スコットの知らないこと
時計を見れば、昼食にちょうどいい時間というとこもあり、四人でのランチタイムとなった。
しかし、近所の飲食店なんてものはなく、あり合わせで作るしかない。
まともとは言い難い料理しか作れないイグニスは悩む。一応、自覚はあるのだ。
そこにカタリナが口を開く。
「どうせ、まずいものしか作れないんでしょ。私が作るわよ」
「いや、それは……」
カタリナの師匠が昔、嘆いていたのを思い出す。確か『あの子は料理だけはうまく出来ないのよ』といっていたはずだ。
というか、料理のレベルだけは同程度だったと記憶している。
食べれるものは作れるが美味しいわけでもない。かと言ってまずいというわけでもないが、進んで食べたいかと問われれば返事に躊躇う感じの。
と、そこでキッチンに立とうとするカタリナをフィアが止める。
スコットは習慣からか人数分の食器を並べている。
「おね、カタリナ師匠もイグニスさんも座っていてください。わたしが作りますので」
師匠たちは休んでいてくださいとフィアはニコリと笑う。
それはまるで、余計なことはするなと言われているようだった。
「そうね。頼むわね」
「はい。スコット君も休んでいてね」
スコットも師匠ズ二人と一緒にイスに座る。
そこで気になったことを尋ねることにした。
「師匠、交流会ってなんですか」
「同じくらいの歳のやつらをを集めて、仲良くしましょうって会だよ。なかなか同年代で集まることなんてないからな」
「そうでもしないと他の魔法使いの顔ってわからないからね」
イグニスとカタリナが説明をする。
基本的に強制参加になっている交流会は、魔法協会が師匠と弟子の現状を把握したりするためのものでもある。
「へぇ、そんなものが……」
「魔法協会から手紙、来てない?」
「師匠?」
カタリナに言われて、イグニスを見るスコット。
イグニスが頬をかくと、カタリナは余計なことをいったかしらと目を逸らした。
「……色々とやらかしてるからな、そもそも手紙が来るかどうか」
「協会の人間がいるといっても、スコット君の安全を考えると難しのかしらね」
弟子時代によく騒ぎを起こして、多少なりとも恨まれているイグニス。
カタリナのように自分がダメなら弟子にやらせるという考えをもつ人間もいる。中にある感情はカタリナとは全く違うものであるが。
「それじゃあ、師匠のせいで交流会に行けないかもしれないんですか」
「…………」
それは絶対にない。言い切れるほどの確信をイグニスは持っていたが、言ってしまうには躊躇いがあった。
師匠のことを溺愛している魔法協会の連中が、なにも対策をせずにいるわけがない。
スコット宛の交流会の手紙が来ないのはおそらく――とはいえ、あまり伝えるものではないだろうとイグニスは思っている。
強いて言うなら、師匠のことをあまり話したくないからだが。
「できましたよー」
フィアの手によって作られた料理が机上に並べられていく。
見た目がきれいなそれは、食べてみると味も美味しかった。
「幸せだ〜。こんなに美味しいのは食べたことがないです」
「ありがとうスコット君。師匠の師匠から習ったの」
「師匠の師匠……」
フィアの言葉を聞いて、スコットの手が止まる。
師匠の師匠。会ったこともなければ、話すら聞いたことがない。
「師匠の師匠ってどんな人なんですか?」
イグニスとカタリナの肩が跳ねる。
二人は目線だけでどちらが言うか押しつけあってから、声を揃えていった。
「……化け物だな」
「……化け物ね」
弟子たちが首をかしげるなか、師匠たちはそれ以上の説明はしたくないとせっかくの温かい昼食が冷めしまうと誤魔化して食べ始めたのだった。