弟子対決!
途中だった朝食を急いで食べ終えたイグニスは、急かすカタリナに尋ねる。
「で、何で勝負すんだよ」
「そう、ね」
イグニスは返答を待ちながら、どう断ろうかと考える。
やる気がない以前に問題があった。
そもそも、スコットは魔法という魔法を使えない。やっと魔力のコントロールが見せられるものになった程度だ。
そんな実力で勝負を受けてしまえば、自分の身すら危ない。
「お姉ちゃん。わたし魔法なんて」
「なんて呼ばせてんだ」
フィアのカタリナの呼び方にイグニスは呆れた顔をしてつっこむ。
師匠を呼び捨てで呼ぶ人間も稀にいるが、カタリナのように呼ばせている人間はあまり見たことがない。
「おねえ――」
「師匠とお呼び」
フィアの台詞を遮ってカタリナがいう。
自分で呼ばせておいて、人前で呼ばれるのは恥ずかしいらしく、カタリナはかすかに赤面していた。
イグニスはそれを流すことに決める。
「こっちも魔法は使えねぇよ。せいぜいコントロールができるようになったぐらいだ」
「同じくらいね。ちょうどいいわ」
勝負する必要なんてないとフィアは言おうと口を開きかけた瞬間、カタリナが思いついたと手を打った。
「コントロール対決よ!昔、交流会でやったでしょ」
「覚えてねぇ。そもそもろくにいってなかったからな」
「そうだった。寝てるか厄介者扱いされてたわね」
「ま、やるなら庭があるぞ」
面倒になったイグニスはそれだけ言って、後はカタリナに任せることにした。
どうせ断ったところでまたすぐに挑みくるのは目に見えてるので、諦めることにしたのだ。
見習いが使う程度の魔法には充分な庭で、魔法勝負が始まることとなった。
的はそのまま使うとスコットに有利になってしまうので、カタリナが魔法で作った即席の的を使う。
同じ配置のものを二つ作る。一分間で多く的を壊せた方の勝ちだ。
「よーい、はじめ!」
スコットとフィアはやっとコントロールがマシになったといったところで、あまり勝負らしい勝負にはなっていなかった。
スコットは一つ一つ丁寧に打ち出してはゆっくりと確実に当てていく。
フィアは次々と球を打ち出していくが、的を通り過ぎていくだけでなかなか当たらない。
「時間よ!」
残った的はスコットもフィアも3つで引き分けだった。
悔しがるカタリナは何度か勝負をさせるが、結果は毎回引き分けで終わった。
「もう一度よ」
「カタリナ、さすがにこれ以上は魔力切れになる」
「……そう、ね」
横で見ているだったイグニスが止めに入る。
まだろくに魔法も使えない二人は魔力の無駄遣いも多く、すぐに魔力切れを起こすのだ。
イグニスはフラフラといる二人に青い液体の入ったコップを渡す。
「魔力回復液だ。不味いけどな」
「ありがとうございます」
「……うぅ、ホントにまずい」
素直に受け取り、それを飲み干したスコットとフィアは若干涙目になっていた。
カタリナは何か言いたそうだったが、この事態を招いたのは自分なのでなにも言わなかった。
静かになったところでグーーとスコットのお腹が鳴ったのはご愛嬌。
こんなときでも腹時計は正確だった。