魔法協会とスコット
「スコットじゃないか。一人でどうしたんだ?」
魔法協会の入口付近に用意されたベンチに座っているスコットに声をかけてきたのはウォルスだ。
退屈そうに床を見つめていたスコットは顔を上げる。
「ウォルスさん。師匠は会議って言ってました」
「終わるまで時間がかかると思うが、ずっとここで待っておくのか」
「はい」
スコットは大きく頷くと頬を膨らませる。
留守番せずについて来たのはどうやら訳があるようだ。
「だって、師匠がボクのコップを割ったんです。気に入ってたのに」
「そうか、通りで」
――イグニスが疲れた顔をしていたわけだと心の中でウォルスは続ける。
別の日に買いに行こうと言っていたのだろうと推測するが、スコットは断固として譲らなかったのだろう。
「通りで?」
「いや、なんでもない。それよりずっとここにいても退屈だろ」
「それはそうですけど」
「中で待つといい」
ウォルスは時計を取り出すと時刻を確認すると協会内部、職員専用の通路にスコットに案内する。
ついて行った先の扉をウォルスはノックもせずに開く。
中には机に身を預けてだらけているセルジュの姿があった。
「トネリコめ、見張り強化なんかして、もう」
「セルジュ、休んでもいいぞ」
「ついに幻聴まで聞こえ始めたか」
ため息をついてウォルスはセルジュの視界に入る位置まで移動する。
「なんか本物っぽいけど、あのウォルスがそんなこと言うわけがない」
「仕事を追加してやろうか」
ウォルスの後ろをついてきたスコットが声をかける。
「こんにちは、セルジュさん」
ガバッと起き上がったセルジュはすぐさまスコットを視界に入れる。
先ほどまでのやる気のなさが嘘みたいだ。
「スコット⁈あれ、一人?ウォルスと一緒だし、なんで?」
「会議の後、買い物の予定らしい」
「あー、それはまた時間のかかる」
ウォルスの言葉ですぐさま理解をしたセルジュは、スコットがここにいる理由もわかったようだ。
「それなら、ここでゆっくりしてるといいよ。お菓子とかも出せるしさ」
「いいんですか」
「ああ。こいつの休憩がてらに相手をしてやってくれ」
セルジュが返事をするより先にウォルスが了承をする。
「そりゃ、スコットなら二つ返事でオーケーだけど、なんで僕が(面倒を)みられる側なの?」
セルジュのツッコミは華麗にスルーされ、ウォルスはスコットの事情は伝えるとセルジュの元にスコットがいると連絡をしておくと言ってどこかへ行ってしまった。
「せっかく時間が出来たし、食堂でも行こっか」
「食堂ですか」
「うん、そう。ここの職員用のね。暇なときは大抵のリクエストは受けてくれるんだ」
楽しそうに言ってセルジュはスコットを連れて、魔法協会の食堂に向かう。
食堂に入るとすぐに声をかけられる。
いかにも料理人といった感じの服装の、ヒゲを生やした初老の大男だ。
「お、新入りかセルジュ、それにしちゃあチビ助だな」
「イグニスの弟子だよ。ほら、今日は会議でしょ」
「そ〜か、あの坊主の。チビ助、何が食いてぇ、なんでも作ってやるぞ!」
「え?えぇと……」
突然、振られた問いかけにスコットは戸惑い、セルジュが助け舟を出す。
「センやイグニスじゃないんだから、急には困るって。おやつか軽食辺りでよろしく」
「ワハハ、そこは似てねぇのか。じゃ、いっちょ自慢の腕をふるいますか」
ちょっと待ってろよと料理人はキッチンに引っ込んでスコットはセルジュに促されて、ガラガラの食堂の席に着き、セルジュはその対面に座った。
キッチンからいくつもの声が飛び交い静かになるとキッチンから、何人もの料理人たちが出てきて、スコットとセルジュが座る場所へと次々に料理を置いていく。
そしてキッチンに戻らずにスコットを囲み好奇心に満ちた目を向ける。
するとキッチンから怒声が聞こえる。
「ゴラァ、てめぇら持ち場に戻れ!だいたい食い切れねえだろが。一人一品作りやがって」
蜘蛛の子を散らすように料理人たちはワタワタと持ち場に帰っていき、入れ替わりで大男がやってくる。
「ワリィな、チビ助。坊主のことを可愛がってた連中だからな、チビ助に会えて嬉しいんだ」
「センはよく手伝わされてたなぁ」
「セン師匠が?」
セルジュたちが肯定をする。
手伝わされたという言葉には引っかかるが。
大男の料理人が作った軽食を食べて、スコットとセルジュは食堂を後にする。
途中、スコットが誰の弟子か知った魔法協会職員たちの構いたそうな視線を浴びながら、スコットとセルジュと一緒に元いた部屋まで戻ると、イグニスが来るまで再びそこで待ち始めた。
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