いつかは行きたい場所
「やぁ、久しぶり」
手土産だと森の外のフルーツタルトを持ってきたセルジュは、タルトの入った箱をイグニスに手渡すとズカズカと家の中に入り込んだ。
「どうしたんですか、師匠」
イグニスの慌てる声にスコットがひょっこりと顔を出した。
「あ、セルジュさん。こんにちは」
毎回突然やってくるセルジュにスコットも慣れたもので平然とセルジュがいることを受け入れていて驚くこともしない。
「今日も逃げてきたんですか」
ただ、セルジュがここにくる理由は仕事から逃げ出してきたというのがほとんどなのでスコットは呆れているが。
「うーん、今日はちゃんと仕事はしてきたよ。美味しいタルト貰ったから一緒に食べようと思ってね」
「タルト⁉︎」
美味しいタルトと聞いてスコットの目が輝く。
ケーキのようなお菓子は普段なかなか食べれるものではないのでスコットは飛びつく。
食事の料理は一応形になるものが作れるイグニスもお菓子はほぼ作ることはできず、そもそも魔法使いの暮らしには凝ったお菓子類はほぼない。
なにせ店があったとしても家までの距離が遠く安定して運ぶのは難しいのだ。
セルジュとスコットの会話を聞いていたイグニスは、切り分けたタルトと湯気の立つティーカップを机上に置いていき呆れた顔をする。
「スコット、騙されるなよ。これはもともとスコット宛のものだ」
「え?どういうことですか」
「ちょ、イグニス‼︎」
焦ったようなセルジュは口元に人差し指を当てて、なんでバラすのという表情をするがイグニスは構わずに続けた。
「タルトが入ってた箱はグリーン王国のだからな。おそらくグリーンハイムさんがセルジュさんに頼んだろ」
「くっ、バレてる。でも、残念だねイグニス。これはグリーンハイムさんからじゃなくてユーリからだよ」
イグニスの推察に悔しがるセルジュはだがしかしと不敵に笑いユーリからの贈り物だと言い、イグニスは驚く。
「ユーリさんから……」
「うん。伝言としてはぜひ今度我が国にいらしてください、かな。講習会をスコットが受けたこと知ってみたいで」
森の外に出られることのお祝いということになるらしい。
講習会を受けに行く直前にユーリに会ったのでその時に魔法協会の誰かから聞いたのだろう。
「まあ、いつかはな」
「へぇ、行く気はあるんだ」
意外だと驚くセルジュは嫌な顔すると思ったけどと言ってタルトをフォークで小さく分けて口に入れた。
スコットはすでに会話から離脱してタルトを頬張っている。
「そりゃ、エルマンには会いたいからな。かたっ苦しくなるから向こうで会うのは好きじゃないけどな」
「あー、面倒なのは確かだよね」
国家の中枢に出向くことも多いセルジュは、魔法協会代表として王家と関わることもよくあるため、イグニスの言いたいことがわかるのだろう。
ラフな付き合いをしたくても国家や立場がそうはさせてくれないのだ。
「それでもユーリさんが出来る限り人払いしてくれて楽にはなるけど、ユーリさんが厳しいのはたしかだし」
「染み付いた行動は隠してきれずに出てしまう、だっけ?」
セルジュがティーカップを持ち上げながら言った。
「そんな感じだな。ユーリさんは日常の立ち振る舞いにうるさいから」
ユーリによるエルマンの指導に付き合わされて勉強したこともあるが、何よりどこにいても普段の動作や仕草に対してだけはユーリは口うるさかった。
「あの人の場合はちょっとでも隙を見せたら職を失いかねないからね。ま、かといって代わりになれるような人もいないだろうけど」
そう言ってセルジュは魔法協会に引き入れとけばよかった苦笑し、通信機が鳴ったので露骨に迷惑そうな顔でそれに出る。
「――はーい。すぐに帰りまーす」
通信機を切ったセルジュはまだ残っていたタルトとお茶を口に突っ込み、ごちそうさまと言い残すと急いで魔法協会に帰っていった。
それを見送ったスコットは、イグニスにタルトのお代わりを要求するのだった。
ありがとうございました。




