上手く行かない実験と
「師匠、これ合ってます?」
スコットは目の前の机に置かれたフラスコを見つめたまま不安そうにイグニスに尋ねた。
3つほど並んだフラスコは、左に鮮やかな赤紫の液体、中央に落ち着いた緑色の液体が煙を立ていて、右には空のフラスコが置かれていた。
中央の緑色した液体は何もしていないというのにぷくぷくと泡を立て、過剰なほどに煙を上げていた。
両端にあるフラスコの液体を混ぜた結果なのだが、スコットが実際にやる前にイグニスから聞いていた話と些か話が違う。
イグニスの説明では新緑のような緑色になる予定で中に結晶が浮かぶはずなのだが――。
その気配はなく、どういうわけか泡のたち具合からみて粘性のある液体が出来上がった。
「失敗ってわけでもない」
「どっちなんですか」
かといって、イグニスの言い方からして成功しているわけでもないのだろう。
成功ではないのなら、やはり失敗なのだろうけどイグニスは認めたくないらしい。
「もう一度やるぞ」
「はい」
片付けて、今度はしっかりと手順の書かれた説明書通りにゆっくりとやってみるのだが結果は同じで、粘性のある液体が出来上がった。
コポコポとやたらとゆっくり空気の塊が上にと上がっていき、異常な量の煙を上げている。どう考えて失敗だった。
原因を考えるべく、説明書をイグニスとスコットが眺めていると明るい声が降ってくる。
「さっすが、イグニス!」
声に顔を上げると、そこにいたのはセルジュでまた仕事をサボってここに来たのだろうと驚くこともなくイグニスたちは呆れた顔をする。
「セルジュさん……」
「トネリコが帰ってくる前に羽を伸ばしておこうと思って来たんだけど、なかなかに面白いことをしてるね」
トネリコはセルジュたちのサボった分の仕事が自分に回ってくるせいで休みが取れないと常々言っていて、セルジュたちを管理しながら仕事をすることも多い。
立場的にも年齢的にも近いトネリコはセルジュたちに容赦がなく、他の魔法協会の職員と比べてトネリコは隙がないため逃げるのはかなり至難の技だ。
煙を上げるフラスコを持ち上げたセルジュは中の様子を見ながら軽くフラスコを振った。
「魔力の結晶化か。失敗するとこんな感じになるんだ」
「師匠は失敗でもないって言ったましたけど」
セルジュはフラスコを元の場所に戻すと、クスクスと笑った。
「手順通りなら失敗ってことはないと思うよ。ただ、上手く反応しないこともあるけどね」
腰につけたポーチから長細い小さな瓶を取り出したセルジュはフタを開けると中身をフラスコの中に流し込んだ。
「セルジュさん、何を?」
「まあ、見てて」
フラスコから出る煙が一層多くなり、ブクブクと泡が激しくなる。
そして、1分もしない内に中の様子は落ち着いて、白い塊がユラユラと液体の中で揺れていた。
「おお、成功した」
スコットがフラスコの中をみてはしゃぐ。
「さっきのはなんですか?」
「ん、ポーションだよ」
そんな簡単ことでとイグニスはフラスコを眺め、セルジュはちょっと特別製のポーションだと笑った。
「特別製……」
「そ、純度の高いやつ。すぐに魔力は揮発するからけっこう失敗する人多いんだよ、あれって」
慎重にやっていたことが原因だと言うことになる。
魔力が空気中に舞ってしまうのならとイグニスは疑問を口にした。
「それなら、あれの中に魔力を送っても出来るんですか」
「難しいと思うよ。抵抗値が高いし、下手にやると面倒なことになるし」
魔道具職人が起こすトラブルの大半がそうらしく、イグニスはあれかと思い出す。
よくリディがキャロラインの教えを守らずにトラブルを起こしていた。
大抵は小さな爆発ですむのだが、稀に機械が暴れ出すこともあり、止めるのを手伝ったこともあるが、出来る限り壊さないように止めろと言う無茶振りの要望があるためかなり難易度は高いのだ。
居座る気満々のセルジュは、実験も成功したことだしと勝手にお茶の準備を始めた。
迎えにやって来たウォルグも珍しく大目に見てお茶を飲んで帰ったのだが、セルジュは帰り際に忘れるところだったとイグニスに伝える。
「細かい調整はまだなんだけど、近くグリーンハイムさんが来るからあんまり遠くには行かないようによろしく」
「わかった」
そうそう何も起こらないにしても、護衛等の都合もある。
イグニスというよりスコットの顔見たさに自由にうごかれたくもないのだろうと、イグニスもしっかりと決まったら教えてくれとセルジュの言葉を了承した。
ありがとうございました。
イグニスは実験系も苦手です。ポーションも良くて標準にしか作れません。




