ちょっとした昔話1
トアルとグラジオが来てから、自然と台所に立つのはトアルだった。
ガサツな料理なわけでも、格別に美味しいわけでもなく、平凡。
でも、スコットからすれば美味しいわけで、可もなく不可もなくでも十分なのだ。
「ありがとう、スコット君。師匠たちに任せると大変なことになるから覚えるしかなかったんだ」
「必要に迫られたってことですか」
「うん」
トアルが苦笑しながら頷き、スコットの空いた器にスープのお代わりを注ぐ。
「大師匠は警備団だったから料理自体は作れるんだけど、一度に作る量が多すぎて」
「ルピナス先生はあまりにも単調で……」
「ああ、まぁ」
イグニスも知っているようで呆れた声をだす。
大師匠ことアレスは量を減らして作るということをしないために、一度に出来上がる量が多くよく料理を減らすための手伝いに呼ばれた。
同じものが毎食、数日間も食卓出されてトアルもルピナスもゲンナリしていることもよくあった。
ルピナスは面倒臭がりなことなどから、時間がかかったり、煮込み料理はほぼ作らず、単純に焼いただけや炒めただけの味付けもシンプルすぎる料理が多い。
「魔法の勉強より料理の方が必死だったかもね」
トアルがそう言ってクスリと笑えば、スコットが何かを考え込んでいる。
「どうした?」
「美味しい料理が作れる師匠がいると弟子は料理上手じゃないんだなぁって」
「そういうわけでもないと思うけど」
スコットがしみじみと考えている事を声に出し、トアルが困ったような顔をする。
必ずしもということではないが、否定もしきれない。
イグニスがため息を吐けばスコットはだってと続ける。
「カタリナさんも師匠もそうだから。反対もあるみたいですけど、フィアさんとか」
「否定はしない」
自分たちの料理下手、そしてスコットの知る限りを考えると否定ができない。
カタリナが来たときに弟子のフィアが料理を作ったことをイグニスはトアルたちに説明する。
「今もそんな感じなんだ」
「ああ、手伝いはいらないって笑顔で釘を刺された」
「カタリナちゃんも変わらないんだね」
カタリナの料理下手は本人の口から聞くことはなかったが、その師匠から聞いている。
暗黒物質にならないだけマシなようだが。
「そのカタリナさんとも仲が良かったんですか?」
時々トアルの話に出てくるのでグラジオが尋ねてみると、イグニスがすぐに否定をしてトアルが苦笑をする。
「全然」
「カタリナちゃんはよくイグニスとケンカしてたから、イグニスは相手にしてなかったけど」
「あいつはそれほど強くねぇから」
「一応、優等生なんだけど」
トアルが呆れたように言う。
教科書通りの優等生と、実戦ばかりの優等生ではさすがに大きな差があるのか、いつもイグニスの圧勝で終わることが多かった。
まあ、実戦の相手が規格外ばかりなので仕方ないといえば仕方ないのだが。
「規格外が多すぎると感覚までおかしくなるんですかね」
「そうだね。師匠たちを基準にしちゃってあれって思うときあるし」
それについてはスコットもなんとなくわかった。
イグニスの強さが分かってきたが、センやトネリコの戦いかたを見ていると平均がよく分からなくなる。
彼らの戦い方はイレギュラーであって比較に使うものではないのだが。
――ドン、ドン。
ノックの音が響いてイグニスが出れば、師匠にお使いを頼まれたというカタリナの姿があった。
ありがとうございました。




