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トアルの魔法

「えっと、どの属性も基本は同じなんだけど……役割っていうのかな、が違うんだ」


 トアルは人差し指を立ててそう言った。

 魔法を使うため自宅の庭でスコットは地面を座ってトアルの話を聞いている。


 そのすぐそばではイグニスがグラジオに中級魔法の青い炎を出すための解説をしていた。

 イグニスも感覚的に魔法を使うことが多いのだが、師匠のセンのせいか多少は人に分かりやすく説明出来るらしい。


 それにしてもとスコットはイグニスを視線を向ける。

 魔法のコントロールはそれほど上手くないのは聞いていたし、センと比べれば繊細のせの字すらないイグニスは攻撃魔法だけはかなり得意のようだ。

 しかも、やたらと攻撃力の高い魔法ばかりで、センに魔法を当てるために連発していた賜物だろうか。


 スコットのその様子に気がついたトアルは、スコットが何を考えているのか予測かついたらしく苦笑いしていた。


「僕としては助かってるんだけどね」

「攻撃魔法がですか」

「うん」


 攻撃魔法が得意な友達がいて助かると言うトアルの言葉に理解ができずスコットが聞き返す。

 いじめっ子といじめられっ子の構図しか思い浮かばない。


 トアルは恥ずかしそうに笑って、自分の魔法の得手不得手を教えてくれる。


「僕は攻撃魔法は全く言っていいほど使えないから、その代わりに受け流すのは得意なんだ」

「受け流し……」

「防御専門っていう感じかな。だから、攻撃専門のイグニスがいるとバランスがいいんだ。実際、それで助かったこともあるから」


 そういってトアルはイグニスが放ったばかりの魔法に腕を伸ばすと、空に向かっていた火球は向きを変えて地面に向かって落ちて行く。


「トアルっ!」


 トアルのせいで火球とぶつかりそうになったイグニスはトアルの名を呼び、トアルはごめんと謝る。

 近くで魔法を使われるとどうにも受け流したくなるらしい。


「受け流しはあんな感じなんだけど、流す方向を間違えると周りに被害が出るからね」


 トアルの説明を耳にしたイグニスは、声をあげてスコットに向けて言う。


「あれがトアルが出来る唯一の攻撃だ」

「先生は人に向けて魔法が打てないので」


 グラジオの言葉に頭をかいたトアルはその通りだと困ったように笑った。

 今の時代、争い自体はそこまで起こるものではないので人に向けて魔法を使えなくても問題はないのだが、身を守るためには少々問題もあったりするのだ。


「周りに助けられてるのは大きいけどね」


 二人の師匠やイグニスなど、戦いに特化した人間がいるからこそ、そこまで負担なくトアルはいられるようだ。


「受け流しはそうだね、魔法の飛んでいく向きを変えるって感じかな。風向きを変えるとでも言えばいいかな」

「なるほど」

「うん。ウォーターボール」


 トアルは水の球を宙に出す。

 それはゆっくりとスコットから見て右へと動いて、一定の間隔で新しいウォーターボールが出現していく。


「今これは風の力で動いてるんだけど、ウォーターボールを他の方向に動かして欲しいんだ」

「動かす……」

「そう、風の向きを変えることが出来ればどんな魔法でも受け流しのやり方は同じなんだ」


 スコットは風魔法をウォーターボールに向けて放った。

 けれど、それは微塵も動かずゆっくりと右へと動いて行く。


 もう一度スコットが風魔法を放って、トアルはその様子を見てスコットの魔法が安定していないことに気がついた。


「スコット君、もしかして魔法の暴発起こしたことある?」

「は、はい。師匠がかばってくれて」


 トアルが頷くと笑った。


「暴発なら怖がらなくても大丈夫。スコット君の魔法くらいなら暴発させずに抑えられるから、それにイグニスだって対処は出来るから」

「えっと、はい」


 それだけ魔力が多いと言うことになる。

 今も一定間隔で出現し続けるウォーターボールにスコットは気づき、今やっとトアルの魔力の多さに気がついた。

 これなら、スコットの魔法を抑えるくらい簡単だろう。


 スコットはさっきまでより少し強い風魔法を発現させるがウォーターボールは動く気配はなく、ムゥと唸る。


 力尽くになり始めて魔法の威力は強くなりトアルは周囲に魔力を張り巡らせる。暴発対策だ。

 危うそうなスコットの魔法を素早く囲んで周りに被害が出ないようにする。

 持った魔力が多いから出来る技だ。


「少しコツがいるんだよ。イグニスや師匠は割と得意なんだけど、どこを突けば一番脆いか探すんだ」


 感覚頼りになってしまうので得意不得意の幅が大きいと言う。

 今回は感覚を掴むためのものなので分かりやすくしてあり、観察、推測する力があればそのうち気づくようになっている。


 途中、魔力が切れる前にポーションを飲みながらスコットは動いているウォーターボールを眺める。

 全て一定の距離を保ち、よく見れば止まったり動いたりして、この庭を越えると魔法が切れるようになっている。


 スコットは闇雲に魔法を打つのを止めると目の前のウォーターボールが止まった瞬間に魔法を打った。

 するとそれは右に動かずにスコットが魔法を打った方向、真っ直ぐに動く。


「でき、た」

「うん、おめでとう、スコット君」


 拍手をするトアルは魔法の発現を止める。

 それにしても、一切のブレなく魔法を出し続けるのはかなり難しいのではないかとスコットが思う。

 イグニスが同じことをやったらガタガタになると予想はつく。

 まだ残っているウォーターボールとイグニスを交互にみてスコットはそんなことを思った。


「魔力が多ければ細かいコントロールは必須だからね。毎回暴発させるわけにいかないから」


 スコットの考えが分かったトアルがスコットに言った。

 魔力が多いのもいいことばかりではないようだ。


ありがとうございました!

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