嵐の夜は
時計を見たイグニスはそろそろ寝る時間だとスコットにベッドに入るように促した。
「スコット、そろそろ寝る時間だ」
「はい、師匠。おやすみなさい」
スコットもそれに従って、言われた通りに自分の部屋に向かってベッドに入った。
そこまではいつも通りだったのだが、今日はいつもと違っていた。
ベッドに入ったスコットは眠るために目を閉じるが、ひどい雨が窓を叩いてなかなか眠れそうにない。
「雨、すごい……」
今日は数年に一度と言われる嵐が来ていて雨風が強い。
スコットにとっては初めて体験するひどい嵐の日だ。
時折吹く風がガタガタと窓を揺らし、スコットは起き上がってうずくまると不安になって常夜灯でぼんやりとしか見えない部屋の中を見回した。
何もないと分かって息を吐いて安心した直後にヒューと隙間風が吹いて驚きと不安に肩を跳ねあげた。
「わっ!」
何もないと分かっているはずなのに再び部屋の中を見回したスコットは布団を抱きしめて周囲の音を警戒をする。
しかし、警戒をすればするほど音は大きく聞こえてしまい、スコットの恐怖心を煽っていく。
(どうしよう……怖い)
何もない、数年暮らして来た住み慣れた自分の安心出来る家だというのに、今日は不安ばかりが募っていく。
「師匠……」
スコットはイスに座らせている大きなぬいぐるみをギュッと抱きしめると足音を立てないようにしておそるおそる部屋を出た。
部屋を出てすぐに見えるリビングには明かりはなく静かで、イグニスはもう自分の部屋にいるだろう。
恐怖を振り払うように首を振ったスコットはすくむ足を動かしてイグニスの部屋に向かった。
明かりのほとんどない家の中は日頃の感覚だけ頼りで、手探りでドアノブを探し出すとスコットはイグニスの部屋に続く扉を開けた。
キィィと音を立てて開く扉はどうしてかいつもよりもおっかないが、開くと同時に漏れた光にスコットは小さな安堵をする。
「どうした、スコット」
「師匠〜」
寝ようとしていたのかベッドの方に向いて部屋の中心にいるイグニスは、扉が開く音を聞いて振り返った。
そこにいたのは半ベソをかいてぬいぐるみを抱きしめているスコットだった。
イグニスの姿を見つけたスコットはぬいぐるみを床に転がしてイグニスに駆け寄るとぎゅっと抱きついて、震える声を出した。
「師匠、その、あの……一緒に寝てもいいですか?一生懸命寝ようとしたんですけど怖くって」
「――いいぞ」
スコットの頭に手をやったイグニスは小さく笑った。
弟子入りして初めての大嵐の日というはみんな大抵こんなもので、イグニスにも似たようなことはあったのだ。
まぁ、スコットほど素直ではなかったイグニスは何も言いだすことはできなかったが。
イグニスのベッドに一緒に入ったスコットはさっきまで恐怖心はどこにいったのかすぐに寝息を立て始める。
その様子にイグニスは呆れた顔をしながらも、苦笑をする。
ここまで素直な奴も見たことがないと。
スコットが完全に寝入ったのを確認したイグニスは自分も寝るためにゆっくりと目を閉じた。
翌朝、朝食の準備のために先に起きていたためにイグニスがベッドにいないことにスコットが慌てたのはご愛嬌だ。
ありがとうございました。




