もうひとつ
「それで、今日はなんの用事かしら?」
イグニスとスコットの対面に座るキャロラインが尋ねる。
持っていた袋からイグニスが浄水魔道具を取り出してキャロラインに渡す。
「最近、調子が悪いから一度見てもらおうと思って」
「うーん、そうね。これは……」
キャロラインはニッコリと笑むと、リディに渡す。
「リディがやるべきね!」
「へ?お師さんの方がって、あ〜、そうっすね」
「責任持ってやりなさいな」
否定していたリディは魔道具はみて、何かに気づき、自分が担当になることを了承する。
「自分で作ったものっすからね」
ちょっとだけ時間をくれと、奥の部屋に引っ込んだリディは、イグニスが持ってきた魔道具を分解をして原因を調べて戻って来る。
「いや〜、大切に使ってもらえるのは職人として嬉しいことっすね」
リディがニコニコと満足気に笑って言って、それから席に座ると魔道具の状態について説明をしてくれる。
「日頃の手入れを怠らず感謝っす。で、本題としては――」
一呼吸を置いてリディが話し始める。
「修理をするなら、ほぼ全てのパーツをかえることになるっす。買い替えた方が早いくらいっすかね」
「そうか」
「一番重要なパーツにヒビが入ってるっすから、修理だとそれに合わせたパーツに全部かえないとなんすよ」
近くにあった紙の裏にリディが何かを書いて、イグニスに見せる。
「値段としてはこんな感じで、あとはまぁ、イグニスさん次第っす」
「修理できるなら修理で。それとスコット用の魔道具が欲しい」
「二時間で仕上げるっす!そっちはお師さんに任せるっす」
早口で言ったリディはそそくさと工房の奥に引っ込んでいった。
キャロラインは棚の前に行くと棚の箱を指差しながら何かを選んでいる。
「ウフフ、過保護ねぇ。それなら、もっと適任がいると思うけど」
キャロラインは棚から箱を取り出すとイグニスとスコットの前に置く。
中には腕輪や指輪、ストラップのようなものなど、様々なものが入っている。
「基本性能はどれも同じよ。形と細かな機能が違うってるわ」
「質については信頼できるな。スコット、好きなのを選んでいいぞ」
「わかりましたけど、これって何ですか」
話についていけていなかったスコットは、急に話を振られて疑問符を浮かべる。
何だかよくわからないうちにどんどんと話が進んでいる。
「これは防御魔法のための魔道具よ。手順を簡略化できるの。消費魔力が少なくなる効果もあるわ」
「そうなんですね。それじゃあ、セン師匠も持ってるんですか」
キャロラインからの説明を受けて、スコットがイグニスに尋ねる。
「いや、あいつは……」
「センちゃんなら協会から持たされていたはずだけど、あるだけジャマになるって身につけないのよね」
「……ジャマになる、ですか」
驚いたふうなスコットの言葉に、キャロラインが大きく頷く。
「そうよ。センちゃんみたいな子は魔道具を通さずにいた方が早いのよ」
「確か、横やりを入れられるようなものとかなんとか」
あくまで補助具であるといった考えもあるのだが、コントロールがかなり上手い魔法使いであればあるだけ邪魔になることもある。
「これはかなり特殊な例よ。滅多にないことだわ」
「だからといって使ってないわけじゃないけどな」
「あら、初耳ね。どこの――」
キャロラインが興味を持ってイグニスに尋ねようとして扉が大きな音を立てて開かれる。
「出来たっすよ!以前よりパワーアップしてあるっす」
「早かったわねぇ」
見た目だけが変わらない魔道具をリディから受け取ったイグニスは目視で確認した後でしまった。
それから、種類が多すぎて決められないスコットに、リディがいくつかの候補をあげてくれる。
「お師さんのはどれも性能はいいんすけど、この辺りがいいっすかね」
リディが選んだのは二つ。
赤の腕輪と、それと五色の玉が繋がっているストラップだ。
「腕輪は攻撃魔法の感知、こっちのやつは確か各魔法の安定とかそんな感じっすよ」
「両方もらってく」
「あら、ありがと」
キャロラインとリディは帰って行くイグニスとスコットを見送りながら、何かを話している。
「ところで、お師さん。あれって試作品っすよね」
「ええ、そうよ」
「高性能すぎて商品化出来なかったものっすよね」
キャロラインは頰に手を当て、困ったふうに笑う。
「まわりが秀逸すぎて、あの子の基準って高いのよ。だから、あれくらいじゃないとお眼鏡に叶わないのよ」
「基準にする人たちではないと思うっすけど……。イグニス君の身近な大人を考えると否定はできないっす」
呆れたように笑いをこぼして、リディは高性能の魔道具作りにやる気を出すのだった。
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