魔道具職人のもとへ
イグニスは魔道具を軽く叩く。
叩いて、叩いて、だんだんと乱暴になっていくが、魔道具は一向に動く気配を見せない。
「師匠、そんなことしたら余計に壊れますよ。へこんできてますし」
「やっぱ、寿命か。修理か買い直しか」
手に持った両手サイズの魔道具はイグニスがセンから家を出るときにもらったものらしく、少々年季が入っている。
貯水と浄水ができる小型の魔道具で、なければないで問題はないらしいが、あったほうがいいイグニスは言う。
「なくても大丈夫じゃないんですか」
「魔法で出した水も安全なわけじゃないからな。それに川の水にしても浄水はした方がいい」
自分一人ならすぐに修理も買い直しもしないのだが、スコットのことを考えると使えるものに早く変えたほうがいいだろう。
そうなると、魔道具職人に修理を頼みに行く必要がある。
「今からなら間に合うか」
時計を確認したイグニスは、スコットに出かける準備をするように言って、通信機でどこかに連絡をしてから、自分も外出の支度をする。
しばらくすると玄関の扉がノックされ、イグニスが対応してスコットが呼ばれる。
「師匠、これは?」
玄関前にはリザードマンを3体ほど引き連れた男がいる。
リザードマンは鎖で繋がれていて、繋がれた先に馬車のようなものがついている。
ただし、屋根はなくどちらかといえば荷物を運ぶためのものといった感じがする。
「ドラゴンは高いからな」
「……リザードマン」
イグニスがいるため恐怖はしていないスコットだが、移動手段を徒歩、馬車、ドラゴンしか知らなかったので驚きがある。
ただ、絵面にカッコ良さはなく乗るのにためらいもある。
「シートベルトはしっかり締めてくださいね」
イグニスとスコットがシートベルトをして、しっかりと座っていることを確認すると男は御者席に乗りリザードマンを走らせる。
適応範囲が広いリザードマンは、調教師がしっかり手懐けていればどんな悪路もものともしないので足として助かるのだ。
難点があるとすれば、かなり揺れるため長距離の移動は大変なことか。
揺れる車内にシートベルトはしていても不安があるのか、支えが欲しいのかスコットは隣に座るイグニスにしがみついている。
揺れがひどくスコットには喋るのも辛いのか、顔の表情でイグニスに訴えかけている。
「そうだな、20分くらいか」
イグニスの言葉にスコットが目を見開く。
この状態がそんなに続くのかとスコットは落ち着かない様子だ。
「途中に休憩を入れましょうか?」
こちらを振り向いていないはずの御者は、スコットの様子に気づいているようでそんなことを提案してくれる。
「頼む」
「了解です。もう少しだけ我慢して下さいね」
少し開けた場所で一度休憩をはさみ、それからまた走りだす。
平らな道を走り続け、御者がその途中でリザードマンを止めて、振り返る。
「この先けっこう揺れるのでしっかりつかまってて下さいね」
先ほどまでと比にならないほどにガタガタと揺れる。
声を出したら舌を噛んでしまいそうなほどで、乗り慣れていないスコットの顔はだんだんと青くなっていく。
目的地までは五分くらいだったのだが、たどり着いた頃にはスコットは浅い呼吸を繰り返していた。
気持ち放心状態のスコットをイグニスと御者がゆっくりと降ろす。
「これを楽しいと言う人もいるんだけどね。君は苦手みたいだね」
スコットをみて苦笑しながら御者はスコットの頭を撫でる。
「今度は揺れないシートも用意しておくよ。また、ご利用くださいね」
御者と別れたイグニスたちは魔道具職人の工房に歩き出した。
ありがとうございました。




