友達でいたいから
読んでくださる方々に感謝を!
――控えめなノックの音。
聞こえなくてもおかしくないような、そんな控えめなノックの音がする。
イグニスにとって不思議なほどハッキリと聞こえるその音は、どこか懐かしい気すらしてしまう。
そんなはずはない。
けれど、そうとしか思えない。
気のせいようなノックの音をしっかり聞き取ろうと耳を澄ませるスコットをよそに、イグニスは玄関に向かっていく。
玄関にに近づくにつれて早くなっていく心臓の音を押さえつけて――。
腕が重い。
ドアノブに手をかけて力を込める。
扉を開けることさえ怖くなる。
ただいつものように扉を押せばいいだけだ。
だってそこに、あいつがいるはずもないのだから。
玄関の戸を開いて、そこにいたのは間違いなく――。
「ト、アル……。なんで……」
うろたえたイグニスが出せた言葉はそれだけだった。
驚くイグニスの姿に慌てふためきながら、ちょっとだけ困ったような笑顔を見せるのは、紛れもなく友人のトアルだ。
「えっと、その、センさんに会って……。うん、久しぶり、イグニス。元気だった?」
「あ、ああ。そう、だな。トアルも元気そうでよかった」
久しぶりの再会は嬉しいはずのものなのに、トアルとイグニスの間に流れるのは気まずい空気だ。
やや間があって2人が同時に口を開く。
「ごめん‼︎」
「悪かった‼︎」
顔を上げて目があった2人は、それだけで相手が怒っていないことを理解して互いに胸をなでおろす。
「ずっと、会いにいくのが怖くて時間がかかっちゃったけど」
「それは俺もだ」
「うん。お互いにね」
何も変わらない。かつてと同じように笑いあえる。
変わったことがあるとすれば、互いに歳をとったことくらいか。
落ち着きを取り戻したトアルは、数歩後ろにいる弟子のグラジオをイグニスの前に立たせる。
「最初に紹介するね。この子は僕の弟子のグラジオ。ここに来れたのはジオが背中を押してくれたからなんだ」
「そうか。よろしくな、グラジオ」
「はい。よろしくお願いします、イグニスさん」
グラジオはイグニスに目を合わせてにこりと笑みを浮かべる。
「それにしても、先生たちからよくお話を聞いていたのでお会いできて嬉しいです」
イグニスがトアルへ視線を向けると、トアルはワタワタとあわてる。
「ほ、ほら、友達だって呼べるのはイグニスくらいだったし、大抵イグニスといることが多かったから」
「何もいってないだろ」
「うん、そうなんだけど……なんか、ね」
と、そこへ家の奥からスコットが顔を出す。
「師匠、分からない問題があるんですけど……」
「ちょうどいい、スコット、こっちに来い」
「わかりました」
疑問符を浮かべながらスコットはイグニスのもとに行くと、玄関先にはイグニスと同じ歳くらいの青年と、リオンと同じくらいの少年が立っている。
「俺の弟子のスコットだ。スコット、こっちは俺の友達のトアルとその弟子のグラジオだ」
「……師匠の友達?」
イグニスと少しあわてているトアルを見比べてスコットは首をかしげる。
「本当に友達ですか?」
「ああ。何が言いたいんだ?」
「……だって」
スコットが言葉を悩んでいるとグラジオがクスクスと笑ってスコットの言いたいことを代弁してくれる。
「この状況だけをみたら、いじめっ子といじめられてる人にしか見えませんよ」
目つきの悪いイグニスと気弱そうでうろたえあわてるトアル。
トアルがイグニスに脅されているようにも見えなくない。
友人同士だと聞かされても素直に信じることはかなり難しいだろう。
「まさか弟子に言われるとは思わなかった」
「相変わらずお前がオドオドしてるから」
「イグニスだって相変わらず目つきが悪いから」
縮こまると思えば、トアルはイグニスに言い返してみせて、懐かしいやりとりに顔を見合わせていつの間にか笑みがこぼれる。
互いに何の気負いもない対等な友人同士のやりとり。
空白の時間なんてなかったかのようだ。
本当に友人同士らしい。
と、なると性格的に2人が話す機会はないような気がするとスコットが難しい顔をしていると、トアルが教えてくれる。
「いじめられてる時にイグニスが助けてくれたんだ」
「納得です」
ピコンと効果音でもなりそうなほどのスコットを見て、イグニスはため息をつく。
弟子にどう見られているのかと、今更ながら疑問に思うイグニスである。
ありがとうございました。




