ」や「タマ」といった名前は流石に失礼だろう。となると・・・
「あの・・・ずいぶんと悩まれているみたいですけど・・・」
「ああ、すまない。ところで一つ確認したいのだが、君は女性で会っているか?」
「え?」
「いや、大変失礼な質問だと自分でもわかってはいるのだが・・・」
「あ、いえ、失礼だなんてことは・・・。えっと、そうですね、私たちナビ妖精には性別は特に設定されてはいません。」
「そうか・・・」
光の玉にやはり性別は存在していないらしい。
「『煌星』、という名前はどうだろうか?」
「『キラボシ』、ですか・・・」
「では改めまして [REALITY≠TRUTH ONLINE] をプレイしていただくにあたりまして、まずは [REALITY≠TRUTH ONLINE] 内でのケイトさんの『アバターネーム』を決めてください。」
「なぜ違う名前を名乗る必要があるのだ?「坂本圭斗」でいいだろう?」
「えーっとですね・・・プレイヤーの方々の中にはゲーム内でもめ事を起こした相手に現実で嫌がらせをしようとする方もいまして、そういった方に現実の姿を特定されにくくしてトラブルを防ぐために本名とは別の『アバターネーム』をゲーム内では使用していただく決まりになっているのです。」
「なるほどな・・・では『海斗』にしよう。」
「自分の名前はあっさりと適当に決めちゃうんですね。」
「『海斗』ではだめなのか?」
「あまり本名と変わってない気もしますが・・・その名前でならとりあえずは大丈夫だと思います。」
「では『海斗』で。」