美名と悪名
――コン、コン。
ノックの音がして、数秒の間の後で扉が開かれる。
開いた扉からピョコッと顔を出して覗いたのは、魔法協会職員の若い女性だ。
「あの、イグニスさんのお弟子さんがここにいると聞いたのですが……」
「いるよ。どうしたの、マイア?」
オドオドとしながらマイアは全身が見えるようと部屋の前に立つと一礼をする。
「セルジュさんもいらっしゃったんですね。
えぇとですね、イグニスさんからの伝言がありまして」
「イグニスから、なんて?」
「えっと、会議が終わるまで時間がかかりそうなので、魔法協会の誰かと買いに行ってこいと……」
「ありがとう、マイア」
マイアに礼を言うと伝言を頼んで悪いけどと言って、セルジュはウォルスに伝言をするように頼む。
「ウォルスに伝えてくれる?後は任せたって。さ、行こうかスコット」
あまり状況を理解できていないスコットを連れて、セルジュは魔法協会から出かけて行った。
新人のマイアには止める術もなく、ただただ出かけるセルジュたちを見送るしかなかった。
魔法協会のすぐ近くにある雑貨屋までセルジュと一緒に向かう。
スコットには妙な違和感があったのだが、それが何かはわからないまま、雑貨屋につく。
イグニスに割られたコップの代わりを悩んでいるうちにそんなことは頭から抜け落ちていたスコットである。
ヒヨコと犬がモチーフのマグカップを手に悩むスコットの手からヒョイと取るとセルジュは会計を済ませる。
「ありがとうございます」
「片方はイグニスにプレゼントってことで」
「師匠使ってくれるかな?」
「スコットが一生懸命悩んだって言っておけば使うよ。なんだかんだ甘いから」
セルジュと一緒に魔法協会までの短い距離を歩きながら、スコットは違和感の正体を何となく掴む。
「そっか。いつもと違うのは視線だ!」
「視線?」
スコットの言葉にセルジュは立ち止まって、次の言葉を待つ。
「はい。えっと気のせいかもしれないけど、師匠の時は時々睨むような嫌がるような視線が、その、あって――」
「ああ、そういうこと」
セルジュはスコットの伝えたいことを理解して、納得をする。
イグニスはその場の和を乱していたりと、彼の言葉や行動のせいで恨まれていたりする。
誰かを守ってもカタリナと違い、相手に手を出されることも多く、多人数相手にかすり傷程度で勝ってしまうから余計に恨まれたり、怖がられたり。
その上、魔力量=強い、というのを覆しているセンの弟子なのでそれもまた理由の一つだ。
センはセンでその才能よりも、魔法協会との繋がりが強く贔屓されていると冷ややかな目で見る人間が多すぎるのだ。
「二つ名を持つ師を持った弟子の宿命かな」
「しゅく、めい」
「そう。イグニスの二つ名は悪名の意味合いが大きいし、センはその実力を疑う人が多いから悪名もついてるしさ」
通りでイグニスが教えてくれないはずである。
「イグニスは勝手に教えると怒りそうだから言わないけど、センはペテン師って悪名と魔導師って美名があるんだ。他にもあるけどね」
「ペテン師と魔導師」
クスクスとセルジュは笑うと、スコットに理由を教えてくれた。
ペテン師はセンの実力を疑い魔法協会の贔屓によって成り立っていると思われているから。
魔導師は優れた魔法使いを呼ぶもので、魔力量の少ないセンが大抵の魔法使いと渡り合えるためにそう呼ばれている。
大概は化け物呼ばわりされていることの方が多いが。
「まぁ、基本的に二人とも気にしてないけど、堂々とばかにしてくる相手には反撃してたなぁ」
「セン師匠も?」
師匠なら容易に想像がつくのだが、常に笑顔のセンだと想像ができない。
そうなる前に何か手を打ちそうだとすら思うのだが。
「たまにね、言ってたよ。どうせ信じる人は少ないからその方が早いって。助太刀する友達もいたみたいだし」
「……なるほど」
なんというか、スコットにはまだ想像出来ないことである。
ただ、表立ってばかされた時、自分は動けるだろうか。スコットは不安になった。
頭にポンと手が置かれる。
「誰の弟子っていうのはついて回るものだけど、ちゃんと自分を見てくれる人がいるなら大丈夫」
セルジュはそう自信を持って言い切った。
それから、スコットはまたセルジュのそばでイグニスを待つ。
イグニスと一緒に歩く魔法協会は、冷ややかな視線どころか好意的な視線が多く、話しかけたくてうずうずしているのが伝わってくるので、若干の恐怖を感じるスコットである。
ありがとうございました。
ちなみにセンとイグニスセットで傀儡師と傀儡人形なんてのもあります。




