魔道具職人
リザードマンの馬車から降りて、歩くこと五分。
スコットはイグニスにおぶわれての移動だ。
工房の近くは道が整備されておらず、今の疲れ切ったスコットに歩かせるのは不安だとイグニスがおぶっている。
木々がひらけて、建物が見える。
「ほら、あそこだ」
「おー、あれが……」
いつもと違ってスコットの声に元気がない。
一瞬だけ元気を取り戻したが、通常状態に戻れるほど回復してないらしい。
「スコット、その、驚くなよ」
「?何がですか」
やっと少しだけ落ち着いてきたスコットに、イグニスがためらうように何かを言いかけて、近くから野太い声がかけられる。
「あら、イグニスちゃんじゃないの。随分と久しぶりね」
声の主はスキンヘッドの男で、その逞しい筋肉を見せつけるようかのようなタンクトップ姿をしている。
ちなみにタンクトップは、華やかな花柄で女性が身につけるような柄だ。
「お久しぶりです。ジョ――」
男の眼光が鋭く光り、イグニスが呼びかけた名前を訂正する。
「キャロラインさん」
「よく出来ました。まず聞きたいのは背中の子ね。ぐったりしているけど」
キャロラインがスコットに視線を移す。
「馬車の揺れに耐えられなかったみたいで」
「慣れないと辛いものね。中に椅子があるから早く休ませてあげて。それと――」
工房の扉を開けたキャロラインは、中に向かって大きな声を出す。
「リディ!水を持ってきてくれる?お客さんよ!」
「今行くっす!」
ドタドタと走る音が響いて、中からやって来たのは深い緑の作業着を着た女性だ。
顔は服同様にところどころ黒く汚れていている。
「果実水でよかったっすか」
「ええ、ありがとう」
キャロラインはそれをスコットに渡すと、スコットは戸惑いながら礼を言って受け取り両手で持ってチビチビと飲む。
「やだ。可愛いわぁ〜」
スコットの仕草に、キャロラインは片手を頰に当てて愛でるように見つめる。
リディは少しだけ青ざめているスコットに見て、なんとなく察しがついたようで頷いている。
「いや〜、懐かしいっすね。自分はよくゲロってたっすから」
笑うリディにキャロラインはため息をつくと、棚に置かれているタオルを桶の水で濡らしてリディの顔を拭く。
「全くあんたは、これじゃあ誰のお顔かわからないじゃない」
「お客もいるのに恥ずいっすよ」
「なら、少しくらい身なりに気をつけなさい」
キャロラインによって汚れを落とされたリディはお客の顔を見る。
「イグニス君じゃないっすか。弟子時代ぶりっすね」
リディはイグニスの顔をみて、水を飲んでいるスコットに視線を移す。
「協会から聞いてたっすけど、本当に弟子をとったんすね」
「ああ。弟子のスコットだ」
リディはスコットに目線を合わせるようにかがんで、ニッと笑う。
「自分はリディーナっす。気軽にリディと呼んでくれたらいいっすよ、スコット君。んで、こっちの形容しがたいのがお師さんす」
「ちょっと、形容しがたいってなによ」
自分でもわかってるわよとリディにプンスカと怒って、スコットに目線を動かすとキャロラインはニコニコとする。
「キャロラインよ、スコットちゃん。キャロちゃんって呼んでくれると嬉しいわぁ」
戸惑いながらスコットが出した決断は――。
「えっと、リディさん、キャロさん。よ、よろしくお願いします」
キャロラインが自分の胸を押さえる。
「もう、可愛すぎ!」
「よろしくっす」
この場をどうしていいかわからなくなったスコットはイグニスに目で訴える。
さっきまで違う意味で神経がすり減りそうだ。
「これから来る機会も増えるだろうし、慣れろとしか言えないけどな」
イグニスは頰をかく。
そうそう出会うこともない人種だろうし、こういった人たちは周りの目を恐れて自分を隠していることも多いはずだ。
ここまで開けっぴろげていられると、嫌悪よりもどう接していいか戸惑ってしまう。
実際、キャロラインは腕はいいものの、あまり依頼は来ないのだ。
「キャロラインさんは男だけど、心は女なんだ。だから、まあ、いかつい外見の乙女として接すれば大丈夫だ。センからの受け売りだけどな」
「そういうこと。協会も認めてくれてるからリディが弟子なのよ」
基本的に同性の弟子を取ることなるので、キャロラインはかなり珍しい。
「可愛い弟子のために医学なんかも勉強したわよ。身体だけは同じにならないから」
「力仕事が多いっすからむしろ助かってるっすよ」
「そう、ありがとう」
リディに微笑んでから、キャロラインはイグニスの方を向く。
「それじゃ、お話聞きましょうか」
ありがとうございました。




