魔法使いとお貴族様
コンコンとノックの音がして来客を告げた。
イグニスが玄関の戸を開けるとそこにはセルリアとリオンが立っていた。
「食べきれないのでお裾分けです」
と言ってセルリアがバケツに入ったゼリーをイグニスに見せる。それを両手に一つずつ。
セルリアの横に立つリオンは食い意地が張っているはずなのにゼリーとは目を合わせようとしない。
ひとまずセルリアとリオンを家の中に招いてお茶を出す。
バケツゼリーを見たスコットは目を輝かせていたがすぐにでも食べようとしていたが、おやつを食べたばかりということもありイグニスは保冷庫にしまった。
「セルリアさんが作ったんですか?」
テンションが上がったままのスコットがセルリアに尋ね、セルリアが首を横に振る。
「頂き物ですよ」
「こんな大きいものを?」
「はい」
スコットの反応に楽しそうなセルリアは頷いてカップに口をつけた。
「公演先の道楽貴族から頂いたんですよ。なんでも大きなものを作るのが趣味だとかで」
「それでこんな巨大なものを……」
貴族など道楽は時に耳にすることはあったが、実際ここまでとは思っていなかったイグニスは驚き半分で呆れていた。
「作ったものの処理に困るみたいで領内で配っても数が減らないとか。うちもほぼ1人一個計算で頂きました」
「それにしても、冷やすのにも苦労するだろによく作るな」
魔法使いでもなければものを冷やすには冷たい水を使う場合がほとんどだ。富裕層なら氷を使うこともあるが、運ぶ手間などから気軽に扱えるものでもない。
「それなんですが、僕たちも一枚噛んでるんです。魔法があれば可能ですし」
「確かに出来るだろうが、よく貴族が受け入れたな」
魔法使い自体人々に恐れられていることもあるが貴族は特にそれが顕著であり、魔法使いが一族から産まれたとなれば恥だと言うことが殆どだ。
「目的のためならある程度の手段は問わないそうでして、むしろ歓迎されましたね」
「そういうタイプか」
「どちらにせよ物珍しい人ではありますが合理的なんでしょうね。必要とあれば受け入れて利用する」
魔法使いを害だと恐れ追い出す人間が多い中で、お互いに害なく関われると言うのは魔法使い側からするとありがたいものだ。
「それはそれで悪いことだとは思いませんが、もう一段階上にと思ってしまうのはさすがに高望みですかね」
魔法が使えれば芸の種類が増えると初めから魔法使いを歓迎する実家のようにとまでは行かずとも、せめてもう少し互いに歩み寄れたらとセルリアは思う。
せめて、魔法使いという身分を隠さずに自由に歩き回れるようになれたらと。
「それができりゃ、もう少し便利になるんだろうけどな互いに」
人間たちなら値は張るだろうが魔道具で生活は楽になるだろうし、魔法使い側は流通が増えればそのぶん買い物にも困らなくなる。
「これはばかりはまだまだ時間がかかりそうですね。国家としては隠しておきたいことでもあるでしょうし」
戦力の過剰な偏りなどを考えれば難しいこともあるだろう。何より各国が足並みを揃えて魔法使いを受け入れないと余計な火種を作りかねない。
「それでもいつかはまた手を取り合える日が来るといいんですけどね」
「そうだな」
語り継がれてきた大昔の話でしか知らない形ではあるが、その昔は魔法使いも迫害を受けず普通に町中で暮らしていたらしい。
セルリアはそう言ってスコットとスコットに余計なことを吹き込んでいるリオンを見た。
「現実にするためにもまずは弟子を立派に育てないとですね。暴発なんかさせたら振り出しに戻りかねませんし」
魔法が怖いものだけではないと知ってもらえなければ、どの道何も変わらないのだ。
まだまだ未熟な魔法使いを育て上げるのが自分たちの役目なのだとセルリアとイグニスに改めて実感するのだった。
今回はリオンがおとなしいです。




