謎の少年
「むぅ、もう一度」
庭で魔法の練習をしていたスコットは、魔法がうまくいかないことにうなだれながらも挑戦を続けていく。
イグニスは昼食の準備のために今は家の中にいて、スコットに出された指示は暴発を防ぐために魔力のコントロールを上達させる練習だった。
決して上手くいかないわけではないのだが、ゴール手前でコントロールが乱れて失敗をする。
それを繰り返して嫌になることもあるのだが、コントロールが苦手な師匠が楽にやってみせたことでスコットには割と簡単なことのはずだという思い込みもある。
今までに比べれば格段に難しいことにスコットは気づいていない。
風魔法を使って小さなボールを浮かせると庭に引かれた線に沿ってそれを飛ばす。
勢いをつければ角を曲がりきれず、かと言って弱すぎればボールはすぐに地面に落ちてしまう。
またも地面に落ちてしまい、それを拾いに行ったスコットは突然ガサリと音がして、その方向に振り向いた。
すると、庭の外に黒いローブを着てフードを目深に被った子供が立っていた。
背丈からするとスコットよりも年上ようのだが、大人にしては小さいと感じる。
「コントロールを学ぶとしては最適かな。遊びを取り入れることでだらけにくい」
声からして少年のようだ。
しかし、話す内容は年相応というよりかは年寄りくさいといった風だ。
「……えっと」
戸惑うスコットはイグニスを呼ぶべきかと窓の方に視線を向けると、ローブを着たその人に声をかけられる。
「怪しまなくていいよ。ちょっと師匠から逃げてきただけだから」
「そう、なんですか?」
「そ、スパルタなんて流行らないでしょ」
あっけらかんとした態度にスコットは警戒を解く。
少なくとも何かをされるといった風ではなさそうだ。
「誰か来たのか?」
話し声が聞こえてイグニスが庭に出てくる。
「――師匠」
「こんにちは」
スコットがイグニスの方を振り返り、少年がイグニスに挨拶をする。
イグニスはローブを着た少年を前にいくらかの沈黙をして、少年はいたずらっぽく自分の口元に人差し指を当てる。
「師匠に追われてるんです。しばらく匿ってもらっても?」
「……その人が来るまでなら」
「そうこなくっちゃ! 」
少年ははしゃいだ声を出し、柵を軽々と飛び越えると庭の中に入って来て庭にあった椅子に座る。
我が物顔というほどでもないが、その態度は堂々たるものである。
少年は家の中で続きをしていていいとイグニスを庭から追い出すと、スコットの魔法練習を興味深げに眺めている。
「そうとう質のいい魔道具みたいだ。となると、キャロラインのところかな」
一人呟いて、スコットが落としたボールを風魔法でスコットの下まで飛ばす。
その視線はスコットもボールも見ていなかった。
「ありがとうございます」
「うん、どういたしまして」
再び練習を始めたスコットだがやはり途中で失敗をし、それを少年は魔法で浮かせるとスコットにすぐに渡さずに宙に浮かせた。
「運び方に指定がないならやりようはいくらでもあると思うよ」
そう言うと少年は風で渦を起こすと、ボールを空高くあげてスコットへと返した。
礼を言ったスコットはやり方を模索し始める。
そこにお茶を持って来たイグニスがやってきて、少年に冷たいお茶を差し出した。
「冷たい方がお好きでしたよね」
「そうだね」
少年は礼を言ってお茶を飲むと視線はスコットに向けてイグニスに話しかける。
「いい子じゃないか。君もなんとかやっているようで安心したよ」
「一人ではないですから」
「そう。君たちの元気そうな姿も見たし、お暇しようかな。しばらくはこの辺りにいるつもりだし、また顔を会えたら嬉しいよ」
そう言って少年は空になったコップをイグニスにごちそうさまと言って渡すと、音もなく姿を消した。




