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嵐とともに

 嵐が過ぎ去り、静かないつも変わらない朝を迎えて、スコットは安心したように朝食のパンを齧った。


 対面に座るイグニスはまだ湯気の立つベーコンをパンに挟み、食べようとして口を開くが妙な気配に手を止めた。


 その間、刹那――。


 グオォォォォォォ‼︎


 突然の大きな音に肩を跳ねさせて驚くスコットは驚きすぎて声も出ないらしいが、戸惑いを乗せてイグニスの方をじっと見ている。


 イグニスはひとまずスコットに机の下にいるよう指示を出すと、そこに万が一のために防御魔法をかけてから外に向かった。


 今の音はドラゴンの咆哮だと考えて間違いはないが、野生のドラゴンがこの辺りを飛ぶことはないと考えていい。

 仮にあったとしても咆哮するわけもないので、これは人為的なものと思ってもいいだろう。


 こんなカタリナよりもはるかに度を越す迷惑行為をする人をイグニスは一人しか知らない。


 弟子(トアル)とは似ても似つかないその人の名前をイグニスは空に向かって叫んだ。


「ルピナスさん!」


 イグニスの声が聞こえたらしいルピナスは、地上に向かって手を振るとドラゴンから飛び降りて魔法を使って着地した。

 その様子はセルリアと違い豪快な降り方ではあるが、やはり魔法の使い方が上手いだけに周囲に被害は出ていない。


 乗ってきたドラゴンにもう帰っていいぞと声をかけたルピナスはまるで道端で会ったかのようにイグニスに声をかけてきた。


「よっ、イグニス。咆哮(呼び鈴)が機能したな」

「迷惑なだけです。物騒な呼び方はやめて下さい」


 非常識な呼び出しに抗議をするイグニスだが、ルピナスは意に介さない。

 もとよりルピナス(この人)の辞書に反省という言葉があるかどうかすらも怪しいものなのだが。


「珍しいものが聞けて良かっただろ。それより弟子はどこだよ」

「いや、安全のために家の中に……」

「おう、そうか」


 スコットが家の中にいると聞くやいなや、ルピナスはさっさと家の中に入り込み、その後ろを慌ててイグニスは追いかける。


 トアルほどではないがスコットも割と不測の事態には弱いのだ。

 類を見ないほどの自由人相手にスコットが驚くのは目に見えているので、できる限り被害を少なくするしたいと思うイグニスだ。


 家の中に入ると魔法の気配を察知したルピナスは真っ直ぐにリビングに向かうとスコットがいる机に手を触れた。


「――へ?」


 イグニスのかけていた魔法が一瞬にして砕かれる。

 安全だと思っていた場所があっけなく壊されスコットは戸惑い不安に支配されながらも視線を彷徨わせると目の前の男の後ろにイグニスを見つける。


「――師匠」


 安堵したスコットの目に映ったイグニスは困った顔をしているが、魔法を壊した男に敵意は抱いていないようで、ただただ呆れているようにも見える。


「ルピナスさん!」


 容易く魔法を壊したルピナスに、イグニスは抗議の声をあげるがルピナスは楽しそうな笑みを浮かべて口笛を吹いた。


「ヒュー、かっほご〜。ま、即席にしちゃよく出来てる方なんじゃねぇの。俺にゃ脆すぎるけど」


 自慢気に語るルピナスはひとまず無視をして、イグニスはスコットに声をかける。

 スコットはどちらかと言えば臆病なのだ。早く安心させてやることに越したことはない。


「出てきていいぞ、スコット。この人はトアルの師匠のルピナスさんだ」

「……ルピナスさん」


 グラジオから聞いたことがあるような気がするといった感想であるが、確か騒がしい人と言っていたはずなのでそうなのだろう。


 イグニスの魔法が意味をなさずに破られたことに驚きを隠せないが、安全と分かったのでスコットは頭を打たないように気をつけて机から出る。


 すると直後にルピナスから右手を掴まれ握手する形になる。


「やっと会えたな〜。会えないかと不安はあれどってな」

「……よ、よろしくお願いします」


 戸惑うスコットはなんとかそれだけ絞り出し、イグニスに助けを求める視線を送る。


 イグニスはため息をつくと、ひとまずルピナスの話を聞くためにイスに誘導することにしたのだった。

ありがとうございました。


たぶんですが、一番明るいキャラな気がします。

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